部長の意図を部下に伝える。部下の動向を部長にわかってもらう。どちらも「課長」の重要な役割だ。課長たちの「全身アンテナ」ぶりは涙ぐましい。

「この企画は面白くないね」と部下に対してはときに、はっきりダメ出しすると話すのは、近畿大学の広報課長、加藤公代さん(46)。

「自分の担当する仕事については、最後まで担当者としての責任を持つように」

 が課長としてのモットーだ。

 部員の作った資料の確認を求められて、

「細かい確認は自分でやりなさいよ」

 と突き返すこともある。ただ、部下がなるべくそのことを引きずらないよう、当日か翌日には意識して世間話をしたり、普段通りの振る舞いで接したりするようにしている。

 部長に気圧されて言いたいことを言えない部下には、

「さっき言ってたとおりに主張したほうがいいよ」

 と背中を押す。

 ランチは、大学近くの飲食店などで可能な限り部下と共にし、プライベートなことも含めて把握するようにしている。出張や長期休暇の際に買うお土産にも、工夫をこらす。

「選ぶのは、どこででも買えるものではなく、並ばないと買えないようなもの。少なくとも、大阪では売っていないものを買うようにしています」

 広報部員が総がかりで挑んだ仕事を一からやり直さなくてはならなくなったとき、「せめてものお詫びに」と東京出張の帰りに選んだのは、当時「新しい東京土産」として人気急上昇中だった「麻布かりんと」。東京駅に併設された大丸百貨店で、行列に並んだ。

 新宿に店舗がある「BAKE」のチーズタルトも、部下が喜ぶ東京土産の一つだ。

 海外旅行では、女性部下で小学生の子どもがいるならこれ、あそこは子どもが男女2人だからけんかしないように色違いのおもちゃを一つずつ……などと、一人一人に違うものを選ぶ。

「ふだんの心遣いが丁寧で、すごく『見てくれている』という気がします。お世話になりっぱなしですね」(女性部下)

●男女それぞれのコツ

 Sansanシニアマネジャーの芳賀諭史さん(37)も、部下には積極的に話しかける。

 以前、別の会社に勤めていたときは、自分と同じレベルの仕事のクオリティーを周りにも求めて、チームのメンバーが疲弊し、脱落することもあった。マネジャーになったいま、その失敗は繰り返したくない。

「相手をとことんまで追い詰めることはやめました。いまは、なるべく楽しそうな雰囲気を出すようにしています」

 マネジャーになってからは、『3分間コーチ』というベストセラーの方法論を取り入れて、

「今日は◯◯社に行くの?」

「今月決まりそうなあの案件、どうなってる?」

 といった細かな質問をするよう、心がけているという。

「忙しいときも、たとえ短くても時間をとって、部下の話を聞き、それぞれの行動や動機に裏付けていこうとしています」

 男女の部下で、コミュニケーションの仕方を変えているのだろうか。

「男性部下には、ポイントを絞って結論から報告するように求めますが、女性の部下にはそういうことは言いません。じっくり話を聞くようにしています。『どんな細かいことでも、いつでも相談してね』と、よく言っていますね」(芳賀さん)

 効率的なコミュニケーションのためには「場づくり」も欠かせない。広島県庁の大内さんは、会議は必ず午前中にやることを提案し、課のルールにした。

「一日の早い段階で方針を決め、午後はそれに向かって突き進む。残業減にもつながります」

 フロアには、立って会議をする机を取り入れた。足が疲れるため、会議が長引かない。

 そんなフロアを、

「話しかけられやすい雰囲気を作るよう、机にふんぞり返らずなるべく声かけしながらうろうろしています」

 部下は用事もないのに上司に話しかけたりはしづらいものだから、と。

●ワイルドなほうを選ぶ

 メール世代で、「電話での連絡はどうしてもハードルが高い」という部下たちのために、国立国際医療研究センター医師の竹下望さん(40)は、「どんなときに上司に電話して判断を仰ぐか」を明確に定めた。

 院内感染という最悪の事態も想定される感染症患者が来た場合は、竹下さんが担当の日なら夜中でも、電話がかかってくる。

「システムを決めたことで部下も迷わず電話できるようになって、ストレスが少なくなったようです。僕たちも、部下が『一任されているから大丈夫』と突っ走ることを防げるようになりました」

 複数の選択肢のうち、どれを選ぶのもありだ、万一選択を誤ってもカバーできそうだ、と思うことについては、「一つ下のポジションの人に判断してもらって」と指示するのも竹下さん流のコミュニケーション。

「医師は『判断すること』をトレーニングしていかないといけない。その機会を早いうちからできるだけ多くもうけてあげたいと考えています」

 ヤフーの長谷川琢也さん(39)は、「上司は部下の才能と情熱を解き放つ」という会社のミッションを意識して、部下と相対している。

「枠とか組織とか、目に見えないものは気にせずに動くようにいつもアドバイスしています。元上司でいまはヤフーの社長である宮坂学が言う『迷ったらワイルドなほうを選べ』という言葉も、よくメッセージとして伝えていますね」

 各自の創造性がものをいうエンターテインメントの現場では、リーダーの指示の出し方がクオリティーを左右する。USJの津野庄一郎さん(46)は、スタッフにはある程度自由を与えるよう意識している。

「ショーの中で押さえたいポイントとその理由だけはしっかり話して、あとは自由に発想してもらいます」

 それはなぜか。

「プロデューサーの僕が、自分のイメージを1から100まで演出家に伝えてしまったら、彼らの存在意義がなくなってしまう。僕の仕事は、彼らの仕事と会社の戦略との間にズレがないように、かじ取りをすることですから」

(編集部・福井洋平、高橋有紀、竹下郁子)

※AERA 2016年10月10日号