スーパーでは手に入らない珍しい野菜や、オーガニックのこだわり食品が並ぶ。生産者がじかに調理法を教えてくれたり、「カレーには水の代わりにこのトマトジュースを入れて」なんてアドバイスをくれたりもする。

「太陽のマルシェ」は日本最大級の定期開催マルシェ。東京・勝どきの月島第二児童公園で毎月第2土・日曜に開かれる。2013年9月の初開催以来、現在までに30回以上。毎回100組を超える生産者が出店し、累計来場者は40万人を超えた。

 このプロジェクトを担当したのが、三井不動産のビルディング事業一部事業グループでグループ長を務める小川将さん(47)。13年当時は三井不動産レジデンシャルでマンションの大規模再開発を担当。タワーマンションが立ち並ぶ湾岸エリアで、地権者との合意形成などを進めてきた。

●時間の余裕を魅力に

 地権者にとってタワマンは、1棟に1千戸規模の大量供給。どんな人たちがやってくるのか、という不安がある。さらに、

「売って終わり、じゃない。マンションを買って住んだ人が、いい街だ、俺のふるさとだと未来永劫言える街にしなければいけないんです」(小川さん)

 そのために何をするか。このエリアに来ると楽しめる、快適で安全な暮らしができる、と実感してもらうこと。そこにスポットを当てて街づくりをしたいと小川さんは考えた。

 都心で働く人が湾岸部に住むと、千葉や埼玉に住む場合に比べて、通勤時間が短くなる。そこで生まれる時間の余裕こそが、街の魅力になるのではないか。マルシェで採れたての野菜を買い、それを料理して家族で食べる。そんな「豊かな朝時間」を提供したい。ここからマルシェの構想が生まれた。

 どうせやるなら、と目指したのは「日本一」。大学時代、やり投げで国内2位になった。

「最後に逆転負け。だから、日本一にこだわりがあるんです」

 マルシェ立ち上げの時、担当の部下は10歳下の男性1人だけ。

「ふたりで全部やりました。大変だったこと? ありませんよ」

 豪快な体育会的ノリでバリバリと進めていくタイプに見えるが、裏には繊細な気遣いがある。

 マルシェと競合しかねない地元の商店には事前に足を運び、理解を得た。順調に開催を重ねていく中でも、高い、おいしくない、飽きたなど、妻のママ友ネットワークから聞こえてくる辛辣(しんらつ)な声に耳を傾けた。

●人間関係がものを言う

 結果としてマルシェは、多様な役割を果たす「場」になった。エリアに古くから住む高齢世帯と、タワマンに住む子育て世代の交流の場。地方の生産者が消費者と触れ合い、商品を知ってもらうブランディングの場でもあり、子どもが収穫や種まきを経験できる食育の場でもある。

 実は小川さん自身、家族とともに勝どきに暮らす。盆踊りの手伝いをしたことがきっかけで地元町会の活動を手伝うようになり、役員を務める。今では70代の会長を「俺の東京の親父(おやじ)」と呼ぶほど慕っている。

 通常、公園での大規模イベントは、町会や区、警察の協力があってできること。小川さんが人間関係をきっちり築いてきたことが役立った。

 この4月からは、日本橋の再開発事業に携わっている。老舗が多く成熟した街。同じ中央区でも湾岸とは景色が違う。

「自分の街をよくしたいという思いはどこも共通。そこにいる人の“思い”が必ずある。その思いに貢献したい」

(編集部・高橋有紀)

※AERA 2016年10月10日号