「野球に10割バッターがいないように、どんな仕事も、関わったものすべてに満足がいくなんてことはないと思う。僕だって、『あの役はまだ少し早かったかなぁ』とか、後になって考えることはあります。でも、経験の中に、そういう“異物”が混ざることって大事なんです。反省とか落胆とか後悔から学ぶことって結構多い(苦笑)。一つのことをやり続けるのってすごく難しいけど、やり続けないと見えてこないもの、言えないことってたくさんあるから」

 藤原竜也さんが、蜷川幸雄さん演出の舞台「身毒丸」でデビューしたのは、まだ15歳のときだった。現在34歳。舞台の稽古終わりで、ノーメイクに私服姿で撮影に臨む。インタビューでも、「思ったことを好きに書いてください」と、何の気取りも衒(てら)いもなく、今取り組んでいる舞台への思いを、率直に口にした。

「俳優の仕事の面白さは、人や作品との“出会い”、そこに尽きると思います。今度の舞台は、韓国で93年に書かれた戯曲で、シンプルなんだけれどすごく深みがある。僕がどんなに脚本を読み込んだつもりでも、(演出の)栗山(民也)さんが発する言葉には、いつも発見があるし、人間に対する深い洞察があって、人間って面白いなぁ、複雑だなぁ、って考えさせてくれます。今までにない解釈を持って挑戦したいし、深い部分で変化をつけていきたいと思う自分が常にいるんだけれど、僕は、その感情の細かいところをなかなか言葉で説明することができない。稽古が始まってからは、栗山さんという演出家の才能に痺れる毎日です」

 作品に取り組むときは、周囲のスタッフや共演者との“温度”を合わせていくことを大事にしている。

「この間、主演映画を撮っているとき、ずっとこの舞台のことが気にかかっていたせいか、監督からの質問に、同じ温度で答えられなかったことがあったんです。『あ、これじゃダメだ!』って、慌ててこの舞台のことを頭から追い出して、映画に集中しましたけど(苦笑)。そんな失敗も含めて、いくつになっても勉強ですね」

 表現は、その人が持っているものの中から出てくるもの。だから、自分の情動を突き動かしてくれる刺激的な人と会うことと、芝居の場数を踏むことが、俳優を続けていく上で不可欠だと思っているそうだ。

「とくに演劇は、稽古する期間も長いし、美術も衣装も、一つひとつできあがっていく過程が見えるので、ゼロから物づくりしている感じがすごくあります。ただ、俳優なんていい役が来なかったら、廃れていくわけで(苦笑)。もうダメだと思ったら、自分で手を挙げて辞める、っていう選択もあるのかもしれない」

「いつかはハワイでカフェのオーナーをやってみたい」とジョーク交じりに彼は話すけれど、こんな才能、映像界や演劇界が手放すはずはない。

※週刊朝日  2016年10月7日号