「立ち止まって、スローペースでやってきたから、この役に出会えた」

 2012年にロンドンに移住し、東京から距離を置いた。映画主演は、実に7年ぶり。出会った役は自身とも重なる、「こじれた自意識」を持つ悲しき男──。

 映画の撮影中に50歳の誕生日を迎えた。芸歴は35年。立ち上る貫禄が、そのキャリアの濃さを物語る。

「昔は自分のエキセントリックな部分をやっかいに思っていました。でも、最近は少しおおらかに捉えられるようになった。この色はもう自分の持ち味なんだ、と動じなくなったというか」

 その“色”こそ、映画「永い言い訳」の主人公・衣笠幸夫(きぬがささちお)を彩る「原色」だった。監督の西川美和は、「本木さんこそ幸夫であり、幸夫こそ本木さんだとしか思えない」と断言する。

 7年ぶりの映画主演で本木が演じたのは、妻が死んでも涙すら流せないゆがんだ自意識とコンプレックスを持つ有名小説家。糟糠(そうこう)の妻を不慮の事故で失った日も不倫相手と情事にふけり、妻の死後も現実と向き合わずに、ときに酒におぼれながら現実逃避を繰り返す。本木自身とも重なるところがあるという。

「プライドが高いのに、健全な範囲での自信に欠けている。自分に立ち入られるのを拒絶するのに、興味を持たれないと不安になるところなんかは似ていると思います。妻に髪を切られながら彼女への不満をネチネチ言うシーンなんかは、私そのものというか……。実生活の私はもっと邪魔なエネルギーを出しますが(笑)」

 物語中盤、幸夫は知人の子どもたちの世話を買って出る。その兄妹たちと触れ合うなかで他人のために生きる幸せを知るが、依然、自意識にとらわれ続ける。

「監督からは、いらだちの奥におびえを残して表現してほしいと言われました。弱さ、もろさが見えるからこそ、幸夫への共感も生まれる……。監督の言う通りだな、と」

 幸夫は成長していく。自発的にではなく、他者とぶつかりフラフラになりながら。最後は「救い」にたどり着くが、映画はわかりやすい起承転結ではない。

「ほとんどの人生がそうでしょう。僕だって、そう。劇的な変化なんて、あまりないですから」

(文中敬称略)

(編集部・作田裕史)

(AERA2016年10月17日増大号には3ページにわたるインタビューを掲載しています)

※AERA 2016年10月17日増大号