「私は子供なんか産まない!」

 主演した映画「お父さんと伊藤さん」の中で、上野樹里さん演じる34歳の彩は、ヒロインらしからぬ本音をぶつける。20歳年上の男性と同居するアパートに、70代の父親が転がり込んでくるという、少々風変わりな設定。でも、それを演じるのが上野さんとリリー・フランキーさんと藤竜也さんの3人となると、俄然、空気がリアリティーを帯びてくる。

「他にも、『伊藤さんって、きれいごとばっかり言ってるよね。なんでそんなにいい人ぶるの?』とか。原作を読んだとき、実は、主要登場人物3人の第一印象があまり良くなくて(苦笑)。でも、たくさんの方に支持されている作品で、演じる上で、生活力とか人間力を必要とされる役だと思い、そこに興味を持ちました」

 ヒロインは髪が短いほうがいいんじゃないか。服装は、カジュアルだけれどもルーズではなく、どこかに女性らしさがあるものを好んでいて、下着は、たとえばストラップの部分が鮮やかな色をしていたり、そういうさりげないこだわりのある女性なんじゃないか。当時29歳だった上野さんは、40歳のタナダユキ監督と、彩の日常の細かい部分まで、じっくりと話し合った。

「彩のキャラクターにはちょっと暗さを感じたんですが、私は暗い表現をあまり好まないので……。本当に必要なものと無駄なものが判別できる年齢なんだろうなって想像して。自分なりに準備はしたつもりでも、現場では、藤さんとリリーさんの人間力にすごく助けられました」

 3月に終了したドラマ「家族ノカタチ」しかり、最近は、等身大のアラサー女性を演じる機会が増えている。「演じることで、いろんな人生を体感できて、役や作品や監督からいっぱいもらうものが多い」と、役者業の面白さを語りながらも、自分が“芸能人”というカテゴリーに括られることには、今も昔も変わらず違和感を覚えるという。

「仕事をして、そのお金で生活するっていうのは芸能人も一般人も同じ。私は、競争も好きじゃないし、ご飯も外食より家で食べるほうが好き。別にこういう世界に属しているから、派手な生活をしているわけじゃない。むしろスーパーに行ったり、お祭りに行ったり、そういう毎日の些細なことが、楽しくて仕方がない。生きていれば、みんな平等に年もとるし、これから子供を産んで育てたりすることになったら、自分の時間なんてなくなると思う。でも、私は一人で生きるより、人と関わるときの面倒なところが、むしろ心地いいと思えるんです。自分よりも何か他のことを優先できるのって、特別なことだと思うから。そういう経験が自分を豊かにして、ひいては役を豊かにするんじゃないかなぁ」

 仕事優先で一人の女性としての生活を疎かにしていた。そんな自分と、今は、大切に丁寧に向き合っている。

※週刊朝日 2016年10月21日号