14年前、「ドント・ノー・ホワイ」などが大ヒットし、グラミー賞を獲得。2007年には映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」に主演し、その美貌も注目されたノラ・ジョーンズ。10月5日に新作を日本先行でリリースするため、来日。2児の母でもある私生活、音楽について語った。

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 通算6作目となる新作アルバム「デイ・ブレイクス」を引っ提げて来日したノラ・ジョーンズは、おしゃれな街、青山のブルーノート東京でメディア関係者などを招いたライヴを9月、敢行した。その合間に本誌の表紙撮影とインタヴューを受けた。

 ライヴのリハーサルが行われていた午後3時──。

 まだスタッフしかいないがらんとしたブルーノートのステージに、ドラムスのみどりん(日本のトップ・ジャズ・グループ、ソイル&ピンプ・セッションズのメンバー)、ベースの小泉P克人とノラ・ジョーンズがいる。ノラはピアノを弾きながら、てきぱきと2人に指示を出し、音響スタッフには自分用のモニターの音量を少し上げるように言っている。

 ノラによれば、「ローカル(ツアー先の地元)のミュージシャンとプレイすることはときどきあるが、日本人ミュージシャンとプレイするのは初めて。ああっ、でも、学生時代にちょっとプレイしたことがあったわ」と言う。

 ノラの歌声は、まるで本番さながらでもあった。

 午後4時。表紙撮影。カメラマン、助手などが様々な機材を揃え、何度かテストを繰り返し準備万端で表紙となる主人公を待っていた。ノラ同行のスタイリスト、ヘアメイクが手際よく、ノラのスタイルを整え、まもなく撮影に入る。

 すると、ノラは自分の顔の右側(カメラマン側から見れば左側)のほうが好きらしい。

ビートルズにも影響を与えた父

 そちらサイドを中心に撮ってほしいと言ったが、正面から撮った写真の出来栄えを気に入ったのか、右側中心でなくてもいいわ、と言い直す。それでもカメラマンはそちらが写るように照明位置を変えた。

 バックドロップを背景にいくつかのパターンを撮影し、次にソファに座っての撮影。実にフォトジェニックだった。

 その後のインタヴューで、ノラは雄弁に語ってくれた。今回の新作は「原点に戻った」などと評されている。デビュー作を彷彿とさせる100%ノラ・ジョーンズのあの優しく温かみのある歌声とサウンドであふれている。すでにデビュー作以来の傑作ではないかとの前評判も出ている。

 ノラは言う。

「数時間のレコーディング・セッションを6日ほどで終わらせた。もちろん、そのあとミックスなどの作業はあるけど、前作に比べれば早くできたわ。むろん、レコーディングに入る前には曲作りをしたり準備したり時間がかかっているけど。実は前の作品は、朝11時から夜7時まで2カ月ほど毎日続けて録音したの」

 新作には、ニール・ヤングのカヴァー、デューク・エリントンのカヴァーなどが収録されている。これらを選んだ理由はと問うと、

「(それらの曲が)大好きだから(笑)」

 そしてウィントン・マルサリス、ドクター・ロニー・リストン・スミスといったジャズ界の大御所が参加。どうやって彼らに参加してもらったのか。

「ブルーノート・レコードの75周年記念イヴェントがあって私も参加していて、そこで彼らに会ったわけ。『私のレコードでプレイしてもらえますか』と頼み込んだ。そうしたらやってくれたんです」

 ノラの父はインド人で世界的なシタール奏者のラヴィ・シャンカール。彼が58歳のときに誕生したノラは父についてこう言う。

「父は何と言っても素晴らしいミュージシャンで、世界中の音楽家に影響を与え、大変尊敬している。ビートルズにも影響を与え、ビートルズは世界中のアーティストに影響を与えたわ」

 ノラには2歳になる子と3カ月の子がいる。前作リリース後に授かった子たち。近年多くのジャーナリストから尋ねられるようだが、同じ質問をした。母親になったことであなたの音楽や人生一般で何が変わったか。気さくなノラは笑いながらこう答える。

「それは多くのことが変わったわ。なにしろ生活習慣が変わった。睡眠時間とかね。ただ(私の)音楽がそれで変わったかは、よくわからない」

 ノラが母親の体内にいたとき、ノラの母はどんな音楽を聴いていたか知っているか、とムチャぶりをしてみた。

「そんなことはわからないわ。母に訊いて(笑)」

 ではあなたが妊娠中にどんな音楽を聴いていたか、また妊娠中に聴く音楽が胎児に影響を与えることを意識したか。

「う〜〜ん、それほど考えたことはないわねえ。私は意識していなかったけど、夫は少し考えていたみたい。でも、結局、普通にいつもと同じように、いい音楽を自分も聴き、夫も聴いていた。それが胎児にどのような影響を与えたのか、与えるかは見当がつかないわ(笑)。ただこのアルバム(『デイ・ブレイクス』)を作っているときは妊娠していたので、ベイビーがそれを覚えていてくれたらいいとは思うけど、わからないわ。私自身が好きなグッド・ミュージックを聴くということね」

 胎児が、あなたが聴いていた音楽に反応して体内から蹴ったりはしなかった?

「う〜〜ん、特にそういうことはなかった。というより、気づかなかったわね」

 では最近はどのような音楽を?

「そうね、いろいろなんでも聴いてるけど、そう、ジミ・ヘンドリックス(1960年代に注目されたブラックのロック・ギタリスト)を聴いてる。素晴らしい」

 ノラの音楽とは全く正反対とも言えそうなジミの曲を将来カヴァーすることは?

「絶対あり得ない(笑)」

 ノラと言えば、映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(07年)への出演が日本でも話題になった。

 また映画に出ることは?

「今すぐは特にないわね。今は音楽に専念している時期だし。映画をやらないということではないけれど、映画界で活躍しようという野心はないの。今は音楽をやることでとてもハッピー。音楽が忙しすぎるので。『マイ〜』はとても貴重な経験だった。本当に真剣に取り組んだし、スタッフはみな尊敬している。もちろん、いい話があれば聞くわ。もしやるとすれば、何か(笑えるような)面白いものかしら」

 ノラは02年のデビュー作が多くのグラミー賞を獲得したことによって、その後、巨大なプレッシャーを感じ、自分を見失いそうになったという。果たしてそれをどのように克服したのか。

「結局、時間が解決したのだと思う。そして、自分がやるべきことを淡々とやって、自分の進むべき道を進む。それしかなかったと思うわ」

 ノラ・ジョーンズは8月10日から全米で「デイ・ブレイクス・ツアー」を始めており、17年4月にはそのツアーで再来日する。そのときは、またまたノラ・センセーションが巻き起こりそうだ。(音楽評論家 吉岡正晴)

※週刊朝日 2016年10月21日号