これからランニングを始めたいという人は、何に気をつけたらいいのか? 金氏のアドバイスをもとに、“正しい市民ランナー”への道を模索したい。

<STEP1 ウォーキング>

 健康のため、美容のため、ダイエットのため──。さまざまな理由でランニングにいそしむ人が増えている。だが、ただ走るだけでは、効果は上がらない。

 プロ・ランニングコーチの金哲彦氏が話す。

「悪いフォームで走り続けると膝や腰などの関節を痛めて、故障につながる可能性があります。負荷をかけたほうが効果的と思いこんで、能力以上の距離を走るのも絶対ダメ。その距離に耐えうる筋肉がついてない状態では、故障の原因となります」

●体重の3倍以上の負荷

 どうすればいいのか。その前に、まずは走る前の準備から。ウェアは、ランニング用であれば、どんなものでもOK。

「ここ10年でファッションブランドまでランニングウェアに進出した結果、ファッショナブルなウェアが数多く販売されています。いずれも、吸汗・速乾機能を備えており、走る際に手足の動きを妨げることもない」

 シューズ選びは慎重に。格好から入って、プロのランナーが愛用するようなシューズを選ぶのは禁物だ。

「ランニングの際の着地衝撃は体重の3倍以上。下り坂になると5倍以上にも達します。それを長時間続けるのですから、体への負担は計り知れません。初心者は着地衝撃を吸収してくれる、ソールの分厚いランニングシューズを選択しましょう」

 ソールが厚く、フィット感の高い、“少し大きめ”のシューズを選択するのがベストだ。

「走っている際には衝撃により、足の指が伸びます。さらに、長時間走ると足が熱を帯びて膨張する。だから、つま先までピッタリのシューズだと、爪の中に内出血を起こすこともあります。ピッタリなサイズよりも0.5〜1センチ大きなシューズが最適です」

 ウェアとシューズが決まったら、入念な準備体操を行ったうえで、ウォーキングを始めよう。

「背筋を伸ばして、胸を開くことで、骨盤が“立つ”。この姿勢で肩甲骨を動かすように、腕を後ろに引きながら歩くと、背中からお尻へと筋肉が連動して骨盤からスムーズに足が出るのです。全身を使うから体重や衝撃も全身で受け止められる。おのずと疲れにくくなり、故障の心配もありません」

●最低30分以上の運動を

 猫背だと背骨のS字湾曲が崩れるため、身体のバネが機能しないという。骨盤が背中のほうに傾いた“骨盤後傾”となるため、筋肉が連動せず、すべての体重や衝撃を下半身で支えることになる。当然、故障のリスクは高まる。正しいフォームであれば、全身の筋肉を使うためにカロリー消費率も高まる。

「体を動かして20分から脂肪の燃焼が始まるため、最低でも30分は続けましょう。マーチのリズムで歩けば、1分間に120歩。このリズムだと適度に心拍数が上がって、より効果的です」

 金氏曰く「フォーム=機能」。正しいフォームは身体の機能をフル活用して、最大の効果を生み出すのだ。

<STEP2 ジョギング>

 正しいフォームのウォーキングを身につけたら、いよいよジョギング。10キロ、20キロと長い距離を走る必要はない。むしろ、距離よりも時間を決めて走ったほうがいいという。

「目標とする距離を設定してしまうと、どうしても『タイムを縮めたい』という意識が働き、無理が生じやすい。最初は目標を30分に設定して、10分でくたびれてしまったら、そのあとの10分はウォーキングして、最後の10分は改めてジョギングするというほうが効果的です」

●目標設定で継続力を

 フォームは、ウォーキングと一緒だ。背筋を伸ばし、胸を開いて骨盤を立て、肘を後ろに引くイメージで腕を交互に振ることで、肩甲骨まわりの筋肉と連動するお尻の筋肉を利用しながら走ること。

「走る動作は下半身からでなく、上半身から生まれます。腕振りがあるから、足のリズムができあがる。上半身を走るエンジンにしましょう」

 背筋が伸びていても、疲れのせいかアゴを上げながら走っているランナーも見受けられる。だが、これは逆効果だ。

「アゴが上がると、重心が背中側に傾くので、推進力も失われて、より苦しくなる。多少ツラくてもアゴは、気道をふさがない程度に前に突き出すほうがいい」

 正しいフォームで30分間、楽にジョギングできるようになったら、距離とタイムを意識したランニングに励んでみたい。

<STEP3 ランニング&レース>

「ジョギングを始めたけれど、三日坊主で終わった」という人は少なくないはずだ。継続できるか否かが、初心者ランナーと市民ランナーの分岐点なのだ。

 では、いかにして継続するか? その一つの方策はこれまでに明らかにしてきた正しいフォームを身につけること。さらに、明確な目標設定を行えば、継続するモチベーションが高まるのは間違いない。

「どんな初心者でも、半年もトレーニングすれば10キロのレースを80〜90分の制限時間内に完走できるようになる。ハーフマラソンも、1年もトレーニングすれば完走できる。週に3日走り続ければ、1、2カ月で目に見えて身体も変わってくる」

 金氏がお勧めするのは、半年後のレースに申し込んでしまう方法。初心者はまず10キロのレースを選択してみよう。

「レースは独特の緊張感があって、普段のトレーニングにはない応援もある。その達成感は格別です。当然、順位もタイムも出るから、『次はもっと上位に』という意識も生まれる」

 ハーフを完走したら、フルマラソン、さらにフルマラソンのサブ5(5時間切り)、サブ4(4時間切り)と、自然と次の目標が浮かび上がってくるはずだ。そのとき、あなたの身体は、当初とまったく異なる健康かつ強靱な肉体へと生まれ変わっていることだけは保証しておきたい。(ジャーナリスト・田茂井治)

※AERA 2016年10月17日増大号