東京近郊に住むA子さん(48)は、職場結婚の夫と子ども3人の5人家族。夫とは10年以上セックスレスだ。

「そんな環境じゃない。子どもも一緒に寝てるから」

 そう説明するが、夫婦仲は何年も前から冷え切っている。かといってケンカもしない。夫は今や「ただ一緒に生活する人」という。

 セックスしないことに不安はそれほど感じていないが、ドラマや小説などを見ると「するのが普通?」と疑問に感じることも。しかし「夫とはもう考えられない」。さらに告白する。

「愛のあるセックスがしたい。夫以外に好きな人が現れればありうるかも」

 A子さんのように数年間セックスから離れている状態を、日本では「セカンドバージン」と呼ぶ。長い間特定のパートナーがいない、過去に嫌な経験がある、など事情はさまざまだが、既婚者の場合、セックスレスによってセカンドバージンに陥る女性が多い。

 B子さん(神奈川県在住・58歳)もそんな一人。大学の同級生だった夫とは卒業してすぐに同棲、その後結婚し2人の子どもに恵まれた。共働きで平日は忙しいが、月1回は一緒に映画やコンサートに出かけ、ここ10年は正月に国内外に旅行へ。世間的には仲のいい夫婦、しかしほぼセックスレスだ。きっかけは夫の不倫だった。

●求められていない

「不倫が始まったのは8年ぐらい前。私は子宮筋腫と更年期障害でほとんどセックスできない状態で気づかなかった」

 夫から求められたのは5年以上前。40代までは毎週のように求められ、求めていた。自分が諦めたら終わり、とB子さんは寝たふりをする夫を無理やり起こして、半年に一度はセックスする努力を続けている。

「嫌がられながらもなんとか最後まで至るのですが、私がレイプしたみたいで……。ここまでして夫にしがみついて、どこまでバカなんだと泣きたくなる」

 B子さんをさらに追い詰めたのが、女性なら避けて通れない体の変化だ。2年前に閉経してからは性交痛がひどくなった。思い切ってジェルを使うことを夫に持ちかけてみたものの、「不倫相手には、こんなもの必要ないんだ」と思うとB子さん自身がしらけてしまったという。

 生活の不安もあり離婚は諦めた。夫も家庭を捨てる気はないようだ。B子さんはこう語る。

「以前は、信頼関係があれば年をとったらセックスはしなくても幸せなのかもと思っていました。でも、夫に裏切られセックスレスになったことで、セックスは信頼と愛情のバロメーターなのだと気づいた。肉体の飢餓感より精神の絶望感が深い」

 精神科医の香山リカさんは、「セカンドバージンで感じる不安や苦しみは、体ではなく心の問題」と話す。心のバランスを崩しカウンセリングを受けに来る、特に40〜50代の女性患者は、よくよく話を聞いてみると悩みの背景にセックスレスが隠れているケースが多いという。

「セックスレスに悩んでいるというと、欲求不満かと思われがちですが、全く違います。既婚、未婚に関係なく、女性として認められていない、求められていないと感じることで自信を失ってしまう。それが、セカンドバージンにおびえる女性たちの不安の正体です」(香山さん)

●イライラが減りました

 特定の相手がいるのに、という点で、既婚者のセカンドバージンのほうが悩みが深いかもしれない。そうした苦悩は、一時期話題になった「同窓会不倫」とも無関係ではないという。夫から女扱いされずにいた女性が、懐かしい同級生から「きれいになった」などとほめられ、禁断の愛に走ってしまう……。

「女性の場合、セックス=性欲の解消という人は多くない。女として愛されている実感、もっと言えば、自分の存在価値を確認できる行為、それがセックスなのです」(香山さん)

 10年近いセカンドバージンにピリオドを打った女性がいる。都内在住のCさん(51)は、30代でデキ婚、出産、離婚。女手一つで一人息子を育ててきた。

「仕事と子育てに追われる毎日で、正直、セックスについて考える余裕なんてなかった」

 45歳を過ぎると体に変化が。胸が下がるなど体形が変わり、突然汗が出るといった更年期特有の症状も出始めた。

「もう、誰ともセックスすることなんてないかな……」

 女性としての自信を失いかけていたが、出会いは突然に。今年、仕事で知り合った男性と付き合うことになったのだ。

「体を見られたくなくて、部屋を真っ暗にしてもらってます。彼は私がすごく奥ゆかしいと勘違いしてるみたい(笑)」

 Cさんがそこまで気にするのは理由がある。実は彼、14歳年下なのだ。しかし、

「この年になって初めて『体の相性がいい』という幸福感を知った。身も心もまるごと愛されている実感があって、イライラすることが減りましたね」

 セックスが女性として人としての自信を取り戻させてくれる。それは一理ありそうだ。しかし香山さんはこう警鐘を鳴らす。

「セックスさえすれば不安や苦悩が解消できる、というものではありません。『誰でもいい』『無理やりする』では、ますます自己嫌悪に陥り、さらに傷が深まることもある。自分を大切にすることを決して忘れないで」

(ライター・中津海麻子)

※AERA 2016年10月24日号