この国に眠る鉄道技術というDNA。それが巨大開発と出合った時、日本独自の都市が立ち上がる。単なるインフラではない。鉄道という可能性をアップデートせよ。

 JR東海道線・品川駅。1872年に開業した日本最古の駅のひとつで、「汽笛一声新橋を〜」でおなじみの「鉄道唱歌」が発車メロディーとして流れる。東京にオリンピックが来る2020年、その最古の駅から約900メートルの地、品川─田町間に新たな駅が誕生する。

 仮称「品川新駅」。JR山手線と京浜東北線が通り、山手線では1971年の西日暮里駅以来49年ぶりの新駅となる。駅舎デザインは新国立競技場も手掛ける隈研吾(くまけんご)氏が設計。ホーム階から天井部まで高さ約30メートル、約1千平方メートルの吹き抜けが広がり、素材に木を活用して和のテイストを感じさせる駅舎を築く。

 近くに都営浅草線の泉岳寺駅があり、特に需要が高いわけでもないこの土地に駅をつくる理由は、再開発だ。駅に隣接し、これまで品川車両基地として使われていた土地13ヘクタールがJR東日本により再開発される。ブルートレインをはじめ数々の名車が並び鉄道ファンの聖地となっていた車両基地だが、15年に上野と東京を結ぶ「上野東京ライン」ができたことで車両基地機能の大半を上野以北に移せることになり、基地がスリム化し土地が空いたのだ。

●新駅と巨大開発

 東京では2000年代以降も六本木ヒルズ(11ヘクタール)や汐留シオサイト(31ヘクタール)といった巨大再開発が実現したが、これだけの広大な土地をJRが新駅設置と一体で開発するケースははじめてという。

「東京駅の再開発で建てた『グラントウキョウノースタワー(地上43階)』『サウスタワー(地上42階)』『サピアタワー(地上35階)』三つあわせても床面積は四十数万平方メートルだが、このプロジェクトで創出するのは100万平方メートル。規模が違います」(担当者)

 街が完成する予定の2024年には新駅の乗車数は1日12万〜13万人、山手線だと恵比寿、五反田並みの規模になると見込む。

 神奈川県東部に鉄道2路線を保有する相模鉄道(相鉄)。JR、東急と相互直通運転を行う予定だ。05年に作られた「都市鉄道等利便増進法」の適用を受け、路線建設費用の3分の2を国と自治体(神奈川県、横浜市)が負担。都心部への距離が縮まり横浜駅での乗り換えが不要になることで、都心部への通勤時間は10〜15分縮まる。

●蒲蒲線に都心直結線

 相鉄は1976年から99年にかけ全通したいずみ野線(二俣川─湘南台)沿線に様々なニュータウンを開発したが、高齢化がすすみ鉄道利用者も少なくなっていた。直通運転によりまずは両親が沿線に住んでいる若年層を都心から相鉄沿線に引き戻したい、と相鉄ホールディングス経営戦略室の鈴木昭彦さんはいう。二俣川駅(横浜市旭区)前に建設中のマンション「グレーシアタワー二俣川」は8月27日に第1期380戸を売り出したところ約2週間でほぼ完売。沿線外からの申し込みも20%に達し、「これまでにないペースの売れ行き」(鈴木さん)という。

 首都圏での鉄道新設計画はこれにとどまらない。今年4月に出された国土交通省交通政策審議会答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」では整備を検討すべきプロジェクトとして、(1)りんかい線や山手線方面から羽田空港へつなぐアクセス線(2)東急蒲田駅と京急蒲田駅をつなぎ新宿、渋谷方面から羽田へのアクセスをよくする通称「蒲蒲線」(3)押上〜新東京〜泉岳寺を結ぶ「都心直結線」(4)つくばエクスプレスの東京延伸(5)都営大江戸線延伸……など24路線がとりあげられている。

 鉄道が町づくりに与えるインパクトは路線建設にとどまらないと語るのは、東京藝術大学准教授で建築家の藤村龍至さんだ。

「2000年代以降に鉄道各社が商業と結びつき、鉄道の役割は人を運ぶだけではなく人を集めて商機を作り出すというパワフルなものに変化してきました」

●駅ビルが万博に匹敵

 その象徴が、11年に開業した大阪駅のステーションビル(大阪ステーションシティ)や東京駅の再開発。大阪駅は開業1年で1億3千万人が駅ビルを利用したが、これは半年で6500万人を動員した1970年の大阪万博に匹敵する。強力なコンテンツがあるわけではない駅ビルに万博並みの動員力がある、と藤村さんは言う。

 こうしたJRの鉄道駅を中心とした商業施設を藤村さんは「ステーションシティー」と呼ぶ。特に、JRは87年の民営化から十数年を経て人が動く場所である駅そのものの商品価値に気づいた。そこに、68年完成の霞が関ビルから新宿、池袋、六本木と発展してきた巨大開発の技術が結びつき、ステーションシティーは日本の「お家芸」となった。日本が世界に問うべきは、鉄道技術やステーションシティーのつくり方そのものだと藤村さんは語る。

「東南アジアなどにどう輸出していくかが発展のカギとなります」

 そんな鉄道プロジェクトの中でも最大規模なのが、新幹線だ。

 昨年3月には北陸新幹線(長野─金沢)、今年3月に北海道新幹線(新青森─新函館北斗)が開業した。北陸新幹線は今年4月に利用客数が1千万人に到達し、開業前に在来線の特急を利用していた客の3倍に増加。金沢や富山では地価が上昇し、JR金沢駅西側の広岡1丁目の地価上昇率(31.2%)は全国7位に。日本政策投資銀行が試算した経済効果は石川県全体で年間124億円、富山県で88億円に。富山県が今年発表した経済効果は421億円だ。

 もうひとつの主役が、リニア中央新幹線。JR東海が手掛け、東京(品川)─大阪(新大阪)間を67分で結ぶ総工費9兆円の大プロジェクトだ。今年1月には東京側のターミナルとなる品川駅が着工。JR東海は東海道新幹線の経年劣化や東海地震などの大災害に備える必要があるとして、バイパスとしてのリニア中央新幹線の意義を主張する。

 これらの整備には巨額の税金が投じられる。整備新幹線の場合、2016年度予算での建設費は15年度に比べ28%増の2050億円、うち国からは755億円を支出する。リニア中央新幹線に関しては、JR東海は建設費はすべて自費で賄う方針を打ち出していたが、安倍政権は7月に金融機関などから集めたお金を低金利で貸し出す「財政投融資」の枠組みを使ってJR東海に3兆円の融資を行うと表明。名古屋─大阪間のリニア中央新幹線について現状の2045年開業予定から最大8年間の前倒しを経済対策として打ち出し、JR東海側は「経営の自由を束縛されることは受け入れられない」(柘植康英社長)と釘をさしながらも受け入れた。

●道路は物、鉄路は人

 今後人口が減ってゆく日本でこれだけの巨大事業をすることに意義があるのかという疑問もわく。それでもなお意義はあると語るのは、12年から安倍内閣の官房参与をつとめる藤井聡・京都大学大学院教授だ。

 藤井教授の近著『「スーパー新幹線」が日本を救う』には、1972年に出版された田中角栄『日本列島改造論』に記載された高速道路ネットワーク(1万キロ)と新幹線ネットワーク(9千キロ)の構想図が記載されている。出版から44年たち、高速道路は角栄構想を上回る1万3千キロが整備されているが、新幹線は3千キロ、構想の3割にとどまる。

 高速道路は物流を促進し、産業振興に役立った。鉄道や新幹線は人の流れを加速する。低成長時代に入ったいま、必要なのは人の流れを加速し、1人あたりの生産性を上げること、と藤井教授は語る。

 リニアにより東京、名古屋、大阪の三大都市圏がひとつの広い都市圏となり、観光客の往来やビジネスパーソンの交流が増えて商売のチャンスが広がり、海外からの投資も呼び込める。三大都市圏のどこに住んでもよくなるため、東京への一極集中も緩和される。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員の加藤義人さんは、リニアの品川─名古屋間が開業した際の「50年便益」(リニアを整備した場合としなかった場合を比べ、50年間で得られる便益の差)を調査し、10兆7千億円と見積もった。

 藤井教授が整備を求めるのはリニアだけではない。整備新幹線に加え、さらなる新幹線網の拡大が必要だと説く。現在繁栄している太平洋ベルト地帯から新幹線網をさらに細かく張り巡らせ、都市化のエネルギーを地方に波及させるべきというのだ。

 藤井さんが考える「新・列島改造論」の軸となる新幹線路線は次の通りだ。

(1)北九州(小倉)─大分
(2)岡山─高松
(3)北陸新幹線─大阪─関西空港─四国
(4)長岡─上越妙高
(5)山形新幹線のフル規格化
(6)岡山─倉敷─米子─出雲市

「新幹線整備は景気を刺激し、長期的な税収増をもたらす。となれば、建設国債で財源を確保しても税収増で十二分以上にまかなえる。ゼロ金利の現状ならさらに合理性がある。田中内閣時代の73年に決められた整備新幹線の終わりがようやく見えてきた。今は地方創生の回路をつくるため、新たな列島改造論を語るべき時なのです」

 鉄道がつくるバラ色の未来像──そこには当然、異論もある。例えば、地方から東京に労働力や産業が奪われる「ストロー効果」だ。本誌にコラムを連載し、岩手県での街づくりにも携わる金融マンのぐっちーさんは藤井理論にこう反論する。

「地方創生のために新幹線を造るというが、新幹線の通った地方都市では富裕層が地元で買い物をせず東京に出るようになり、岩手県の『マルカン百貨店』など地方の有力百貨店が続々と閉店した。東京から地方に人が動くというが、例えば岩手に人が毎年来るわけではない。新幹線は今の時代にそぐわないプロジェクトでしょう」

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤さんは、リニア中央新幹線に関して、その経済効果は「名古屋や大阪はいいが、全国にまんべんなく行きわたるわけではない」と指摘。ストロー効果について一定程度認めつつ、地方都市が便益を得るためには、リニアの駅から近くにある産業の集積地にむけてのアクセスを飛躍的に高めることが必要という。リニアの中間駅ができる中津川(岐阜)や飯田(長野)は高速道やインターチェンジを駅に隣接させることで、近隣の産業集積地帯に人がスムーズに移動できる仕組みを作ろうとしている。

 72年、当時通産大臣だった田中角栄は『日本列島改造論』で、日本の民間設備投資の停滞、輸出制限の動き、そして都市の過密化を指摘。その解決のため、都市に集中した活力を日本列島全体に押し広げることを提唱し、全国の鉄道網と高速道路網、情報通信網の整備を訴えた。

 いま再び国は停滞するが、高速道路と情報通信網は充実している。残された手段は、鉄道だ。(編集部・福井洋平)

※AERA 2016年9月26日号