天皇自身が強く希望し、国民の多くが支持しているとされる「生前退位」。政府は特措法での実現を目指しているが、「違憲」の指摘もある。これでいいのだろうか。

 ビデオメッセージという形で「生前退位」の意向を示した天皇陛下。政府は、今の天皇に限って生前退位を可能とする特別措置法を整備する方向で、検討に入った。

 皇位の継承については、憲法2条に、「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」とあり、憲法が参照する皇室典範4条には、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」とあって、生前退位は認められていない。

●恣意的皇位継承の危険

 朝日新聞が9月に実施した世論調査では、91%の人が生前退位に「賛成」と答えた。そのうち、「今の天皇だけが退位できるようにするのがよい」という人が17%にとどまったのに対し、「今後のすべての天皇も退位できるようにするのがよい」は76%だった。

「特措法で一代限りの生前退位を認める」ことは可能なのか。

「違憲の可能性」を指摘するのは、憲法学が専門の首都大学東京の木村草太教授だ。

 憲法は「皇位は世襲」としているだけで皇位継承のタイミングは定めていないので、「生前退位」自体は違憲にはあたらない。だが、皇位継承の根拠となる皇室典範の改正は「最低限必要」だと指摘する。さらに、特措法の整備となると、

「憲法2条から、特別法を許さないという趣旨も読み取れる」

 と言い、違憲の可能性があるという。

 憲法には「法律でこれを定める」という一文がいくつか見られるが、具体的な法律名を挙げているのは実は2条だけだ。

「皇位の継承は非常にデリケートなもの。明確なルールで行われないと国政上の大きな混乱を生むため、皇室典範でルールを定めないといけないというのが、具体的な法律名を唯一出した憲法2条の趣旨と読み取るのが自然でしょう」(木村教授)

 さらに木村教授は、一代限りの特措法を今回認めれば、今後も特別法によって恣意(しい)的に皇位継承が行われかねないとして、「好ましくない」と述べる。

●「陛下の真意ではない」

 23年にわたって宮内庁に勤務し、現在はBSジャパンの「皇室の窓」の監修などを務める山下晋司氏は、「天皇自身の意思」という観点からも、

「特措法によって一代限りの生前退位を認めるのは陛下の真意に沿ったものではありません」

 と訴える。天皇自身が、

「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」

 と語っていることから、

「陛下はご自分だけの生前退位を望んでおられるわけではない。一代限りの特措法だけで今後の見通しが立たなければ、何らかの方法で再度『お気持ち』を表明されるかもしれない」

 と見ている。

 政府が特措法での実現を目指すのは、皇室典範の改正となると、議論が長期化してしまうと懸念しているからだ。皇室に詳しい静岡福祉大学の小田部雄次教授(日本近現代史)は、

「とにかく陛下に早くお休みいただくという意味では、特措法制定に反対はしない」

 という立場。ただ、皇室典範の改正なしで可能かどうか、疑問が残るという。

「高齢の現状を述べる自由もなければ、発言の自由もない現在の天皇陛下の状況を変えなければいけない」(小田部教授)

 憲法は国民の基本的人権を認めているが、天皇は高齢で心身の負担が大きくなっても譲位できない。前出の木村教授は言う。

「生前退位を認めることも必要だが、皇位継承を男系男子に限ることで天皇家にかかるプレッシャーは大変なもの。天皇陛下の幸せや人権を考えていかないといけない時期にきている」

 政府は、有識者からなる会議を立ち上げ、専門家を招いて意見を聞いたうえで、早ければ来年の通常国会にも、生前退位実現のための特措法案を提出する考えだという。(編集部・深澤友紀)

※AERA 2016年10月3日号