広尾病院の移転には、地域との連携を重視する医師会と都で、激しい論戦となっている。東京都医師会理事の安藤高夫氏と、港区医師会顧問の橋本雄幸(かつゆき)氏が本誌のインタビューに応じ、その理由を語った。

──移転に反対している理由は。

「事前に医師会に相談がなかったから反対している、という単純な話ではありません。地域の医療は、大きな病院と中小の病院・診療所が連携し、役割分担をすることではじめて、効果的・効率的な医療を提供できる。今回の移転計画は、その視点をまったく欠いている」(橋本氏)

──これまでも都立病院の統廃合はありました。その時は医師会との協議の場はあったのでしょうか。

「過去の統廃合では、必ず何らかの情報が入ったり、意見交換をしたりしていましたが、今回の計画は今年1月の報道で初めて知りました」(安藤氏)

──安藤さんと橋本さんは、都が設けた移転後の病院のあり方を議論する基本構想検討委員会のメンバーです。8月31日の第1回会合では、会議が紛糾したそうですが。

「改修、現地建て替え、移転新築の三つの選択肢のなかで、メリット・デメリット・コスト等を勘案して、どういう価値基準で移転を決定したのかが開示されなければ、議論もできません。まずは決定までのプロセスを明らかにするよう求めている段階です」(同)

──都は、「災害医療の充実のために移転が必要」と説明しています。

「災害医療は、広尾病院だけがやっているわけではありません。また、現実の災害では、東日本大震災がそうだったように、どの病院が大きな被害を受けるのかはわからない。だからこそ、一つの病院に数百億円もの税金を投入するのではなく、都内に約80ある災害拠点病院を充実させることが重要です。災害医療は、『点』ではなく、『面』で対応することが基本だからです」(橋本氏)

──移転先の近くには、中小の病院も数多くあります。

「一つの病院だけが税金をどんどん使って施設も機材も充実すれば、民間病院の経営を圧迫し、公立病院だけが生き残る地域になりかねません。一度施設をつくってしまえば、年間100億円の赤字を出しても維持していくことになる。医療過疎地であれば、赤字でも公立病院を運営する必要がありますが、青山でその必要はありません」(同)

──今後、都には何を求めますか。

「移転後の広尾病院の機能を議論する前に、三つの選択肢をゼロベースで議論すべきです」(安藤氏)

「都には640の病院があります。一つの病院だけではなく、広く中小の病院にも税金を使ったほうがいい。そうすれば、都の医療はもっとよくなります」(橋本氏)(本誌・上田耕司、西岡千史)

※週刊朝日  2016年10月7日号