いつの世も、医師になるには難関を突破しなければならない。現代のエリートたちはどうやって勉強し、何をめざしているのか。

 夏を過ぎたこのごろ、医学部6年生らは、卒業試験と医師国家試験に向け、準備を進めるまっただ中だ。

「試験はすべてハード。大学によっては1学年20人近い留年者が出たと聞きました。卒業試験に通らないと、国家試験を受けられないので、皆必死です」

 東京都内の私立大学医学部に通うAさん(24)は言う。

 入り口の医学部入試の難易度は年々上がっている。河合塾のデータによれば、国公立大学医学部の偏差値は、1985年に比べ、軒並み上昇。医学部は全国の優秀な学生が集まる傾向にあるのだ。

●講義はオンラインで

 医師国家試験対策のオンライン予備校medu4を主宰する穂澄医師は「彼らは中高時代から人気講師のオンライン講座を受け、最短距離で医学部に勝ち上がってきた世代。効率よく学ぶ習慣が身についています」と指摘する。

 その一人であるAさんは、こんな疑問を口にした。

「卒業試験の内容が国家試験に準拠しない大学もあり、医学生にとっては負担。効率よく勉強しようと考えると、大学の教授の講義より、オンライン予備校の講義が断然いい」

 AERAは、現役医師アンケートと同時期の9月、現役医学生を対象にしたインターネット調査を実施。国家試験や研究室進学に関心のある層を中心に、215人(うち男性124人、女性91人)の生の声を集めた。

 回答では、62%が大学生活で「勉強・進級に苦労した」としている。

 国家試験の合格率は高く、毎年9割程度の受験者が突破する。落ちる不安は少なそうに見えるが、医学生らにとってはプレッシャーだ。

「ほとんど落ちるのならいいが、9割が受かる試験に落ちるのは絶対に避けたい」

 と思うのだ。

●私生活とバランスを

 最近は国家試験の難易度も上昇傾向と言われ、

「大学の講義と過去問だけで、国家試験に挑む医学生は激減。直前対策を含めれば、ほぼすべての受験生が国家試験対策の講義を受講しています」(穂澄医師)

 以前はどの専門科に進むかという進路相談も多かったが、いまは国家試験に向け学習計画を立ててほしいという相談が多いという。

 では、医学生が勉強一辺倒かというと違うようだ。部活やサークルの所属者が9割近く、アルバイトをする学生も5割超いる。医学部に入る勉強を始めたのは、8割超が高校生以降だ。前出のAさんも、高校時代は野球部の部活や文化祭を思う存分楽しんだ。大学でも野球部に入り、現在は研究室での活動に熱中している。

 そうした背景からか、将来は仕事と私生活のバランスを重視する層も多い。今回の調査でも私生活重視型がやや勝り、希望する診療科を聞くと、人気、不人気にくっきり表れた。

 1番人気は小児科。現役医師アンケートで将来性が低いとされた科だけに意外だが、「子どもを助けたい」といった、熱い思いが目立った。人を包括的に診るとして、国が進める総合診療医の人気も高かった。

●人生設計も現実的

 最も敬遠されたのは外科。「体力的にハード」(宮崎大6年)、「腰痛持ちには立ちっぱなしはつらい」(埼玉医科大6年)などの声があがった。

 そんな彼らは、人生設計でも現実的だ。ある都内私大に通う5年生の女性Bさん(23)は、周囲の医学生カップルが別れのラッシュを迎えている。

「付き合っていれば結婚が視野に入るし、先がないなら別れる。卒業や初期研修を待たず、5、6年生で結婚して、出産する人もいます」

 別れるのも、早々に結婚や出産を選ぶのも、これからのキャリアを見据えるがゆえだ。

 地方私大の5年生女性Cさん(23)は、温かい家庭を築きたいから、安定した職業として医師を選択した。卒業後はまず結婚し、子育てをしてから、3、4年後に初期研修をと考えている。

「バリバリ働きたい人は、私のまわりではまれ。結婚して子どもがほしいという人が多い」

 医学生の多くは目標に対し、合理的に考える傾向があるようだ。

 順天堂大学練馬病院で指導医を務める小松孝行医師(33)は、現状に懸念も感じている。

 医師として入る現場は、時には正解がない。前提や条件から自分で想定し、考える必要があるからだ。

「研修もマニュアル化が進み、全員がある程度、質を担保できるようになっています。が、効率を重視するあまり、肝心の思考力や人間力がおざなりになっていないか。どんなに優秀でも、医師一人でできることには限りがある。患者や医療従事者らと信頼関係を築く能力を身につけてほしい」

(編集部・熊澤志保)


■希望する科ランキング

1.小児科
 小さい頃から憧れていた(愛知医科大6年・男性 ほか多数)

2.総合診療科
 今後需要が高まるから(福島県立医科大1年・男性)

3.内科
 パートでも働き口が多い(大分大4年・女性)

4.外科
 移植手術に携わりたい(新潟大6年・男性)

5.麻酔科
 ひとり立ちが早い(海外大2年・女性)

■希望しない科ランキング

1.外科
 体育会系のノリが嫌い。家庭を保てる気がしない。バツ4など離婚話をよく聞く(千葉大5年・男性)

2.ない・わからない
 まだ自分の可能性を狭めたくない(多数)

3.精神科
 患者の話を聞くのはちょっと(慶應義塾大6年・男性)

4.産婦人科
 少子化が進み訴訟率も高め(獨協医科大6年・男性)

5.皮膚科
 生死に直結しない(浜松医科大4年・男性)


■研修でも効率を求める医学生
東京の人気病院より経験積める地方を選ぶ

 医学生の将来を大きく左右するのが、卒業後の研修をどこで受けるか。その選び方にも、今どきの医学生像が透けて見える。

 神戸大学医学部6年生の永江真也さん(23)はこの夏、研修先に仙台厚生病院を選んだ。地方の拠点病院とはいえ、地元でもない東北をなぜ選んだのか。

 永江さんは実は当初、東京での研修を考えていた。診療科がそろう都内の総合病院を2、3カ所ピックアップしていたという。患者も多く、バランスよく研修を受けられると思っていたからだ。

 しかし、先輩医師に相談すると、「有名病院だから、経験を積めるとは限らないよ」。

 そこで、日本内科学会の「教育病院・大学病院年報」を使い、内科医1人当たりの年間受け持ち患者数と、年間救急入院患者受け入れ数を自分で計算してみた。

「驚きました。研修先として人気の有名病院が、必ずしも受け持ち患者数や救急患者数が多いわけではなかったからです」

 例えば、東京の国立国際医療研究センター病院は受け持ち患者数は150人足らず、救急患者数が二十数人。一方、仙台厚生病院や千葉県の民間総合病院などは受け持ち患者数がともに300人以上、救急患者も数倍、受け入れていた。

 できるだけ経験を積みたいと考えていた永江さんは結局、仙台の地を選んだ。「将来は消化器内科に進み、胃カメラの技術を身につけたい」と話す。

 以前は、学んだ大学の病院や系列病院での研修が一般的だったが、2004年に制度が変わり、医学生は希望する研修先を病院側とマッチングして選べるようになっている。

 アンケート結果では、研修先の病院を選ぶ基準は、「研修に力を入れている」が39%を占め、「忙しく、経験を積める」(20%)、「忙しくなく、ゆとりがある」(15%)と続いた。

 病院により専門分野や得意分野は異なる。学生間での研修先の人気は、研修医らの口コミによるところも大きかったが、「積める経験」の根拠を精査して進路を決める医学生が増えそうだ。

※AERA 2016年10月3日号