生産者は、強かった。

 兵庫県の南端、本州と四国の間にある淡路島の名産品、タマネギをPRしようと行われた「タマ泣き美人コンテスト」で、地元のタマネギ農家、濱口文子さん(76)が、3万を超える票を集めて優勝した。他の10〜30代の"タマ泣き美人"5人を抑えて、見事、頂点に立ったのだ。

 コンテストの投票総数は約6万票で、濱口さんが3万1922票、2位の公務員女性(32)が1万2517票、3位の女子大学生(21)が1万398票と、濱口さんのダブルスコアに終わった。

 美人コンテストで70代の女性が若者を抑えるという結果にネット上は沸き、ツイッターでは「まさかアノ人が!」「応援してた文子さんが優勝して感動」「投票したかいがあった」「45年の(タマネギ栽培の)キャリアはだてじゃあないな!」といった祝福コメントが続々と上がっている。特設サイトでは、2位の公務員女性も「タマ泣きクイーンは誰もが認める文子さん。完敗です」とコメントした。

 コンテストは、島の風景をバックにタマネギを切りながら涙を流す姿の美しさを競うもので、島内で道の駅などを運営するうずのくに南あわじ(兵庫県南あわじ市)が展開。2016年9月の1カ月間、濱口さんら書類選考を通過した6人による最終選考、インターネットと、同社が運営する道の駅で扱う候補者のブロマイド付きオニオンチップスの購入による投票が行われた。

 濱口さんは、最初からトップを独走していたわけではない。むしろ序盤は、公務員女性や女子大学生がし烈な上位争いを演じていた。風向きが変わったのは9月中旬。濱口さんへの投票が、急激に伸び始めたのだ。ツイッターなどでも濱口さんを推そうという動きが起こり、あれよあれという間にトップに上り詰め、そこから独走状態に入った。

 これにはコンテスト主催者も驚いたという。うずのくに南あわじの担当者は「急に伸びてびっくりした」。だが、コンテストの狙いは、淡路島とタマネギをPRすること。「もともとタマネギ農家を応援したいという気持ちで始めたコンテスト。ウェブで濱口さんに入れた人のコメントを見ても冷やかしではないし、結果的に農家に票が集まって良かったと思っている」と話す。

 そんなこんなで、注目度が急上昇しているタマネギ農家、濱口さんを直撃してみた。

「若い人たちの中で、まさか優勝するとは思わなかった。家族や友だちなど、投票してくれた皆さんのおかげです。大変感動しています」

 笑顔でこう話した濱口さん。9月30日に投票が締め切られ、コンテストの担当者から優勝の連絡を受けた時は、「うれしくて、夜はあんまり寝られなかった」という。息子や娘、孫など家族らも「おばあちゃんよかったなあ」と喜んでくれた。

 濱口さんは、南あわじ市の農家に生まれた。幼いころからタマネギを作る手伝いをし、21歳で市内の別の農家の夫と結婚した。30歳で夫を亡くし、息子や娘を育てながら、タマネギを栽培してきたという。現在も、家族に手伝ってもらいながら、タマネギや白菜、キャベツなどを作っている。

 コンテストに応募したのは、農作業の手伝いに来てくれている友人から勧められたからだ。なんとなく応募したところ、最終選考に残った。始めは家族に内緒にしていたが、いつの間にか知れわたってしまったようで、家族だけでなく、友人から友人へと投票してくれる人が増えていったという。腰を痛めて通っている病院の医師からも「毎日(票を)入れています」と励まされた。ある友人が道の駅に濱口さんのブロマイド付きのオニオンチップスを買いに行ったところ、売り切れだったとも聞かされた。

「みんなが協力してくれてありがたかった。だけど、優勝するなんて夢にも思わなかったです。これからも土づくりなどを頑張っておいしいタマネギを作っていきたい」(濱口さん)

 うずのくに南あわじによると、濱口さんの泣き顔は、17年春に発売を予定している新タマネギブランドのパッケージに採用されるという。タマネギで泣くコンテストだけに、タマネギを愛し、多くの人に届けている濱口さんが選ばれたのは感慨深い。体調を崩すこともあるというが、これからも元気で、おいしいタマネギを作っていってほしい。(ライター・南文枝)