上からはプレッシャー。下からは突き上げ。両方にさらされる存在が「課長」だ。日本経済が停滞する中、労働環境の厳しさも増している。それでも結果を出さねばならない。「課長」が大切にする基本とは。

 2014年度から3年連続で志願者数日本一(大学ソリューション・パートナーズ調べ)の座を守る近畿大学(本部・大阪府東大阪市)。実に、約12万人の受験生がこの大学に出願する。

 9月中旬、近大広報部では来年度の大学案内用パンフレット作りの打ち合わせが行われていた。部員の前で、広報課長の加藤公代さん(46)は取材の進み具合をチェックしていった。

「この企画、早く出られる人を探さないとあかんのちゃう?」

「知り合いの先生に声をかけた? すごい、進んでるね。みんなもどんどんやっていこ」

 活発にアイデアを出し合う部員の雰囲気を崩さないようにしながら、的確に指示していく。近大の志願者数を10年前に比べて倍増させた「知名度アップ」を牽引してきた広報部。加藤さんは14年から、部下12人を率いる部の現場責任者として「日本一」を守ってきた。

●すべての取材に対応

 09年に異動した入試広報課が13年に広報部に改組。近鉄の秘書広報課長から転身してきた世耕石弘部長のもとで進めたのが、近大が初めて完全養殖に成功したクロマグロを中心に据えた大学の知名度アップ作戦だ。

 山の頂上からマグロの頭が飛び出すイラストに「固定概念を、ぶっ壊す。」のコピー。14年1月の新聞広告を記憶している人も多いだろう。後に新聞の広告賞を複数受賞。マグロは数多ある近大の研究成果の一つという学内の反発も「これは近畿大学のシンボルですから」で突破した。

 ビジュアルのアイデアは広告会社にまかせるが、ポスターに載せるコピーは世耕部長や部下たちと何度も文案をやりとりし、ぎりぎりまで推敲(すいこう)を重ねる。

「大学のマインドを伝えるためには、職員が考えないと」

 大学からの情報を発信すべく、15年度は397件のニュースリリースを配信。1日1件以上のペースだ。ほかにも、高校生向けのオープンキャンパスからマスコミの取材対応まで、仕事は多種多様。13年に近大の養殖マグロを使った飲食店を大阪と東京に相次いでオープンさせたときは、あらゆる取材や依頼を断らず、すべて引き受けた。

「東京で銀座店をオープンさせた時は、数日間で五十数社の取材を受けました。朝のニュースの生中継のために5時から店にスタンバイし、新聞の夕刊に間に合うように、オープニングセレモニーを一日に2回。学長にもあいさつを2回お願いしました」

 課長になって「パソコンとか英語とか、苦手な実務部分はできる人にまかせられるようになった」ぶん、社内や部内での調整役という仕事が増えた。多忙であまり席にいない部長のスケジュールや仕事内容にさりげなく目をくばり、部員に次の動きを指示したり資料をそろえたり。

「部長のOKが出るか微妙なものがあれば、『早めに部長に見てもらったほうがいいよ』といったアドバイスもします」

●近大に来てよかった

 OBの音楽プロデューサー、つんく♂さんがプロデュースするなど「日本一派手」とされる入学式の運営も、加藤さんの仕事。派手なパフォーマンスと入学式というセレモニーを共存させるよう、学内の調整に走った。今年は、これまでは式の途中にあった学長式辞を冒頭に持ってきた。会場の盛り上がりを途切れさせたくなかった。

「最初は反発されましたが、何回も趣旨を説明したら最終的に承認されました。人気が上がったとはいえ、第2志望以下で本学に来る学生は多い。そういった学生に『近大に来てよかった』と思ってもらいたいんです」

 普段から明るく、「言いたいことを全部言う」からストレスはたまらないという加藤さん。だが、出張では部員一人一人の家族構成や趣味にあった土産を選ぶ気遣いを欠かさない。

 地道な日常業務が派手な広報戦略を支えている。(編集部・福井洋平)

※AERA 2016年10月10日号