10代の終わりに男性から女性に生まれ変わった主人公の世界を、ドキュメンタリーとドラマで描く映画が話題だ。

「私、生まれてから一度も自分のことを男子だと思ったことはありません」

「女子として学校へ行きたい。これって間違っていますか?」

 中学生の薫は、ある日を境にスカートをはいて登校する。

 映画「ハイヒール革命!」(古波津陽監督)は、思春期に「性の壁」を乗り越えて女性に生まれ変わった真境名(まじきな)ナツキ(本名・真境名薫)が自ら選び取った人生を追ったドキュメンタリー&ドラマだ。

 映画では、ドキュメント部分を現在のナツキ(29)へのインタビューや日常生活のスケッチなどで構成。並行して中学・高校時代のナツキ(薫)を俳優・濱田龍臣が自然体で演じるドラマ部分が入る。

●飄々と受け入れる母

 セクシュアルマイノリティーの苦悩や差別を正面から訴えた社会的メッセージの映画だと思ったら良い意味で裏切られるだろう。これは、自分に正直に生きることと、人と人との関係のあり方にアプローチしたヒューマンドキュメントであり、また何よりもハートウォーミングな青春ドラマなのだ。

 薫は小学校入学に際して「あの真っ黒なランドセルを見てゾッとした」と言う。なぜ男子は黒や紺で女子は赤やピンクなのか。「男らしさ」のプレッシャーに耐えられない薫は、中学生になって女子の制服で通うことを決断するが、担任をはじめ教師たちは困惑し理不尽な対応に終始。そんな状況下で味方になったのは母親と校長だった。

 母親は、薫が後に性別適合手術を決断するときも、飄々として「そーよねえ……薫は女の子だもんねえ」と割り切る。教師たちが「生徒指導」の基準であたふたするなかで、校長は薫の訴えに真摯に学ぼうとする。

 やがて薫は中学を卒業し、定時制高校に通うことになる。最初の面接で薫が「女子として登校したい……」とおずおずと切り出すと、女性教諭は全く問題なしと「だって、真境名さん、どうみても女子だもんね」と返す。

 さらに女子のクラスメートにバレーボール部に誘われ、薫が「男子が女子バレーやってもいいの?」と問うと「大丈夫、あんたは女子だから」と仲間に入れてもらうのだ。

●元の性と今の性が交差

 今のナツキに語ってもらおう。

「中学は暗黒時代だった。定時制高校行くときも同じ学校だしと思っていたの。ところが、ヤンキーからおたくまで、いろんなやつがいるし、バイトも自由に選んで、たばこも自己責任、本当に解放されましたね。クラスメートの女子とは今でも付き合っています」

 後半で登場するパートナーのヒカルさんは、女性から男性へ転換した。彼は中高と女子校で学ランを着たかったのだという。

 二人が会話をすると、モトの性とイマの性が交差する様子が見えてくるが、そもそも「性同一性障害」という枠組みでは見えない、性の多様なありようがよく分かる。

 なぜタイトルが「ハイヒール革命!」なのか。

「子どもの頃から女の人がハイヒールはいている姿にあこがれてた。私にとってはハイヒールをはくことが女になるって気持ちだった。もっとも最初はつんのめって大変だったけど……」

 とナツキは語る。

 ナツキの中・高時代を演じた濱田龍臣は、大河ドラマ「龍馬伝」の子役で注目され、今ではイケメンの美少年。公開初日の舞台挨拶では、女子の制服姿で登場して喝采を浴びた。ナツキにしてみれば「彼が私を演じるなんて夢みたいで、友達に連絡したら『嘘〜全然似てない』と言われて」との驚きようだが、濱田自身の役への入り方も無理がなく、作品に溶け込んでいる。

 ナツキが尊敬する先輩のメリンダさんが映画の中で語るセリフがきいている。

「私たちはオカマでもニューハーフでもない、ヒューマンよ」

 マイノリティーの心意気がこの映画を輝かせている。(ライター・田沢竜次)

※AERA 2016年10月10日号