落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「知ったかぶり」。

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 約3年前、このユルユルな連載開始にあたり、初代の担当Oさんからテーマを提示された。

O「『古典落語の世界観を通して現代社会の闇を切る!』なんていかがでしょうか?」

私「!?……やだ! そんな大それたこと! それに落語、そんなに詳しくないし……」

O「え? 詳しくないんですか!?」

私「いや、落語に詳しすぎる人は落語家なんかにならないから! 落語をわかりすぎたら、その深遠な世界を畏怖して決して落語家になるなんて愚かな行動はしないものですよ! 勢い弾みでなっちゃった人ばかりですよ、落語家なんてっ!」

O「そう……ですか(ため息)」

 明らかに落胆した様子。ま、そういう経緯で、担当さんからお題を出されて「あーだこーだテキトーに言って知ったかぶる」という今のカタチにおさまった。(ちなみに、落語に詳しい落語家はいっぱいいます。弾みでなっちゃった人ばかりじゃありません。同業者の皆さん、すいません)

《知ったかぶり》は「気合」。相手をのんでかかる「気合」。自分が「知らない」ことも忘れてしまうほどの「気合」があれば、だいたい何とかなる。あと、少しの大きな声。

「千早ふる」という落語がある。

<ちはやふる かみよもきかずたつたがわ からくれないにみずくくるとは>

 という歌のわけを聞かれたご隠居さんが、知ったかぶりしてテキトーに答える噺。

 私の場合。まず冒頭、歌のわけを聞かれてから、答えるまでに相当にごねる。

「そんなことも知らないの?(呆れて)」

「いや、聞けばいいと思ってるってどうよ(小馬鹿にして)」

「教えてやってもいいけど、それじゃお前のためにならない(上から)」

 知ったかぶるには、まずマウントポジションだ。

「そこまで言うならもういいです、よそで聞きます」

 と相手に言わせりゃしめたものだ。勝ちです。

「仕方がない、教えてやろう」

 隠居は自ら知っていると思い込んでいるかのよう。根拠のない万能感は無敵。

隠居「だいたいがだな……『ちはや〜ふ〜る』とくれば……たいていは『かみよも〜きかず』〜〜……になってな。え? ひょっとして『たつたがわ』じゃね!?となるだろう(したり顔)。そうすりゃ必然として、『からくれないに』かー?となりつつも、時には『みずくくるとは』っ! やっぱりかっ!?(驚き顔)しょーがねーやなー(諦め顔)……ということよ。わかったか?(しれっと)」

 通常であれば、

「わからねぇーよ! 歌、ちぎって切れ切れに、力んで言っただけじゃねぇかっ!」

 と、質問者・八五郎のツッコミ。しかし気合の入った《知ったかぶり》であれば、思わず八五郎も一考して……、

「あー、なるほど、だいたいわかりました……。けど、もうちょい詳しく教えて頂けますか」

 と、あえて隠居を懐に引き込むように手を合わせてくるだろう。くるはず。

 知ったかぶりはスポーツ。言うなれば、間合いを測りながらの格闘技に似た真剣勝負。この連載はいわば格闘技コラム。のはず。今年も知ったかぶります。

※週刊朝日 2017年1月20日号