永田町で、またも衆院の解散風が吹き始めている。きっかけは、12月15日の日ロ首脳会談の開催決定。安倍晋三首相の地元・山口県で開かれるとあって、北方領土問題の交渉進展を期待する声も多い。外交成果を携え、国民に信を問うシナリオとは。

「(領土問題の)交渉を具体的に進める道筋が見えた」

 安倍首相はロシア・ウラジオストクで2日、プーチン大統領と首脳会談し、こう手応えを強調した。プーチン大統領も「この問題はぜひ解決しなければならない。われわれは決定的な一歩を踏み出す用意がある」と前向きな姿勢を示した。

 そこで関心が高まるのは、12月に山口県長門市で開かれる会談の成果だ。

 日ロの交渉関係筋は「(歯舞、色丹の)2島返還プラスαの一定の成果を明記した共同文書が発表されるだろう」と歴史的な会談になるとの見通しを示す。領土問題に長年かかわり、交渉のキーマンの一人でもある新党大地の鈴木宗男代表は本誌の取材に対し、強気の見方を示す。

「12月15日に何らかの道筋がつけられる。4島一括返還は現実的ではなく、安倍首相も2島返還でいくと言っている。うまくいく。12月には勝負がつく」

 政府は「4島の日本への帰属が確認されれば、返還時期や条件は柔軟に対応する」との立場だ。国後と択捉を含めた4島の一括返還を求めるのが本筋だけに、与党内には「2島返還で手打ちは正直しんどい」(自民党幹部)との声もある。

 ただ、鈴木氏は「ビザなしの自由往来や共同経済活動、残る2島の継続協議などに加え、戦後70年以上住む日本人、ロシア人島民をいかに平等に扱うか。今後の交渉次第だが、安倍首相は何らかのカードを切るはずだ」と進展に向けた秘策があることを示唆する。

 12月の山口県での会談を前に、日ロ首脳は11月にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)でも会う予定だ。

 それに先立ち、ロシア経済分野協力担当相を兼ねる世耕弘成経済産業相がモスクワを訪問する意向で、「閣僚間で交渉を行い、首脳会談の最終的な詰めをしたい」という。ロシア側は55項目の経済プロジェクトへの協力を求めている。訪ロ時にはロシアの経済界とも協議を進め、突破口を探る考えだ。

 外務省幹部は日ロの交渉について、こう解説する。

「日ロ首脳の会談は11月で15回目に達し、信頼関係は醸成されている。米国のオバマ大統領の任期切れが迫り、米国から横やりが入りにくい好環境でもある。クリミア併合による欧米の経済制裁でロシア経済は低迷し、日本からお金を突っ込んでもらいたいのが最優先の思いだろう」

 領土問題の進展という外交成果を機に、国民に信を問う総選挙シナリオ。12月25日のクリスマスにも、との観測が永田町で出始めた。

「経済の面で今後の見通しは芳しいとは言えない。来年の通常国会もこれといった話題はなく、将来的に解散を打つ目玉がない。日ロ交渉がうまく進めば、議席減をかなり抑える効果がある。年末総選挙はあっておかしくない」(自民党関係者)

 13日付の読売新聞が報じた世論調査で、安倍内閣の支持率は62%だった。ロシアとの経済協力を積極的に進める首相の方針については、「評価する」が66%、「評価しない」が27%。支持率が高く、日ロ交渉を世論から好意的に受け止められていることも背景にある。

 もっとも、早期解散に否定的な見方もある。政治アナリストの伊藤惇夫氏はこう話す。

「2島返還解散の可能性は非常に低いと思います。2島返還で妥協したら、残りの2島はかえってこないのではないか。任期はまだ2年もあり、野党が弱体化したとはいえ、自民党の議席数は現状がアッパーリミット。よほどの風が吹かない限り、議席を増やせない」

 早期解散論が出るのは、危機感の表れでもある。7月の参院選後、自民党は独自に次期衆院選のシミュレーション調査をした。結果は「40から50議席を落とす」だった。

 7月の参院選では、野党が統一候補を擁立し、自民党は思わぬ苦戦を強いられた。衆院選での野党協力が進む前に解散に打って出たい思惑もある。

「党を立て直す先頭に立ちたい。(同志と共に)政権を担っていきたい」

 民進党の新代表に就いた蓮舫氏は15日、こう思いを語った。その一方で、民進党内では代表選のさなか、蓮舫氏の「二重国籍問題」について、こんな内容の怪文書が出回っていた。

「(旧民主党の)菅政権下、外交ルートを通じて蓮舫氏が二重国籍であることを確認し、この事実を首相官邸が隠ぺいした」「(前原氏側は)水面下では岡田執行部に蓮舫候補の名誉ある撤退を働きかけている」

 党内は毎度の内紛状態に変わりないようだ。

 自民党の閣僚経験者は「民進党は全然怖くなく、何をしようとするのかわからない。(蓮舫氏への)アンチも多く、党内の人心掌握はできないだろう。次期衆院選で自民党は議席を減らすだろうが、憲法改正に前向きな日本維新の会が伸び、民進党の議席は増えない。野田佳彦前首相が後見人として十分重し役を果たせない限り、ずばり3カ月で終わるのではないか。そうなれば、12月選挙は絶好のタイミングだ」という。

 自民党内の事情もある。安倍首相一強の構図に変わりないように見えるが、ポスト安倍をにらんだ動きは今後ますます活発になる。新東京都知事に就いた小池百合子氏の動向も、新たな攪乱要因になっている。

 自民党関係者はこう話す。

「執行部内には、来年の都議選で小池新党が第1党になるとの恐怖感がある。都知事選で党の意向に背いた若狭勝衆院議員を東京10区補選の公認候補者とする方針を決めたため、自民党支持者が離れる動きもある」

 ポスト安倍を巡る動きでも、永田町は騒がしくなってきている。

「首相の女房役の菅義偉官房長官は策士で、茂木敏充政調会長と組んで新派を画策すべく、若手に盛んに声をかけている」(官邸関係者)

「二階俊博幹事長と関係のよい古賀誠元幹事長が、ポスト安倍をめざす岸田文雄外相を二階氏に近づけようと動いている。岸田政権が誕生すれば、昨年の総裁選で擁立に失敗した野田聖子元総務会長を官房長官にあてる構想です」(自民党関係者)

 こうした党内のうごめきを牽制するためにも、12月総選挙を探る声が高まっているようだ。

 永田町の長い夏休みが明け、26日に臨時国会が始まる。安倍首相は論戦にどう臨み、どんな思いでクリスマスを迎えるのだろうか。

※週刊朝日 2016年9月30日号