かつて熱狂的な支持を得た小泉元首相。表舞台を去った今もその言動に注目が集まる。いま取り組む基金について、原発ゼロ政策について、安倍政権について、次男・進次郎氏について、語った。

 小泉純一郎元首相が、東日本大震災の被災地への支援活動「トモダチ作戦」で被曝(ひばく)した、と訴える元米兵らを支援する活動に奔走している。来年3月までに1億円を目標として基金を設立。元米兵の治療や検査などの費用にあてるという。

 小泉氏が元米兵らの現状を知ったのは今年3月のこと。米在住のジャーナリストでこの問題に取り組むエイミー・ツジモト氏に会ったのがきっかけだった。ツジモト氏は作戦時に、原子力空母ロナルド・レーガン上で米兵らが撮った映像を持参していた。放射能測定器が鳴り、「すぐ服を脱いでシャワーを浴びろ」といったやりとりも記録されていた。それを見た小泉氏は、その場で米国行きを決める。

「こんなことは珍しいんだけどね、その場で決めちゃったんだ。私、知らなかったから。報道されていないのはどうしてだろうと思って。小泉が米国に行って被害にあっている兵士たちと話をすれば、報道もしてくれるだろうということで」

●自分たちで何かを

 原発ゼロの運動に共に取り組む、城南信用金庫の相談役、吉原毅氏らと共に5月に4日間の日程でサンディエゴに出かけた。元兵士ら10人と面会し、じっくりと話を聞いた。

「お見舞いに行くんだから、お見舞金を持って行かなくちゃ悪いかなと、吉原さんと相談したんだ。2人で二、三百万円。だけど、米兵の数が300人を超えていると聞いてね、これは逆に恥かいちゃうなと思って手ぶらで行ったんだ」

 米兵たちは小泉氏に、淡々と当時やその後の状況を話した。頑健な体が自慢だったのに、作戦の後体調が悪くなり、鼻血や下血がある。医者に診せても原因不明、レントゲンを撮ると腫瘍ができている。軍隊はもはや続けられず、除隊したこと……。

「その場には来なかったけど、妊娠していた女性兵士が作戦に従事していたそうなんだ。生まれてきた子どもが障害を持っていて、しかも数カ月で亡くなってしまったというんだよ」

 作戦中に原発事故で発生した放射性プルーム(雲)の下で強い放射線を浴び、汚染された海水(脱塩水)を飲食やシャワーに使って内部被曝した可能性があるという。しかし、米国防総省は2014年に公表した報告書で、被曝は「極めて低線量」として健康被害との因果関係を否定している。

「丈夫だった兵士が活動できなくなって、除隊せざるを得ない。除隊してしまうと、軍隊時代の医療費の補助がなくなるんだってね。日本みたいに国民皆保険じゃないから、医療費が高い。だからなかなか病院にも行けない。これは何とかしなくてはいけないと思ったね。日本に対して何かしてほしいことがあるかって聞いても言わないんだよね。仕方がないとしか。病気になっても日本が好きだと言ってくれるから、ぐっと来ちゃったよ」

 小泉氏は兵士らとの面会後の記者会見で、感極まって涙をこぼし、「原発推進論者も反対論者も、何ができるか共同で考えることだ」と訴えた。

 帰国後、外務省の幹部とも会ったが、「日本政府としては、お気の毒だけれど何もできません、と言われた」。

 そこで「かわいそうというだけじゃすまない。政府ができないというのなら、自分たちで何かやるべきじゃないかと思ったから」、吉原氏や細川護熙元首相らとともに基金を設立、寄付を募り始めた。

●原発ゼロでいける

 応援団も現れた。建築家の安藤忠雄氏だ。テレビ報道で基金のことを知り、小泉氏のもとに連絡があった。

「1千万円支援するよと言ってくれた。1万円の会費を取って大阪で講演会をするから、そこに小泉さんが来てくれたら、1千人集めるというんだ」

 基金設立の会見をしたのが7月5日で、講演をしたのが8月18日。

「お盆の直後だったけど、そこなら会場がとれるというから。100人、200人しか集まらなかったらどうしようかと思ったけど」

 実際には1300人が押し寄せ、1300万円も集まった。

 今、兵士らは米国で東京電力などを相手に裁判を起こしている。

「彼らは、どんな被害があっても米国政府を訴えないという誓約書を書いている。だから、東電とかを訴えているんだね」

 小泉氏は今、原発ゼロ社会の実現に向けて活動している。

「引退後の中心は、原発ゼロを国民運動として盛り上げていくこと。年寄りだって大志を抱いていいんだ。基金も、原発への賛否を超えてやってくださいと言っているけど、原発賛成者というのは、やっぱり協力するのは難しいよね」
 原発ゼロを訴える原点については、こう語る。

「私は首相だったとき、専門家の意見を信じていたけど、東日本大震災の後、自分で勉強し直した。11年3月以降、13年の9月まで、原発はたった2基しか動いていなかったし、それから去年の8月に川内原発が再稼働するまではまったくゼロですよ。この夏に伊方原発が動いたけれども、10月から川内原発は順次検査のために止まる。5年以上たっても、せいぜい2、3基しか動いていないけど、暑い夏も寒い冬も、電力不足を理由にした停電は全国で一度も起きていない。日本は原発ゼロでやっていけるんですよ」

●総理が決断するだけ

 原発ゼロの話になるとさらに力がこもり、弁は熱を帯びる。

「まだ汚染水だってコントロールできていないし、除染にだって一体いくらかかるのかわからない。5年間、実質的に原発ゼロでできているのに、なおかつ再稼働させるのか。なぜこんなバカげたことをやるのか、不思議でしょうがないんだ。原発ゼロなんて、やるのは簡単ですよ。総理が決断するだけだ。経産省や推進論者はクルッと変わりますよ。日本が決めたら米国だって嫌と言いませんよ。責任もどこにあるのかあいまいで、政府? 規制委員会? 東電? よくそんなごまかしがきくな。不思議だね。いずれわかることだけど、原発ゼロのほうが成長できる。私はますます自信、確信を持っているんだよ。原発がなくなると働き口がなくなるという人がいるけど、雇用の場は、自然エネルギー、新しい産業で出てくるよ」

 国内政治は安倍晋三首相の一強体制が続く。

 そもそも安倍氏は小泉内閣で官房副長官を務めた。さらに安倍氏を自民党幹事長に抜擢したのは小泉氏だった。

「安倍さんは失敗から学んだんだろうな。第1次政権と、民主党政権の経験。原発ゼロにすれば、ほかの政策もうまくいく、って言っているんだよ。でもそこがわからないんだよね。民進党がだめなんだよな。だから自民党は民進党よりましだと思われているんだ」

●進次郎のほうが優秀

 民進党は蓮舫氏が代表に選ばれ、執行部も一新した。民進党にアドバイスするとしたら、と聞くと、

「ただちに原発ゼロを最大の焦点にしろ。それができない限り、民進党の支持は上がらないよ。2030年代にゼロにする? じゃあなぜ今ゼロにしないの?これもわからない。いずれ自民党がゼロを打ち出したら、もう野党はめちゃめちゃだよ」

 若手政治家の代表格として頭角を現しつつある次男、進次郎氏についても尋ねた。

「すごく勉強しているよね。いいことだよ。親子でも違いますよ。自分が思うことをやっていけと。私の若い時代と進次郎を比べれば、圧倒的に進次郎のほうが優秀だよ。本もよく読んで、地元をすごく回っているよね。現場をよく見ている。これは強い。行動力があるしね。私はまったく教えてない。全部自分でやっているよ」

 盟友・山崎拓氏が最近出版した『YKK秘録』で、私が気になっていた小泉氏に関する記述についても聞いた。一つは「加藤の乱」に際して、小泉氏が加藤氏に「俺なら不信任案に同調する」と言ったということ。もう一つは乱の挫折後、山崎氏の誕生パーティーに小泉氏が招かれてもいないのに行ったということ。

 答えはどちらも「否」。前者は「加藤さんに本気なのかと聞いたら、そのつもりだというから、俺は断固として止めるから、と言った」。後者は「招かれてもいないのに行くわけないじゃない。私はそんなこと、絶対にしないよ。招かれたから、行ったんだよ」とのことだった。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

※AERA 2016年10月3日号