小池知事がいよいよ都職員にもメスを入れた。歴代幹部の処分検討に加え、形骸化していた内部告発制度を充実させる。内部から“ウミ”は出せるのか。

「管理職らの責任は免れない」

「懲戒処分などの対応を取る」

 10月5日の都議会一般質問で、東京都の小池百合子知事は豊洲市場をめぐる関係職員の処分に踏み切る考えを示唆した。

 豊洲市場で土壌汚染対策の盛り土がされていなかった問題で、9月30日、小池知事は都の調査結果を公表した。「盛り土なし」は2008年の技術部門での内部検討から13年2月の実施完了まで、5段階で決めていたことが判明。しかし、誰がいつ判断したかは特定できなかった。

「流れの中で、空気の中で進んでいった」

 小池知事がそう表現したように、縦割りの組織の中で意思決定がうやむやにされ、ガバナンス(内部統制)がまったく機能しなかったのだ。

●内部告発に本格着手

 全容解明ができなかったことを受け、小池知事は調査の続行を明言。都政改革本部で内部告発を受け付ける公益通報制度を充実させ、調査を続ける。受け皿は弁護士事務所の予定で、告発は匿名、実名どちらもOKのだ。

 だが、組織に根付いた「負の慣習」を払拭することは容易ではない。16年間都庁に勤めた中央大学の佐々木信夫教授は言う。

「私が職員だった時代は、内部告発というと『裏切り者』という意識すらあった。制度を作っても、都職員の意識が変わって、適切に運用されなければ意味がない。犯人捜しが始まると、組織内に相互不信が生まれるだけです。幹部職員たちが『知事は我々を信用していない』と不信感を募らせれば、都政運営にも悪影響が出かねません。そうした風土を超えられるかが、新しい都政へのカギとなると思う」

●成否のカギは情報公開

 小池知事をよく知るジャーナリストは、知事は「自己統治」に強いこだわりがあると言う。外部に影響されず、自ら規律を定め、自らの意思で行動を律する組織になる──。だからこそ、責任の所在が判然としない報告書に、知事は「恥ずかしい」とまで言ったのでは、と推察する。しかし、その「信念」への執着はリスクと裏腹だ。“改革派知事”として宮城県知事を3期務めた浅野史郎氏はこう語る。

「小池知事が『空気』と表現したように、豊洲問題は、個人の責任を特定できない。プロジェクトはこうしたケースが多く、内部告発が機能するとは思えません。匿名性も大きな壁。宮城県知事時代にも県警OBから裏金に関する重大な内部告発があり、私は本人に会って内部文書も確認したが、県警は匿名の告発は信用できないと反論。抵抗を突破しきれなかった」

 公益通報者保護法では告発者の保護がうたわれているが、徹底されているとは言い難い。事実、15年3月に京都市の公益通報窓口に通報した男性職員の氏名が、窓口となった弁護士を通じて市側に伝えられた。この職員は停職3日の懲戒処分を受けたという。公益通報に詳しい中村雅人弁護士は「弁護士教育も必要」と語る。

「義憤にかられている告発者は、氏名の告知をいとわない態度を取ることもあるでしょう。しかし、通報者の立場や保護の必要性をわかっていない弁護士もいる。経験のある弁護士を選ぶべきで、間違っても知事、幹部職員の知己の弁護士など、安易な選定をしてはいけません」

 では、内部告発に頼らず、小池知事が望む「自己統治」を実現することはできるのだろうか。浅野氏は言う。

「情報公開を徹底し、常に外部からの厳しい目にさらすべきです。宮城県知事時代も、市民オンブズマンの指摘を端緒に数億円の裏金作りがあぶり出された。都合の悪い情報も外に出し、市民やマスコミの目にたえうる都政にすれば組織の規律は維持できるはずです」

 開かれた都政。言うは易しだが、越えるべき課題は多い。(編集部・作田裕史)

※AERA 2016年10月17日増大号