障がい者スポーツは「選手さえがんばればメダルがとれる」というものではない。技術力、経済力、周囲のサポート……。試されるのは、社会の総合力だ。

 車いすに乗ったパフォーマーが17メートルの急斜面を滑走し、宙返りを決めた。リオデジャネイロ・パラリンピックの始まりを告げた大ジャンプに、開会式に集まった観衆は熱狂した。

「限界のない心」をテーマに掲げたリオでの開会式を象徴する場面だった。

 パラリンピックの競技は障がいの種類や残された機能のレベルによって細かくクラス分けされている。陸上男子100メートルだけを見ても、義足や車いす、視覚障がいなどで16種目。できる限り、平等に戦えるようになっている。

●年額147万円の負担

 だが、実は「不平等」な側面もある。日本福祉大学の藤田紀昭教授は指摘する。

「障がい者スポーツは、高度な義足や車いすなどを使える国に住む選手が有利。五輪もそうですが、パラリンピックはそれ以上に、国内総生産(GDP)が上位の国や強化にお金をつぎ込める国が強い」

 実際、障がい者スポーツには、競技用義足や車いすなどがないと戦えない種目がある。自国産ではなく外国製品を使う選手もいるが、選手ごとに細やかな調整などが必要になるため、各国の「ものづくり」の技術が競技結果を左右する。

 これらの補装具を選手が手に入れられるかどうかも重要。日本では、日常用の義足や車いすには公費補助があるが、数十万円から100万円を超すこともあるスポーツ用の補装具は、全額が自己負担だ。

 パラリンピック出場選手でつくる日本パラリンピアンズ協会が、今年7〜8月にリオ大会やソチ大会の日本代表選手111人を対象に行った調査では、競技のために個人が負担している費用は平均で年間147万円。冬季(調査対象はソチ大会)に限ると249万円で、道具・器具購入費が42.9%とトップを占めた。競技を続けたくても、経済的事情から諦める選手もいるという。

 健常者のサポートが必要な競技も多い。例えば視覚障がい者の陸上では伴走する「ガイド」、ブラインドサッカーでは声で状況を伝える「コーラー」の存在が鍵を握る。

 技術力のみならず、支援体制が競技力に直結するパラリンピックは、私たちの社会のあり方を問う大会でもあるのだ。

●施設利用も条件付き

 日本の現状はどうか。先の調査では、パラリンピック選手の5人に1人が施設利用を断られた経験や条件付きで認められた経験があると回答した。車いすラグビーや車いすバスケの選手たちは「床に傷がつく」、視覚障がいや知的障がいの選手は「危ない」と言われたという。

 経済的には、東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まって以来「パラリンピック・バブル」とも言える状況で、障がい者スポーツの競技団体や選手を支援する企業も国の予算も増えた。ただ、藤田教授は、「バブル後」を懸念する。提案したいのは、「体育教員を目指す学生に障がい者スポーツを必修化すること」だ。

 普通学校で学ぶ障がい児たちは特に、障がい者スポーツと出合う機会を得にくい。藤田教授の調査では、体育の教員免許を取得できる大学のうち、障がい者スポーツの授業がある大学は47.9%。私大が中心で、体育教員を多く出している地方の国立大学では障がい者スポーツを学ぶ機会は少ないという。

 世界的にパラリンピックの競技レベルが高まる中、日本の夏季大会のメダル獲得数はアテネ大会の52個をピークに北京大会27個、ロンドン大会16個と右肩下がり。メダルを多く獲得しているのは選手層が厚く、支援体制の整っている国々だ。2020年を控え、社会が障がい者スポーツを支える仕組みを整える取り組みが求められている。(編集部・深澤友紀)

※AERA 2016年9月26日号