「さまざまな球種を上手に混ぜ合わせることのできるセンスの良さこそが最大の武器になっている。ダルビッシュ有は本物だよ。(メジャー入り前から)誰もがエースの素材だと確信していたが、実際にチーム側が望んだ通りのスピードでアメリカ野球に適応したことでその総合力の高さは証明されたと思う」

 2014年夏のこと――。メジャー某チームのスカウトが、目を細めてダルビッシュ有をそう評していたのが懐かしく思い出される。

「レンジャーズの関係者も満足していることは知っている」、「ほとんどのチームでエースが務まる」、「打者を打ち取る投手としてのセンスにも優れている」……etc。

 匿名であるがゆえに、正直な意見だったに違いない。これらの言葉を聞けばメジャーで50年近くを過ごしてきた大ベテランスカウトが、ダルビッシュに最大限の評価を与えていることが伝わってくる。そして今秋、日本が生んだ最高級の大器がプレーオフの舞台に戻ってくることになりそうだ。

 今季のレンジャーズはア・リーグ東地区2位のアストロズに大差をつけ、すでに地区優勝をほぼ確実なものにしている。コール・ハメルズとダルビッシュという強力な左右の2枚看板を擁するチームは、ア・リーグでは本命視されそう。ダルビッシュ個人としては2012年のワイルドカード戦以来になるポストシーズンのマウンドが、ブレイクする舞台になるのだろうか。

 もっとも、懸念材料があるとすれば、ここにきてダルビッシュが調子を落としていることだ。今月17日に地元で行われたアスレチックス戦では、5回を投げて自己ワーストタイの7失点。4日のアストロズ戦では4回5失点を喫したのに続き、9月に入って2度目の乱調だった。結果として、8月17日の時点では2.75だった防御率が3.81まで悪化してしまった。

 気になるのは、今月17日の試合後、ダルビッシュがこの日の不調の原因として制球の悪さを挙げていたことだ。恐らくダルビッシュが意味したのはコマンド(狙った場所に投げる能力)の方だが、過去5試合で合計15四球とコントロール(ストライクを投げる力)も乱れている。7月27日から8月17日までの5試合で3四球だったのと比べれば、急増と言っても大げさではない。

「トミー・ジョン手術から復帰1年目では、制球にばらつきが出るのは仕方ない。それはどんなピッチャーにも起こること。ダルビッシュも完全に本領発揮するのは2017年以降になるだろう」

 先月中旬、実は前述のスカウトはこの状況を予言するようなコメントを残していた。一時的に不振に陥ることはどんな投手にもあるだけに、大げさに騒ぎ立てるべきではないのかもしれない。しかし、例外はあるとはいえ、トミー・ジョン手術を受けた投手のコマンド、コントロールが復帰1年目に不安定になることが多いのは事実である。

「変化球のクオリティは本物であるだけに、その未来は明るいと思っている。カーブが“アウトピッチ”だが、実際には打者を打ち取れる変化球を複数備えている。スライダー、チェンジアップも上質で、標準以上の速球に上手く混ぜ合わせて使っている。本当に良い投手で、今後もそうあり続けることだろう。コマンドが好調の日は、メジャー最高クラスのひとりだ」

 大ベテランスカウトはダルビッシュの力を最大限に評価した上で、やはりコマンドを鍵として挙げていた。だとすれば、今後もその部分がバロメーターとなっていくのだろう。プレーオフの時期に向けて、制球を取り戻し、多彩な変化球をコーナーに決めて、ア・リーグの強豪たちをなで斬りにしていけるか。それともトミー・ジョン手術から復帰1年目の通例に倣い、今秋はやや波が激しくなってしまうのか。

 これから余程のことがない限り、ダルビッシュは10月7日のア・リーグ地区シリーズ第2戦で先発登板することになるはずだ。リーグを代表する強豪たちとの問答無用の勝負がそこから始まる。日本最高級の素材が支配的な姿を取り戻すべく、シーズン終盤の投球のクオリティ、制球力からも目が離せない。(文・杉浦大介)