2016年は日本人投手の当たり年と言って良いのだろう。

 トミー・ジョン手術から復帰したダルビッシュ有(レンジャーズ 6勝5敗、防御率3.53)、ア・リーグで防御率のタイトルを争う田中将大(ヤンキース 14勝4敗、防御率3.07)、メジャー1年目ですでに16勝を挙げた前田健太(ドジャース 16勝10敗、防御率3.28)……そしてもう一人、マリナーズの先発ローテーションを支えてきた岩隈久志の活躍も忘れるべきではない。

 今季の岩隈は渡米3年目の2014年に挙げた15勝を上回り、すでにメジャー自己最多の16勝(12敗、防御率3.96)をマーク。野茂英雄(3度)、松坂大輔(2度)に続き、15勝以上を複数回達成した史上3人目の日本人投手となった。今季のマリナーズはシーズン終盤までワイルドカード争いに残り続けているが、その投手陣を支えたベテラン右腕の功績は大きい。

 岩隈についてメジャーの打者たちに意見を求めると大抵は絶賛が返ってくる。アストロズの正捕手、ジェイソン・カストロは「(岩隈は)もともと質の良い球を持っているというだけではなく、すべて丁寧にコントロールしてくる。例えカウントを悪くしても、甘いコースに投げてストライクを取りにいくようなことはしない。どんな状況でも、自分の投げたいボールを投げることができるピッチャー。思った通りの場所に投げ込む力があるから、捉えるのは極めて難しい」と語り、今季39本塁打のブルワーズの外野手、クリス・カーターも「ストレート、スプリッター、スライダーをすべて上手にコントロールしてくる丁寧なピッチャー。スプリッターの制球も見事で、ほとんどミスを犯さないことがとても印象的だった」と岩隈を評価する。

 過去5年間で3度も14勝以上を挙げてきた投手ならそれも当然なのだろう。ただ……日米両方のメディアの間で、岩隈は基本的に“見過ごされてきた”ピッチャーというイメージがあるのも事実ではある。

 昨オフ、一時はドジャースとの3年4500万ドルの契約がまとまりかけるも、メディカルチェックの結果、破談になったというドタバタ劇があった。結局はマリナーズと1年1200万ドルで再契約(2017〜18年のオプションは球団が持つ)するに至ったが、いくら複数のインセンティブが付与されているとはいえ、これまでの実績を考えれば1年契約は低評価としか言いようがない。

 過小評価の理由の1つは、注目度の低いマリナーズというチームに属しているからだろう。それと同時に、ケガが多く、フィジカル面で弱いという印象が付きまとっているのも大きいに違いない。毎年のようにシーズンのどこかで故障離脱するため、耐久力が重視されるメジャーにおいて、先発投手として最高級の評価が得られなかったのである。

 そういった意味で、4月12日に35歳になって臨んだ今シーズンの活躍の意味は大きい。大エースのフェリックス・ヘルナンデスですらも一時は故障離脱したなかで、1年を通じてローテーションを守り切った。防御率こそやや悪くとも、メジャーでは自己2度目の200イニング突破は目前。また、疲れが見えるはずのシーズン終盤に入っても、高齢投手が好内容の投球を続けていることは特筆に値する。

 9月の5度の先発機会中、4戦でクオリティ・スタート。20日のブルージェイズ戦こそ4回途中で5失点と打ち込まれたが、他の全ゲームでチームに勝利のチャンスを供給した。この月の、29回1/3を投げて22奪三振、8四球という安定した内容は胸を張って良いものだろう。

 「入団時の紆余曲折を考えれば、マリナーズが彼を安価で獲得できたことはほとんど“スティール”だった。ラッキーだったと言って良いでしょう」

 シアトルのラジオ局のレポーターとして長くマリナーズの取材を続けてきたシャノン・ドレイヤー記者は、岩隈のことを2014年にそう評していた。そして、同じ形容は2016年にも当てはまるのではないか。

 今季はすでに150イニング以上を投げ、250万ドルのインセンティブをゲット。さらに162イニングも突破したため、来季のオプションがピックアップされることも確定した。昨オフの低評価のあと、自身の力でそれらを勝ち取ったのだから、余計に意味があるように思えてくる。

 まだ実績に見合った注目度を得ているとは言い難い。それでも、すべてを考慮すれば、サイ・ヤング賞候補になった2013年、15勝をマークした2014年に続き、岩隈は今季も“密かに”ハイレベルのシーズンを過ごしていると言って良いのだろう。(文・杉浦大介)