イングランドで開かれたラグビー・ワールドカップで、過去2度優勝の強豪南アフリカを破る世紀の大金星を日本が挙げたのは、昨年9月19日(現地時間)のことだった。あれから1年。9月20日には日本で開催される次のワールドカップまであと3年となり、12の開催都市への表敬訪問も始まった。本来ならアジアで初めて開かれる世界最高峰の大会、そして、そこでの日本代表の更なる活躍に期待感が高まる時期のはずなのに、SNSで発信される選手やファンの声やメディアの論調には、むしろ危機感の方が色濃く現れている。

 日本ラグビーの中核であるトップリーグ。昨シーズンは序盤に配券の見込みの甘さから前売り段階でチケットが売り切れにも関わらず観客席には大きな空席が残るという失態を演じたものの、当時五郎丸歩選手が所属していたヤマハ発動機vsキヤノン、ともに日本代表選手を多く擁するサントリーvs東芝の2試合が行われた昨年12月26日には、トップリーグ史上最多の2万5164人の観客数を記録するなど、シーズン全体を通じては多くの注目を集めた。その結果、シーズンの総入場者数はこれまでの最多だった39万6421人(2014-2015シーズン)を大きく上回る、史上最多の49万1715人を記録した。

 ところが、今シーズンは開幕から空席が目立っている。10月8、9日の第6節まで終わった時点では、パナソニックとサントリーという強豪同士の対戦(9月17日、秩父宮ラグビー場)に1万1318人が集まったのが最高。一方で、9月2日のキヤノンvsヤマハ発動機(東京・町田市立野津田公園陸上競技場)の1159人を筆頭に、観客数が千人台の試合が48試合中6試合あった。このため、1試合平均の観客数も4843人と、ワールドカップ2015前に近い水準まで落ち込んでいる。

 特に、金曜日の秩父宮ラグビー場でのナイトゲームがなくなり、土曜日の秩父宮開催もなかった第6節は、8試合の合計観客数が今シーズン初めて3万人を割り込んだ。都心の交通の便が良い秩父宮ラグビー場に集客を依存している体質が改めて明らかになる一方で、ファンや選手からは、事前の集客努力や試合当日の観客サービスが欠如した例が目立つ地方開催に対して、その是非を問う声が上がるようになっている。

 こうした現状を鋭く指摘したのが、日本経済新聞が10月4日付で掲載した「改革待ったなし ラグビー界『失われた1年』」だ。この記事は多くのファンが支持。日本代表の畠山健介(サントリー)も「全てが書かれている。」とツイートしている。

 現状に危機感を抱いている選手は畠山だけではない。田中史朗(パナソニック)は、日刊スポーツが9月に掲載した連載企画「日本ラグビーを語ろう」の中で「昨季は満員にもなったスタンドも、今季は元に戻ってしまった。本当にさみしい」と嘆き、日本ラグビー協会に自己変革を強く求めた。

 一方、ワールドカップでの大活躍でラグビーブームを作った日本代表もまた、準備の遅れが目立つ。2019年に向けて日本代表を任されることになったジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の就任は、本人のスーパーラグビーの契約を優先し、ワールドカップから1年後の今年9月。このため、昨年のワールドカップ以降に行われた日本代表戦7試合のうち、若手中心の選手構成で臨んだアジア選手権の前半4試合はU‐20日本代表の中竹HC、スコットランド戦など後半3試合はサンウルブズのハメットHC(当時)が、それぞれHC「代行」として戦った。ジョセフ体制になった日本代表は、ようやく10月10日に初練習。イングランド代表HCに転じた前任者のエディー・ジョーンズ氏が既にシックス・ネーションズとオーストラリア遠征を戦い、ラグビー発祥国復活への地歩を着実に固めて2シーズン目に入っているのとは対照的だ。

 ジョセフHCが初めて指揮する日本代表は、秩父宮ラグビー場で行われる11月5日のアルゼンチン代表戦に続き、欧州でジョージア、ウェールズ、フィジーと対戦する。10月10日現在の日本の世界ランクは12位。一方、対戦相手の4チームはいずれも日本より上位だ。ただし、伝統あるシックス・ネーションズの一角のウェールズ(世界ランク5位)、ニュージーランド、南アフリカ、オーストラリアとともに南半球のラグビーチャンピオンシップを戦うアルゼンチン(同9位)が強豪である一方、フィジー(同10位)、ジョージア(同11位)は日本と同じ「ティア2」と呼ばれる世界の第2グループだ。

 エディー・ジョーンズ前HCは就任1年目の欧州遠征でジョージアに勝ってチームに自信を付け、2013年にウェールズ、2014年にはイタリアとシックス・ネーションズ勢を次々と破ってワールドカップに向けた期待感を高めていった。その再現となれば、再びワールドカップに向けて勢いを付けられるマッチメイクと言える。

 しかし、ジョセフHCは9月5日の就任記者会見で「結果を求めるのはワールドカップ」と、11月のテストマッチの目標については慎重な表現に終始した。確かに、就任直後に短い準備期間でアルゼンチンと対戦し、さらに相手の本拠でウェールズと戦うことは荷が重い。2019年での成功を目指すなら、目先の勝ち負けに拘泥せず、長期的な視野で臨もうとするのももっともだ。

 だが、「失われた1年」で、日本ラグビー界にはそれを許す余裕はなくなっているのではないか。これからのテストマッチ4試合が仮に世界ランク通りの結果となれば、ファンの期待感もメディアの注目度も一気にしぼむ可能性は高い。

 11月5日のアルゼンチン代表戦から始まるテストマッチ4連戦。これからの日本ラグビー、そして、2019年のワールドカップの成否にも関わる大切な戦いが始まる。