ネットにあふれる言葉がわからない──。中高年から最近、こんなボヤキが聞かれるようになった。そんな人のために、今回、編集部では「若者ことば辞典」を作ることに。言葉は生き物。世相も反映する。言葉から若い世代に歩み寄り、心の若返りをはかろう。

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 今回、辞典作成の任務を託された編集部の若手記者(男性・32歳)の自信は早々に打ち砕かれた。若者のツイッターをのぞいてみると……。

「ほーんとに講義お暇。まじメンディー。しかもバイトシフト明日提出とかなえぽよフィーバーのポヨポヨピーナッツなんすけど。ワンチャン居眠りして家まで秒で帰るわ。」

 ポヨポヨピーナッツ!? わ、わからん……。

 ツイッターやLINEなどコミュニケーション手段の多様化によって、若者の言葉は“進化”している。子や孫が使う言葉がよくわからないという読者は多いのではないか。そんな読者のために、編集部では、ネット上やSNSを中心に使われる若者の言葉を理解するための「基礎語彙表」を作成した。しかも、難易度別、採点表付きだ。

 ただ、言葉は使いこなせないと意味がない。作成した記者も完全マスターすべく、基礎語彙表を携え、若者文化を発信する街、渋谷センター街へ。SNSネイティブをつかまえて、知識をブラッシュアップしようと思ったのだ。

 仕事とはいえ、“イケイケ”の若い子に声をかけるのは、かなり勇気がいる。いかにもサラリーマン然とした記者は浮いて、あやしいキャッチかナンパに思われているよう。誰も目を合わせてくれない……。

 おやじ狩りにおびえながら粘ること、3時間。

「こんな時間まで仕事して大変ですね」

 夜8時、同情してくれる女の子が2人現れた。まさに神!(注:驚き感心するときに使われる接頭語)。はなちゃん(18)と、つるちゃん(23)という原宿系の女の子で、充電ができる場所でお茶をおごることを条件に協力してくれた。はなちゃんは基礎語彙表を見て、さっそくツッコミ。

「『あーね』は言わないですね。古い古い(笑)」

 最新の言葉だと思っていたのに……。記者として情報収集能力の低さを指摘されたようで落ち込む。

「今は『あーね、り』です。『あーなるほど、了解』のことを言うんです。ノリで使う感じですね」(はな)

 な、なるほど。使い方の問題か。間髪入れずに次のツッコミがくる。リストの中に「gm」(注:「おはよう=Good Morning」の略語)を見つけて、はなちゃんは言う。

「gmは、大文字のGMじゃなくて必ず小文字にする。おしゃれな感じで使わないと」

 ごめんなさい。言っている意味がわからない。

「gがかわいいから、オシャレなんですよ。GMはダサい」(同)

 字の形の丸い感じがかわいいのだという。全く共感できなかったが、「わかります、わかります。なんとなく」と調子を合わせた。今度はつるちゃんが言う。

「『らぶりつ』(注:ツイッターで「いいね!」と「リツイート」をしてほしいときに使う用語)は、高校生がツイッターとかで使ってる。『らぶりつください』って。いま、ドクモもどきみたいな子が多いから」

 え、ドクモ?

 聞き慣れぬ言葉に、おずおずと「『DOCOMO』もどき?」と聞き直す。

「ドクモになりたい子たちが多いから」(つる)

 それでも理解できず「毒も?」と聞くと、

「読者モデル!」(はな)

「もう何年も前の言葉ですよ〜」(つる)

 とあきれられる始末。雑誌の読者モデルになりたい子が、自分のPRのためにリツイート(相手の発言のコピーを拡散する行為)をお願いすることが多いそう。 最後に、冒頭の「ポヨポヨピーナッツ」はどういう意味か聞いてみた。笑いをこらえながら、はなちゃんが教えてくれた。

「わけのわからないことを遊びでつぶやく感じで、意味はないですよ。訳すと、『本当に講義が暇。マジで面倒くさい。バイトのシフトを明日提出するの、すごく気持ちがなえる。ちょっと居眠りして、すぐ家に帰るわ』です」

 さすが、完璧な翻訳。

 別れ際、連絡先を教えてもらい、参考までに親とのLINEのやりとりを画像で送ってほしいとお願いした。もちろん、ナンパ目的ではありません。

 その後、「これでどうですか」と画像が送られてきたので、返信で腕試し。

「おけまる(顔文字)」(記者)

「おけまる!笑 宜しくお願い致します!!」(はな)

 違和感なし。ちなみに親ともこんな言葉を使っているのか尋ねると、

「『り』とか『りょ』はママも使いますよ。『いま電車のったー』とかLINE送ったら、ママが『りょ』とか。初めてそれが来たときはなんかかわいくてニヤニヤしました」(同)

 とのこと。親が娘と良好な関係を築くのに一役買っているようだ。

 言葉はお互いを理解するためのツール。基礎語彙表を熟読すれば、若者たちの感性を理解でき、歩み寄れるはず。18歳とちょっと距離が縮まったと思ったのは、記者の勘違いではない、と信じたい。

※週刊朝日 2016年10月7日号