8月23日、フェイスブックに【麻疹に関する注意喚起】という一文が投稿された。投稿者は、国立国際医療研究センターに設置された感染症の蔓延(まんえん)を防止する専門チーム「国際感染症センター」だ。

 関西空港ではしかに感染したとみられる関西在住の19歳の男性が、8月13〜15日に東京・神奈川・千葉を旅行し、14日には千葉・幕張メッセであったジャスティン・ビーバーのコンサートに出かけていたことを受けて、全国の医師に注意を促すものだった。

 はしかは「空気感染」する感染力の強い感染症だ。

 同センターに所属する12人の医師を束ねているのが竹下望医師(40)。今夏、はしかの感染拡大防止に奔走した。

 今年に入って、国内のはしか感染者は130人。昨年1年間の国内の感染者が35人だったことを考えると、不気味な数字だ。

 こんなとき、竹下さんが最初にするのは、事態を正確に把握し、最善の対策を見いだすための「場」をつくることだ。

●適切に判断するために

 医師の仕事全般に言えることだが、感染症対策は「判断」の連続。適切な判断には現状把握と、それを照らし合わせるデータベースが欠かせない。12人が集まれば、12人分の情報から現状を知り、12人分の知見をベースに対策を立てられる。

 いまできる対策は、とにかくワクチンを接種して拡大を食い止めること。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局は日本を「排除状態」、つまり、はしかを撲滅したと認定していた。すでに全国でワクチンが不足しているが、実は竹下さんは日本未承認の「はしか・おたふくかぜ・風疹三種混合MMRワクチン」をストックしていた。

 13年に、風疹が流行したときに、竹下さんのチームは、ワクチン不足に陥り確保に奔走しながら「日曜日風疹ワクチン外来」を開設した経験があったからだ。

 発症者に成人男性が多かったため、仕事を休まずにワクチンを接種できるよう、期間限定で感染症センター内に設けた。ワクチンを接種したい人が接種できないという事態は避けなくてはならない。

 10人の医師に加え、病院の幹部・医事課の承認、休日出勤のシフト繰り、外部の医師や看護師の協力など、全体を指揮。3カ月で333人が受診し感染拡大を食い止めることができた。

「地味な仕事に聞こえるかもしれませんが、こういう下支えをしっかりやることが、日本全体を感染症から守ることにつながるのだと思います」

 啓発も必要だ。

 分別があるはずの19歳の男性が、症状が現れているにもかかわらず不特定多数の人と接触するコンサートに行ったということ自体、日本人の感染症リテラシーの低さを露呈している。竹下さんは個人で講演を行うほか、冒頭のようにフェイスブックなどのSNSを通じて、積極的に発信もする。

●「もしも」への備えを

 竹下さんたちの報告が、国内発症の1例目となるケースも少なくない。いたずらに不安をあおらないよう、外に出す情報とタイミングは必ずチームで検討する。毎朝15分間のミーティングをはじめ、注意喚起のアイデアをメーリングリストで共有もしている。

「どれだけ『もしも』に備えられるか。チームメンバーから提案された対策プランのすべてを実行に移せるわけではないのですが、今後も続けていきます」

(編集部・竹下郁子)

※AERA 2016年10月10日号