天鐘(1月23日)季節の訪れを告げるようにパッと開く早咲きにも心ときめくが、盛りを過ぎたあたりに静かに装う遅い花の味わいも捨てがたい。「遅咲き」は人間の世界では大器晩成に通じる▼津軽には「大きなねぶたは最後に出てくる」という言い方がある。花も出番が遅いほど大きく、美しいか。皆が待っていた大輪だ。ねぶたの武者絵のごとき風貌。大関稀勢の里、念願の初優勝である▼早くから横綱候補の最右翼と言われて「あと一歩」が届かなかった。ため息や罵声を何度も浴びた。悔しさ、ふがいなさを胸にしまって上がり続けた土俵。ついに差した光が大賜杯を輝かせて、万感の初場所千秋楽になった▼抜群の力を持ちながら、ここ一番での気弱さをこれほど指摘された人もない。そうした人間味に逆にファンが増えていった。人生、そう簡単に行くものじゃない。もがく大器に多くの人が心を寄せた▼「三年先の稽古」と角界では言う。つらい四股も地味なテッポウも目先の結果ではなく、将来につなげるためのもの。苦節15年、30歳。相撲道を愚直に歩んだたたき上げが、それが間違いではないことを証明してみせた▼先代の親方は青森出身の元横綱隆の里。病気に耐えて頂に上り詰めた。「悩む前に稽古しろ」。苦労を知る亡き師匠の教えを心に刻んで春3月、恐らく純白の綱で土俵に立つ。浪速の桜が出迎える。花はまだまだ、これからである。