スティーブ・ジョブズがパーソナルコンピューティングやモバイルフォンを変えた天才であるように、スーパーカーの世界にも天才と呼ばれる人たちがいる。そのひとり、オラチオ・パガーニが設立した「パガーニ」は、芸術的かつオンリーワンのクルマを作るスーパーカーメーカーだ。厳選された極上の素材やパーツを惜しみなく使い、すべてハンドメイドで組み上げられるスーパーカーは、もはや工業製品というよりアート。2億円以上の価格にもかかわらず、世界中の超富裕層がパガーニを手に入れるために長い列をなしているのだ。

パガーニは、エンジニアやデザイナーではなく「芸術家」が作っているアート作品


イタリア北部のモデナ近郊、サンチェザリオ・スル・パーナロに本拠地を置くパガーニは、デザイナーとしてランボルギーニに9年間在籍したオラチオ・パガーニによって1992年に設立されたスーパーカーメーカー。クルマはビルド・トゥ・オーダーにより、職人たちがハンドメイドで組み上げ、2億円を超えるプライスタグがつく。

日本でも数年前、「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長がパガーニ「ゾンダ」をオーダーしたことで話題になった。現在生産されているのは、このゾンダの後継モデルとなる「ウアイラ」シリーズ。メイン写真は、限定20台の特別モデル「ウアイラBC」だ。

ウアイラは、カーボン・チタニウム製のセンターモノコックによる1350kgの軽量ボディに、メルセデスAMGのV12ツインターボを搭載。AMG製といっても、ウアイラのために再設計された特別なエンジンで、最高出力730hp/5800rpm、最大トルクは驚異の1000Nm/2250〜4000rpmを発生する。3.3秒の0-100km/hタイム、最高速度360km/hは、V12エンジンを搭載するスーパースポーツのなかでもトップクラスだ。

しかし、パガーニをパガーニたらしめているのは、じつはこうしたスペックではない。

「パガーニを作っているのは、エンジニアやデザイナーではなく芸術家。ビジネスマンであれば、顧客のニーズに応じて商品を開発しますが、オラチオ・パガーニ氏はそうではありません。作りたいから、作っている。それがパガーニというスーパーカーメーカーであり、オラチオ氏なのです」。そう話すのは、希少なスーパーカーを取り扱う「ビンゴスポーツ」代表で、正規ディーラー「パガーニ東京」の代表をつとめる“スーパーカーを知り尽くす男”、武井真司さんだ。



芸術の域にまで高められたパガーニのパーツ、工芸品のように美しいギアレバー


武井さんがパガーニ東京を立ち上げたのは、2005年にジュネーブモーターショーで発表された「ゾンダF」と出会ったことがきっかけだったという。

「乗った瞬間、『買わなければいけない』と思いました。『これが私の作ったクルマだ』というオラチオ氏の強いメッセージが五感に訴えかけてきたんです。これこそ、僕が探していたスーパーカー。たんなる工業製品ではない、『オンリーワン中のオンリーワン』のスーパーカーだと」

カーボンファイバー、チタニウム合金、削り出しのアルミニウム、特級のレザーといった極上の素材をはじめ、パガーニに使われているパーツはすべてオラチオ・パガーニによって厳選されたもの。メーターの針ひとつを取っても緻密に設計されている。マニュアルギアシフトのようなアルミニウム製のギアレバーは、まるで工芸品や美術品のような美しさだ。







クルマの加工や組み立てに用いる「治具(じぐ)」などもオラチオ自身が設計し、常に美しく磨き上げられている。パガーニの工場そのものが、オラチオ・パガーニという芸術家のアトリエなのである。

「芸術品の域にまで高められたパーツを組み上げていくので、クルマ自体も芸術的なものになります。そのため、パガーニは分解しても美しい。しかも、最新のデジタルデバイスを用いず、あえてアナログ的手法で極限まで作り込んでいます。だからこそ、パガーニは『本物』のオーラを放つのです」





パガーニのオーナーには「自分の価値判断で物事を成し遂げてきた成功者」が多い


本物であるがゆえに、パガーニは「並の富裕層」では手に入れることができない。「パガーニのオーナーには、人の価値基準にとらわれることなく、自分の価値判断で物事を成し遂げてきた成功者が多い」と武井さん。クルマだけではなく、オーナーにも「本物」が求められるわけだ。

「パガーニは歴史が浅いので、ブランド力ではまだフェラーリやランボルギーニに及びません。その分、高級腕時計の精密な美しさや完成度のような、本物を見極められる人に訴えかける魅力があります。誰もが知っているブランドではなく、人とは違うオンリーワンを求める人が行き着くのがパガーニなのです」

パガーニを所有するためには、数千万円もの予約金の支払い、仕様決定を経たのち、納車まで2年以上待たなければならない。さらに、パガーニが特殊なのは、特注のハンドメイドなのに、すべてがオーナーの思い通りの仕上がりになるとは限らないことだ。

「オーナーは、完成に至るまでに何度でもアトリエと呼ばれるパガーニ本社工場を訪れることができるのですが、足を運んで打ち合わせを重ねるほど、オラチオ氏のテイストに影響されて、当初思い描いた完成像とは違うクルマに仕上がることも多々あります」

それでも、オーナーの満足度は高いという。オーナーの考えのさらに先を見抜き、その想像を超えるものを完成させる。そんなところも、オラチオ氏が天賦の才能を持つ芸術家と称されるゆえん。オラチオ氏にとって、クルマ1台1台が自分の命を吹き込んだ「作品」なのだ。



オラチオ・パガーニは、エンツォ・フェラーリやスティーブ・ジョブズと並ぶ天才


「オラチオ氏の存在は、フェラーリ創業者のエンツォ・フェラーリや、アップルのスティーブ・ジョブズとオーバーラップします」と武井さんは語る。

「自分の美意識や哲学、理想を徹底的に追い求め、そしてビジネスとして成功に導く。パガーニこそ、現代における本物のスーパーカーメーカーです」

芸術品に近いスーパーカーだけに、パガーニは現在、年間20台ほどしか生産されていない。その希少性も加わって、世界中の超富裕層やセレブリティがパガーニを購入するために何十人も列をなし、順番待ちをしている状態だという。

いつの日か、より大きな成功を収めて、この本物かつオンリーワンのスーパーカーを手に入れたい…。天才が作り上げたパガーニという芸術的なスーパーカーは、大人の男にそんな夢を抱かせるクルマなのである。