「アバルト」のスコーピオンエンブレムには、長い歴史がある。元をたどると、フィアットの小排気量車をベースにしたエンジンチューンやレース車両の製作を手がける自動車メーカー、「アバルト&C.」へと行き着く。「アバルト&C.」は1971年、フィアットに買収されレーシング部門を担うようになるが、1981年には会社自体が消滅。アバルトの名は残ったが、会社としての歴史は途絶えた。「アバルト&C.」の名称がFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルス)の一組織として復活したのは2007年。その翌年の2008年には、新型『フィアット500』をベースとした『500アバルト』を発表。世間の耳目を集めた。そのアバルトが新たに手がけたのが『アバルト124スパイダー』である。

『マツダ・ロードスター』をベースにアバルトが味つけを施した『124スパイダー』


そもそも『124スパイダー』は、WRC(世界ラリー選手権)をはじめとする様々なレースにおいて、幾多の栄冠を手にした名車である。その名が、40年の時を経て『アバルト』ブランドとして甦った。

ベースとなったのは、新型『マツダ・ロードスター』。生産はマツダが本社工場にて行い、スタイリングデザインやパワートレイン、室内装備・材料、サスペンション及びステアリングフィールはFCAが独自で開発した。

心臓部には、1.4Lマルチエア4気筒ターボエンジンを搭載。最高出力170ps、最大トルク250Nmを発揮し、0-100km/hの加速は6.8秒(欧州仕様参考値)となっている。軽量素材の使用によって車両重量は1150kg(マニュアルモデルは1130kg)に抑えているので、パワーウェイトレシオはクラストップの6.2kg/hp(乾燥重量1060kgの場合)を達成した。

また、エンジンノートは、エンジンの回転数に応じて排気経路が変わる「レコードモンツァ・デュアルモード・エキゾーストシステム」をアクセサリーで設定。心地よい深みのあるサウンドを愉しむことができる。





トランスミッションは6速マニュアルと6速オートマチックを設定。マニュアルはストロークの短いダイレクトなレバーによる速やかで正確なシフトが特長だ。オートマチックはトルクコンバーターを採用し、エンジントルクをフルに活用するとともに本格的なレーシング感覚を実現している。

エンジンとトランスミッションから産みだされるパワーを路面へと伝えるサスペンションには、フロントにダブルウィッシュボーン式、リアに5アームのマルチリンク式を採用。コーナリング時や減速時の安定性を高めるよう特別なチューニングを施した。





『マツダ・ロードスター』とは異なる『アバルト124スパイダー』独自のデザイン


エクステリアで印象的なのは、フロントエンドのオリジナルラインと六角形のフロントグリル。『ロードスター』とは一線を画す『アバルト124スパイダー』ならではの個性を主張している。ボンネットの膨らみはエンジンが縦置きであることを示唆するもので、オリジナルの『124スパイダー』を彷彿させる。


インテリアは見られることを意識したスタイリッシュな造作だが、その根底にあるのはドライバーズファーストの思想。シートはサポート性と快適性を兼ね備えていると同時に、ドライバーがクルマの挙動を感じやすいように可能な限り後方に低くセッティングされている。ちなみに、シートの素材はアルカンターラとレザーの組み合わせに加え、オプションでオールレザーを選択可能だ。




オープンカーらしいのは、快適性の確保のために標準装備されたシートヒーター。そして、防音型のウィンドスクリーン、リアウインドウ、2層ソフトトップを設置することで高い遮音性能を実現した。ソフトトップの開閉は手動だが、運転席から片手で簡単に行うことができる。

軽量でキビキビと、鋭く走る姿は、小さくても侮れない一刺を持つサソリそのもの。40年ぶりにその名が復活した『124スパイダー』に、伝統の『アバルト』のチューニングと『ロードスター』の技術が加わった1台。走りを堪能できるピュアスポーツであることは間違いないだろう。