2009年1月15日に米ニューヨークで起こった航空機事故を題材にした映画「ハドソン川の奇跡」で顔を合わせたクリント・イーストウッド監督とトム・ハンクスに、映画.comがハリウッドで取材を敢行した。

 乗客155人を乗せたUSエアウェイズ1549便がニューヨーク・マンハッタンの上空850メートルで制御不能になるトラブルが発生。サリー機長(ハンクス)は前代未聞の“ハドソン川着水”を決行して乗客全員の命を救うが、国家運輸安全委員会に容疑者として扱われ、事態はサリー機長の責任問題へと発展する。

 イーストウッド監督は、事故当時を回想し「とても印象的な、象徴的な映像だった。それ(飛行機)が水の上に大勢の人たちと浮かんでいるショットはね。僕は『興味深いね』と言ったよ」と語る。一方のハンクスは、「僕は自分がそのとき『なんてこった。この国が最後に望むのは、飛行機がニューヨークでクラッシュして、大勢の人たちが死ぬことなんだ』と、はっきりと考えていたのを覚えている」と脳裏に9・11(アメリカ同時多発テロ)がフラッシュバックしたと明かす。

 ハンクスは「だからこそ、(映画では)“何が起こらなかったか”を見てほしい」と続ける。「その日のヒーローは誰? サリーが救った苦悩を見て! 彼は(9・11で傷ついた)国全体を救ったんだ。特にニューヨークをね。その部分が、この映画における唯一の編集した視点だね。それ以外はすべて、手順や行動や規則、何が起こったかを克明に再現している」と熱弁をふるった。

 イーストウッド監督とハンクスは、「アメリカン・スナイパー」「J・エドガー」「アポロ13」「キャプテン・フィリップス」など、実話を基にした作品を数多く世に送り出しており、監督としても俳優としても“実話もの”のエキスパートといえる。イーストウッド監督は、実話ものとしての本作の側面に着目し「彼ら(観客)はその“真ん中”を知らない。この映画を見たあと、彼らはそのことを完全に理解することになるんだ」と含蓄のある意見を述べる。本作は、事故発生から着水までの一部始終が描かれるだけでなく、“英雄”と思われていたサリー機長が苦悩する姿に焦点を当てており、真ん中どころか裏の裏まで徹底的に描いている。

 イーストウッド監督と共に“真実”を伝えるべく尽力したハンクスは、撮影を振り返り「時々、監督は撮影をカットしない。ずっとカメラを回し続けるんだ。だから、その(キャラクターの)振る舞いがどういったもので、自分がしていることについてちゃんとアイデアを持っていないといけない」と、イーストウッド監督作特有の“怖さ”を告白する。ハドソン川での救出シーンでは「消防隊員のような多くの本物の救急隊員がいた。150人はいたかな。彼らがカメラと一緒に(演技を)始めるのを見ることができて、『オッケー、僕らは今カメラに映ってない』と言ったりしていた。でも、気をつけていないと、彼らと一緒にカメラがまた戻ってくる可能性があるんだ(笑)。『まずい、僕らはまた映ってる。早くちゃんと振る舞わなくちゃ』となったりした。気を抜けなかったよ」とジョーク交じりに語った。

 監督の言葉によれば、それは「僕は、演技は知的なアート・フォームだと信じていない。それは直観的で、動物的なアート・フォームなんだ」という考えから。「物事に対する、人々の自然な直感が重要なんだ。俳優たちは、自分が何をしないといけないか、どうすることになるか心の奥ではわかっている。でも実際は、現場でそれをやるまでどうなるかがわからないんだ」と俳優としても長年活躍するイーストウッド監督らしい意見を述べた。

 「ハドソン川の奇跡」は、9月24日から全国公開。