ゴーストライター騒動で注目を集めた佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー「FAKE」が10月14日、開催中の京都国際映画祭内「ドキュメンタリー:森達也特集」で上映され、森達也監督をはじめテレビ東京大橋未歩アナウンサー、映画祭総合プロデューサーの奥山和由氏がよしもと祇園花月でのトークショーに出席した。

 「A」「A2」でオウム真理教に迫った森監督が、佐村河内氏の自宅で取材を行い、その素顔を映し出した。映画では佐村河内氏が作曲に踏み出す場面があり、森監督は「曲を作ると言ってから、何でかは覚えていないんですが僕が頭にきて、撮影に行かない時期があった」と振り返る。その間も佐村河内氏から「シンセサイザーを買おうと思う。撮影に来てください」と連絡が来ていたそうだが、「誰が行くか馬鹿野郎と思っていた」と苦笑交じりに明かした。それでも「その1カ月後くらいにクールダウンしたので、行ってみました」といい、「『シンセ買いました』と言われ、しまったと思った」と告白。「作曲もだいぶ進んでいて、そこも撮れていないのでまずいと思った」と痛恨のミスを悔やんでいた。

 一方で奥山氏は、佐村河内氏の楽曲に興味津々。「CD出さないの? この映画でおしまい?」と聞くと、森監督は「うーん、見に来たレコード会社の人が『ぜひ』と言っていたけどね」と回答。続けて奥山氏は「個人的に出したい。耳についてしょうがない。お世辞抜きに本当にいい曲」と絶賛し、「吉本興業で出します!」と啖呵を切ると、客席からは「おお〜!」というどよめきが上がった。「クレジットには作曲・佐村河内守と書く。本当に彼が作曲したんですよね?」と念を押したが、森監督は「それは誰にもわからない。でもまさか、この期に及んでそれをやったら大変なことですよ」と話していた。

 さらに観客から「音が聞こえているのでは、と思う瞬間はあったか」と質問が飛ぶと、森監督は「いっぱいありますよ」とキッパリ。「まず彼の場合は感音性難聴だから、音は聞こえているけど曲がって聞こえている。聞こえる音と聞こえない音があり、口の形である程度わかるわけです。でも初めて会う人はほとんどわからず、奥さんはだいぶわかるそう。体調によっても彼の耳は違う」と説明したうえで、「今言ったことは全部当たり前のこと。善か悪かはグラデーションなんです。ところがメディアは、騒動前は天才作曲家と持ち上げ、騒動後は叩く。1か0です。そうではなく、人の感覚はとても曖昧で、グレーゾーンがたくさんある」と、善悪のニ元論でははかれない問題があることを説いた。

 また奥山氏は、昨年の同映画祭期間中に森監督から「『佐村河内守を撮っているんですが、奥山さん出資してくれないですか』と言われ、そりゃダメだと断りました」と明かす。今作の出来栄えを目の当たりにし、「『しまった』と。素晴らしい映画。自分のボケっぷりに、覚醒しましたね」と悔んでいた。京都国際映画祭2016は、10月16日まで開催。