登山ガイドの渡辺佐智さんが、自然の中で採れる旬のごちそうを追ってあちこちの山へ。さて今回のごちそうは?

タマゴタケが出たら教えて! とお願いしていた名人からの電話。「おう、タマゴが出てるぞ」、「じゃ、明後日行きます」と私。

【山梨県のタマゴタケ】
テングタケ科
時期:7〜9月
生息場所:広葉樹林、針葉樹林内の地上
形状:傘は赤からオレンジで放射状の条線。ヒダと柄は黄色。根元に袋状のツボあり

○教えてもらった名人
梶原稔夫さん
本業は写真屋さん。かれこれ10 年くらい前に知り合って、いまでも仲良くしてもらっている。毒舌だけど根は優しいドラゴンズファン。

かわいくて、こわいもの。それは、きのこ

私は判断に迷っていた。採ったタマゴタケを家に持ち帰り、いざ料理しよう! とまな板にのせたところで見比べると、色が違う。傘の部分は両方ともツルンとして、オレンジから赤のグラデーションが美しいけれど、柄の色がオレンジと白いのと2種類ある。これは怪しい。図鑑とにらめっこすると、タマゴタケの柄はオレンジが正しい。ではこの白い柄のキノコは誰? もしや、あの有名な毒キノコ? どうやら、そのようだ。猛毒のベニテングタケの赤い傘につく白い斑点がとれてしまった状態らしい。たしかに山に入る前日に台風が来ていたからそれでとれてしまったのかもしれない。

そのときふと、ベニテングタケの毒成分(イボテン酸)は強い旨みをもつらしい、という話が頭をよぎる。危ない。本当に危険なのはキノコではなくて、それを食べるかどうか決断をする人間の食欲だ。私は渋々、ベニテングタケを冷凍庫にしまう。食べませんよ。食べないが、あんまり色がきれいなので、しばらく冷凍庫に入れて置いて、開けるときの鑑賞用として楽しみにしよう。 こういうこともあるので、キノコを山で探すには、詳しい人に教えてもらうのが安全だ。今回は名人の梶原さんに出勤前に山へ送迎してもらい、だいたいの出どころを教えてもらって一人で探したのだが、私にはとてもいい経験になった。

さて、少なくなってしまったタマゴタケはどう料理しようか。梶原さん一押しレシピのスープにするには、量が足りない。そこで、一人分の小さなオムレツをつくってみた。味付けはシンプルにバターと塩。火をいれてもキノコの香りはそれほど強くないが、ひと口食べて驚いた。その味は、動物性脂肪に負けない力強いコク。舌で感知した深い味覚は、そのまま一直線に大脳皮質に駆け上がり、幸せ脳内物質(決して怪しいキノコではない)が弾けて広がり、私の頭のなかにタマゴタケが咲いた。

秋のこの時期、熊にもご用心。今回は熊の出没箇所を教えてもらって近づきませんでした。

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1.採る道具はネットのスタッフサックとナイフ。ビニールに入れると蒸れて崩れてしまう
2.コメツガの森に木漏れ日が差し込む。苔に覆われた地面はフカフカでおとぎ話の森のようだ

その派手な色の見た目の印象とは裏腹に食用が可能というのも、愛らしい。

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1.タマゴタケについたゴミは水を使わずに丁寧に取り除き、バターを溶かしたフライパンで炒める
2.オムレツを食べ終わった後に飲んだ麦茶にも旨みを加えて、味を変えてしまうほどだった

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写真左)今回間違えたベニテングタケの白い斑点がとれたもの。写真右)ドクツルタケ。全体が真っ白。どちらも同じテングタケ科で、袋状のツボを持つ。そのなかで食べてよいのは、タマゴタケだけ。

○渡辺佐智(わたなべさち)
自然のなかで体を動かし、
おいしいものを食べることを愛する。
安全登山のための情報を
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