結論 とにかく現場に行け




まず結論から言わせて欲しい。良かった。まあまあ良かった。いや、かなり良かった。だからみんな今すぐ現場に行った方がいい。「現場」というのはライブや握手会など、アイドルと生で接する場所のことだ。ぼくは今回そんなことも知らなかったのだ。情けないことです。



アイドルオタクになんでも教えてもらえ



▲フリーライターの大坪ケムタさん


話はライブ開場の30分前にさかのぼる。まずは劇場近くの喫茶店で事前準備だ。

今回アイドルの「現場」を案内してくれるのは、フリーライターの大坪ケムタさん。アイドルについて著作もある他、雑誌・webで記事も多く手がけており、年間200件以上アイドルの現場に行っているという。

――そんなにアイドルってハマれるものなんでしょうか?

大坪「アイドルっていうと『かわいい女の子』目当てでみんな来るって思うでしょ? でも今のアイドルはそんな単純じゃないからね」

――えっ? 違うんですか?



アイドルの魅力は「生き様」と知れ


大坪「少なくともぼくはアイドルを顔で見てないですね。かわいいから良い、というものではない。アイドルは『生き様』ですよ」

――生き様……?!!

大坪「アイドルの興業にはストーリーがあるからね。最初は、それこそアイドルよりも観客が少ない『地下アイドル』みたいなところから始まって、だんだん大きな会場に移っていくという……」

なんか話聞いていたらよけい難しくなってきた。

大坪「これから行く『虹のコンキスタドール』は今勢いがすごいんです。2014年に結成されて、2016年に入ってから知名度が急激に上がっている。特に『根本凪(ねもとなぎ)』って子が雑誌のグラビアで売れてるし。斎藤君(筆者)も名前くらいは聞いたことくらいあるでしょ?」

うん。実は「虹のコンキスタドール」はアイドル好きの友達に勧められて、一度YouTubeの動画を見たことがある。その時は正直「かわいい女の子たちだな〜」以上の感想が湧かなかったが……。生で観たら「生き様」が伝わるのかな。



観る方も最初は不安




そんな話をしながらライブ会場に入る 。大坪さん的には、アイドルがノリにノっているタイミングでライブに来る斎藤くんはラッキー、みたいなことらしい。なんかハードル上がってきて、こっちが緊張してきたよ!





やがてライブが始まった。


ここAKIBAカルチャーズ劇場のライブは基本イスに座っての観覧。意外だ。みんな立って強烈に踊っている物だと思っていた。光る棒(サイリウム)を持っている人もいない。 キャパはザッと300人ほどだろうか。


会場の左端の方に座る。自然と左端の方で踊っている女の子に目が行った。この子を仮にAさんと呼ぼう。Aさんは目がキッとりりしくて、長い髪を後ろで一つに縛っている。



1分以内に推しを作れ


曲が始まって1分。


……なんか今、Aさん、ぼくと目が合わなかったか?


いやいや。こういうのは錯覚であることをぼくは知っている。演者が会場を見渡していると、観客は自分と目が合ったように思えるのだ。


とかなんとか考えていたら……あれ? またAさん、ぼくと目が合った。


これ、錯覚じゃないな……。目が合ってるよな……? んん……?


こうなってしまうと、もうダメだ。女の子たちの配置は曲に合わせてどんどん変わってゆくが、その中でAさんをずっと目で追うようになってしまう。


これ、ライブ始まってわずか1分ほどの出来事。ぼくに推し(お気に入りのアイドル)ができた瞬間だ。でも、ぼくはまだ名前もなにも知らないんだ。なんだろう、すごくソワソワする。



もどかしさにもてあそばれろ


ライブは、メンバー全員が常時ステージに出ているわけではない。メンバーがいくつかのグループに分かれて、曲ごとに入れ替わっている。



もどかしさにもてあそばれろ


Aさんが出ていないと「あれ……? 今の曲にAさんは出ないのか……?」などと思う。





逆にAさんがステージの中央でソロを歌い出すと「あれ……? Aさんはグループの中でも中心的な人物だったりするのかな? AKBでいうセンターみたいな?」などと思ってしまう。


しかしライブ中に明確な解説があるわけではない。そこが、ただひたすらに、もどかしい。それにしても、この何を見てもAさんを中心に考えてしまう感情は一体……? 謎である。



アイドルは生まれたての子犬である




それにしても、ライブをしているアイドルたちの「一生懸命さ」はすごい。


洗練されたミュージシャンの演奏を「競走馬が走っている姿」に例えよう。すると、アイドルの現場は「生まれたての子犬が全力でこっちに向かって走ってくる」という感じなのだ。


おれが受け止めないと、この子たちはどうなっちゃうんだ? まわりの観客たちは声援でアイドルを受け止めている。





声援の出し方にも定型があるようで、ぼくにはできないのが悲しい。これじゃ、生まれたての子犬が走ってくるのに寸前でかわしているようなものだ。


きちんと理解してまた来れば、ちゃんとみんなを受け止められる? でも、そんなに何回もライブに通っているなんて「アイドルにハマっている人」みたいじゃないか。


いや、アイドルにハマってみたくて、ここに来たんだけど、しかし、なんというか、カンタン過ぎるだろ! おれ!



最終的に何を観ても楽しい




そんな感情の大嵐とは裏腹にステージではなぜか「かごめかごめ」が始まって、





ゲームの進行で、Aさんが「しっぺ」をしていた。思い切り振りかぶった全力のしっぺは失敗していた。Aさん、虹のコンキスタドールの中でも抜群に歌はうまいのに、しっぺは下手なんだな……。下手でも良いか……しっぺは。





そして2時間ほどでライブは終了。よかったなあー。



推しは地獄在住の10万17歳


案内してくれた大坪さんとファミレスに入る。





大坪「どうでしたか、初めてのアイドル現場は?」


―― ……推しができました……


大坪「早ッ! 誰?」


―― さっきスマホで調べたんですが、陶山恵実里(すやまえみり)さんという人です……。なんかライブ中に目が合ったような気がして。そのずっとその人を目で追いかけるようになってしまいました……


大坪「ああ〜。それは『レスの魔力』てやつだね」


――レス?


大坪「アイドルがステージ上からファンに目線を送ったりしてくれること。でもファンの勘違いなことも多いんだけどね。観客席から見てると、ステージ上の人とは目が合ったように感じるから…… 」


―― いや、それは多分そうなんでしょうがね……


しかし、そうではない可能性というのも、完全に否定はできないでしょう……。口には出さないでおくが。


―― とにかく、これはもう一度くらいは観に行く必要があるな、とは思いましたね。さらなる調査のために


大坪(スマホで陶山さんを調べて)「陶山さんのツイッタープロフィール、所在地は地獄、年齢が10万17歳って書いてあるね」




▲所在地が「地獄」。そして「魔王」


―― 地獄か……


最初に大坪さんは「アイドルは生き様」って言っていたっけ。地獄という生き様、メチャクチャかっこいいな。アイドルの楽しみ方が、少しわかったような気がする。


<取材協力>
虹のコンキスタドール
「毎日が文化祭!」をテーマに、アイドルとしての活動だけでなく、声優・イラストレーター・コスプレイヤー・振付師などのクリエイターとしても活動し、ドキドキやワクワクを創り出していく、イラストSNS「pixiv」発のユニット。
9月20日に発売した最新シングル『限りなく冒険に近いサマー』がグループ史上最高売上を記録。勢いそのままに、2ndアルバム『レインボウエクリプス』を12月13日に発売することが決定。

大坪ケムタ
1972年佐賀県生まれ。『BUBKA』『月刊エンタメ』『OVERTURE』などでアイドル記事を執筆。現在注目のグループは生ハムと焼うどんとsora tob sakana。


企画・執筆:斎藤充博

1982年生まれの指圧師(国家資格)。「下北沢ふしぎ指圧」を運営しています。インターネットで記事を書くことをどうしてもやめられない。

※2016年10月14日時点の情報です。情報、内容等は変更になる場合があります。