秋になると書店にはずらりと京都の本が並ぶ。紅葉といえば京都とばかりに名所満載のガイド本や特集雑誌が平積みだ。
秋に限らず、春と言えば京都、夏と言えば京都、冬も京都と年がら年中、京都へ誘う本が発売され、どれを選んでいいのか正直わからない。
かなり飽和状態の京都本のなかで群を抜いて人気なのは「京都ぎらい」(井上章一朝日新書)だ。人気があるけど実際向き合うと面倒くさい京都についてずばり書き、発売して1年経ってもベストセラーを保っている。
革新的な本に追いつけ追い越せとばかり、京都本に新たな動きが起っている。
ここでは気になる2冊と著者を紹介したい。


岸本千佳「もし京都が東京だったらマップ」


9月10日に発売されたばかりの「もし京都が東京だったらマップ」。京都と東京の街を20ケ所ほど比較して、京都の街を東京の街に置き換えたマップを、2015年の暮れにネットで発信したら話題に。
例えば、御所は東京だと皇居、京大のある吉田は東大のある本郷というのはわかりやすい比較。そのほか京都駅は品川で、祇園は神楽坂、二条城近辺は清澄白河など独自の視点が光るマップのPV は20万を超え、テレビ(NEWS ZERO)でも紹介され、あっという間に書籍化が決まった。

著者の岸本千佳さんは京都出身で現在も京都を拠点に活動している不動産プランナー。東京でも不動産関係の仕事をしていた経験もマップに生かされている。

岸本「京都の人以外は、京都を全部お寺や神社の多い、東京で言ったら神楽坂のように思っている方が多いんじゃないかと思うんです。でも実は京都も多様で、神社仏閣の多い地域もあれば、カフェや現代的な文化が発達ししている地域もあります。そんな京都の多様性を可視化しようと地図を作ってみました。それが思いがけず拡散して、賛否両論、たくさんの反響をもらったんです。主に京都以外の方は楽しんでくださったのですが、昔から京都に住んでいる方からが、こんなではないと言われたことも(笑)。地図だけでは、説明不足で誤解を招くことも否めなかったので、本にすることによって、私がなぜこのように位置づけたか明らかにしたいと思いました。実際、書き上げてみて、これまでの私の不動産業活動の集大成になった気がしています」


岸本さんは、不動産プランナーとして京都の各地を徒歩や自転車でまわり、それぞれの地区の状況を熟知している。とくにリノベーション物件を扱っているため、京都の歴史ある物件が現代仕様に変わり、住む人も変わっていく様をリアルに目撃しているから、本に書かれた情報は激レアだ。

岸本「こだわったのは、今(2016年)です。5年後、10年後には変わってしまうかもしれないけれど、今の街を記録したかった。新しく活性化している地域についても多く盛り込みましたし、いま、気になるショップについても書いています。そのため、執筆にあたって、いま一度、京都と東京の街を歩き直しました。東京も2泊3日くらいで行って。万歩計をつけたら、1日3万歩でした(笑)。京都は、朝から昼まで原稿を書いて、昼休憩に外に出て、ズレを修正していくことを毎日続けました。また、東京で仕事をしていたこともある京都在住の編集の方をはじめ、いろいろな方の意見も聞いたうえで、ネットで発表したときと置き換える街も一部変更しています」

例えば、本の帯には“「赤羽」が好きな人は、「四条大宮」に行こう!”と書いてある。四条大宮は、はんなり雅な京都とはちょっとイメージの違う大衆的な飲食店の並ぶディープな場所。大阪から京都に来た人はこの場所を好むし(電車1本で行ける)、撮影所のある太秦にも1本で行けるところから埼玉と東京を結ぶ池袋的(東映撮影所に西武線で行ける)な役割を東京人としては感じるが、さらなるディープさでいったら赤羽に置き換えるのは鋭い。そんな感じで単なる印象ではなく、土地の特徴を俯瞰して、歴史なども盛り込みながら、書いてあるのが面白い。

岸本「観光本としても散歩本としても読めます。東京の人の京都のガイド本としてはもちろん、京都の人が東京に行くときに役立つとも言われていますし、多様性のある読み方ができると思います。今、京町家に住むことが注目されていますが、町家といってもいろいろな場所にありますし、地域の人と仲良くしたい人には町家はおすすめですが、あまり交流したくない人はマンションのほうがおすすめです。一口に京都と言っても人によって住みやすい場所は様々なんですよ」


梅林秀行「京都の凸凹を歩くー高低差に隠された古都の秘密」


岸本さんが京都と東京を重ねて京都の今を見つめている一方で、今の京都と昔の京都を行き来しながら、巨大な歴史の影に埋もれた痕跡を存在を探している人がいる。京都高低差崖会崖長の梅林秀行さんだ。
2015年「ブラタモリ」(NHK)が東京から日本各地に守備範囲を広げた第1回めで京都の御土居という意外なテーマをとりあげたとき、案内人として登場した梅林さん。以後、京都編には必ず登場し、タモリさんといい感じの間合いのトークで人気者になり、9月23日には「歴史秘話ヒストリア」にも登場する。
マニアックなタモリさんをも喜ばせる京都の穴場に関する深いデータベースの持ち主が5月に出した初の著書「京都の凸凹を歩くー高低差に隠された古都の秘密」は大好評ですでに5刷。
聚楽第、伏見指月、淀城と、大河ドラマ「真田丸」好きにも興味深い場所から、京都といえばの祇園、そして梅林さんの真骨頂・御土居など多岐に渡る土地の今の姿を見つめ、そこから知られざる真実を発見していく。

梅林「僕はもともと考古学人類学が専攻だったんですよ。だから、ここはこういう場所ですという地点情報だけを消費していくいまの京都案内が物足りない。僕が大事にしたいのは、では、あなたはこの場所に来て観て、何を感じるのか? という問いかけから始まって、よりパーソナルな観察や共感の視点です。例えば、石碑巡りをするとして、材質は何か? なぜこういう形をしているのか? 裏には何が刻まれているのか? など深く興味をもってほしいんです。裏にはたいてい作られた年月日が彫ってあって、それが1895年だったら、94年でも96年でもなく、なぜ95年なんだ? とそこまで観てあげるなら、建立されたさまざまな文脈が明らかとなって石碑も喜ぶでしょう(笑)」

研究者としての梅林さんの視点が、何気ない街中の微妙な高低差に注がれる。梅林さんはその土地への観察眼を生かして、「まいまい京都」というまち歩きツアーのガイドをやっていて、月に何度も御土居や伏見や嵐山にツアー参加者を連れて行く。何度も行った場所でもその都度事前に下見をしてデータベースを更新し、観れば観るほどその土地の知識は深まっていくようだ。

梅林「じつは、僕の「まいまい京都」ツアーは『ブラタモリ』に大きな影響を受けて立ち上がったものです。『ブラタモリ』を観ながら、京都にタモリさんが来たらこんなところに行くだろうと妄想をtweetしていたら、『まいまい』から声がかかった。その後、NHKの制作スタッフが京都編をやることになって京都に詳しい人はいないかと探してまいまい京都に問い合わせをしてきたことで、僕に繋がりました」

しかも、番組プロデューサーが梅林さんの知り合いだったという奇跡のような再会があった。

梅林「考古学研究会に参加していた同士で、でも20年以上会ってなかったから、最初はわからなくて。土地が結びつけたカルマのようなものでしょうか(笑)。というか、あの番組には自分のやりたいことを徹底的に追求していく人が集まってくるのだと思います。タモリさんを筆頭にして。とにかく制作陣の志が高いですよ。京都で撮影するときはいつも合い言葉のように『かましたる!』と言っていますよ。史実では・・・とかやいのやいの言う人がいるので・・・(笑)」

本の中で梅林さんはこんなことを言っている。
「『平安京以来1200年変わらずやってきました』っていう姿ではない、京都のリアリティーが提示されたように思える」

それは、梅林さんが、ツアーや高低差崖学会という趣味でやっている研究と同じ視点だ。本にはさらに「凸凹地形、すなわち高低差とは、単なる地形を超えて、社会の高低差も意味するのかもしれません」とある。その視点が、たとえば豊臣秀吉や坂本龍馬などといった歴史上の著名人以外の人々の生活に向けられる。

梅林「例えば、御土居は秀吉がつくった経緯に関して従来の観光客や歴史マニアとは異なる切り口で語っていきたい。僕はそこで『何が起きたか?』と同時に『誰が住んでいたか?』というテーマを明らかにしたいんです。すると、すると、いわゆる“高低差の上”に住んでいる人ではない人たちの姿が見えてきて、それこそが、いま、京都に住んでいるぼくの多くの知人、友人たち、そして僕自身も含まれるような密接なストーリーになる。僕のモットーは『まちが居場所に』。いまを生きるぼくらにとって、街を身近で共感できるものにしたいんです。それが京都の凸凹を歩くというミッションだと思っています」

そう語る梅林さんだからか、本には、いまの京都を歩く梅林さんの写真がたくさん掲載されている。

梅林「タモリさんも、僕のそういう気持ちをわかって面白がってくれていると思います。もともとタモリさんがそういう人だと思うんですよ、僕はそういうタモリさんの番組を観て育ったテレビっこですから(笑)」


「街は生きている」という岸本さん、「タモリさんが言った『土地の記憶』という言葉が印象に残っている」という梅林さん。どちらも京都を有機的にとらえている。
「僕や『もし京都が東京だったらマップ』の岸本さんなど新たなアプローチをかける著者が出て来たというのは、これまで京都を語る文脈に物足りなさを感じる人たちの思いが同時多発的に沸点を超えたんじゃないでしょうか」と梅林さん。

同じ「祇園」を、梅林さんは、華やかな祇園の意外な側面を紹介し、岸本さんは「浅草」と捉えて紹介。その視点の違いも面白い。
京都が地元の人も、京都にかなり詳しいと思っている人も、とにかく京都を知りたい人も、梅林秀行さんと岸本千佳さんの本を一度手にとってみてほしい。京都の生々しい鼓動が聞こえてくるはずだ。
(木俣冬)


[プロフィール]
きしもと・ちか
1985年京都生まれ。2009年滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後、東京の不動産ベンチャーに入社。シェアハウスやDIY賃貸の立ち上げに従事する。2014年京都でaddSPICEを創業。物件オーナーから不動産の企画・仲介・管理を一括で受け、建物の有効活用を業とする。そのほか、改装できる賃貸サイトDIYP KYOTO、京都への移住者を応援すり団体京都移住計画、暮らしに関する執筆などでも活動している。


[プロフィール]
うめばやし・ひでゆき
1973年愛知県名古屋市生まれ。京都高低差崖会崖長。早稲田大学で考古学を学んだのち、生活困窮者支援のNPO活動に参加する。その一方、大学で学んだことや元々の趣味である街歩きが高じて「まいまい京都」のガイドも行う。2015年NHK「ブラタモリ」京都編に出演、奈良編、京都嵐山編、京都伏見編にも引き続き出演する。
9月23日よる8時〜NHK「歴史秘話ヒストリア」の「京都まぼろし大仏の旅」に出演する。