『北斗の拳』のナレーションで死にかけた千葉繁さんが参戦!


キャラクターと声優は二人でひとり。吉良吉影のように先にキャラへの注目があって「誰が来るかな?」とワクワクされた例もあれば、思いもかけないキャストが来てキャラに注目が集まることもある。
吉良吉影の父、吉良吉廣(劇中で名前を呼ばれることはほぼないので、以下吉良パパ)は後者のほうだ。ノーマークに近かったのが、まさかベテラン声優・千葉繁さんが演じることになるとは!
「オマエはもう死んでいる」を世界で一番“言われた”声優・千葉繁さん。『北斗の拳』ではジャコウなど名前のある悪役も演じたが、毎回のやられ役の中に一人は必ず千葉ボイス。「あわびゅ!」といった原作の断末魔のストックには限りがあるためアドリブが交えられていたが、「 ちぃーぶわぁー!」はダメ出しを喰らったという。


ナレーションで叫びすぎて死にかけた声優も、千葉さんの他にはいないはず。毎回、血管がブチブチっと切れる音が聞こえ、これでは保たないとスタッフに相談してテンションを下げた。すると視聴者から「なんでナレーションの雰囲気を変えるんだ!」と怒りのクレームが入り、さらにテンションを上げさせられたとか。『うる星やつら』のメガネ役も有名だが、こちらはセリフが多すぎて過呼吸になっていたそうだ。

アドリブのキレも凄まじく、CGアニメ『ビーストウォーズ』でティラノサウルスからメガトロンに変形していた頃も、ジョジョでは虹村億泰を演じる高木渉さん(チータス役)との掛け合いもお腹がよじれる面白さ。YouTubeで配信中につき、ぜひ見てもらいたい。

『ハイスクール鬼面組』の一堂零役も愛された千葉さんだが、数年前までは露出が控えめになっていた。あれ以上テンション上げると死んじゃうからなあ……と諦めていたところ、2013年の『獣電戦隊キョウリュウジャー』の変身アイテムが千葉ボイスで喋りだした。しかもご本人も「ドクター・ウルシェード」として顔出し出演され、キョウリュウバイオレットに変身するサプライズ。

その後も実写版パトレイバーで整備班「シバシゲオ」、つまりアニメ版でのご本人が演じるファンサービスもあり。今回の吉良パパもいきなりテンションがマックスだが、ご健康に気をつけつつ仗助たちを追い詰めて頂きたい。

元・吉良吉影、川尻家デビューの巻


タイトルは、今回登場するスタンド名のアトム・ハート・ファーザー。ピンク・フロイドのスタジオアルバム「原子心母」をひねったもので、アーティストと縁の深いジョジョ的には由緒正しい名前だ。

家のカギを次から次へといくつも試す不審な手。我が家のカギを知らない人などいないーー前回、顔を変えて承太郎達から逃げ切った吉良吉影の「手」だ。新たな名前は川尻浩作という。

「主人は悪い男ではない。大酒食らうわけではないし仕事だって給料は安いけどちゃんと行ってる。でも私は恋を知らないで結婚した女」

夫(故人)川尻浩作の帰りを無感情に迎える妻・川尻しのぶ。吉良はたしかに運がいい、たまたま選んだ家庭が冷めきっていて、夫の変化に気づきはしても大騒ぎすることはない環境だったのだから。

料理を作ったことがない夫が片手で卵を3つ割る「明らかに独身歴が長い」ことをしていて、昨日切ったはずのツメをまた切り始めた違和感。しのぶは気づいている、いるが別に問題はない……川尻浩作の一生って何だったのかと切なくもなる。

元・吉良吉影が「川尻家デビュー」する回の注目点は、他には2つ。まず、原作ではぼかされていた一人息子・川尻早人の顔がしっかり描かれている。後に物語のキーマンになると意識した上での変更だろう。

もう一つは、帰宅するや「杜王町レイディオ」を流していること。殺人鬼は顔や名前を変えながらも、「平穏な日常」を変えるつもりがないのだ。

平凡を装う男の異常な趣味


ところ変わって、承太郎や仗助たちは身元の割れた吉良吉影の実家に赴いていた。もう永遠に本人が戻ることはないので、人混みに消えた殺人鬼を探す手がかりを見つけるためだ。原作では「川尻家」と「吉良家」は別エピソードだったが、アニメ版では同時進行で描かれる(時系列的にも正しい)。

「吉良吉影。1966年1月30日杜王町生まれ。身長175。体重65。血液型A型」

背格好以外はすでに手がかりとならない殺人鬼のプロフィール。前科なし(バレてない)、結婚歴なし、特に親しい友人も恋人もなく、手術歴もないから指紋や歯型から追跡することも不可能だ。仗助が手にしてる筋トレ本が前回の「体を鍛えなきゃ」に対応していたり、アルバムに後々の伏線になるサマーキャンプの写真があったり、アニメ版は相変わらず芸コマだ。

高い知能と能力を「目立たないこと」に費やす不気味な男。かと言って低すぎれば馬鹿にされるからと、室内には3位のトロフィーがズラリ。それって逆に不自然で目立つんじゃないか?

平凡を装う男の異常な趣味は、引き出しの中に几帳面に並べられた瓶。ほんのり臭う中身は、切った自分の爪のコレクションだった……。16年前、杉本鈴美を殺害した年からツメ記録は始まり、すでに6月で20cmも伸びた1999年は絶好調!と手書き文字が踊る。おぞましいオリジナリティある殺人鬼像、やはり荒木先生は天才だ。

無敵のスタープラチナでどうにも出来ないのでシャッターを押す


ひとりでにシャッターを切り、写真を吐き出すポラロイドカメラ。この家の中に誰かがいる。しかし犯罪者にとって。人間関係は足がつく危険がつきまとう。吉良が最も嫌う「仲間」などいるわけがないのだ。

写真の中には鉄腕アトムのような髪型をした吉良パパの姿、同時に鳴り響く電話の音。恨みがましそうな表情は「とっとと帰れ」と言いたそうなツラをしている……。そう思いきや「早く電話に出んかこのウスノロが!鳴らしてんだぞ!」

仗助に受話器を食らわせたハイテンションな声は、一発で千葉さんと分かる。そういえば吉良パパは原作でもノリノリに口が悪かったので、予想外だがベストキャストだ。

不気味な表情は帰れと思うどころか、この屋敷から絶対に帰さないという決意の顔だった。息子の犯罪を知りながら、続けさせるつもりだ。そういえば吉良パパが先に死んだあと、母が吉影を可愛がりすぎて結果的に虐待になっていた……という裏設定もあった。

吉良パパとスタンドが一体になっているアトム・ハート・ファーザーの能力は、本人の写っている写真の空間を支配できること。カメラを使って、攻撃対象とする魂のエネルギーを閉じ込められるのだ。一緒に写っていた仗助と承太郎は、写真を破こうとすると全滅しかけた。モノを直せるクレイジーダイヤモンドがなければ最終回になるところだ、あぶねー!

写真を傷つければダメージ自身も本人達に帰っていく……その説明が理解できない億泰に『頭の悪い奴は無理に考えなくてもいい!」と口汚く罵り煽る吉良パパ、本当に千葉さんが演じていてよかった。

「承太郎さん何してんですか!無敵のスタープラチナでなんとかしてくださいよぉーー!!」

ついに出ました名セリフ。頼りにしてる承太郎が時を止めてもどうすることも出来んと諦めたのだから、テンパるのも無理はない。

が、承太郎が落ち着き払ってるのは「すでに決着が付いている」サインだ。自分の映ってる空間を支配すると言うなら、こいつだけカメラで撮って一人にすればいい……シャッターを押すだけという、バトル史上最もエコな決着の付けかた。「お前なんか全然怖くなかったぜバーカ!!」と小学生みたいな決め台詞(?)をいう仗助が、高校生という年齢なりにかわいい。

最悪の父性愛、杜王町の空に解き放たれる


「空間を支配する」という異常な能力を、スタンドも使わずに完封した承太郎。天性の洞察力も凄まじいが、「スタンド使いと戦い慣れている」ことが最強たるゆえんだ。ポラロイドカメラを叩き壊した上に写真をテープでぐるぐる巻き、柱に画びょうで張り付けてスキも見せない。これらはただ「紙を折り畳んでテープで巻いて柱に留める」という日常的な作業に過ぎないのに、承太郎がやると妙にスタイリッシュでおかしい。

「億泰と康一くんはこの部屋。俺達は右側を探そう」

原作では康一くんは呼び捨てだったが、アニメは「くん」付けをして「一目置いてる」表現に抜かりはない。音石にとどめを刺した億泰も、信頼されいるから探索チームに加わっている。が、こうした承太郎の優しさは弱点でもあると、この後すぐ知ることになる。

吉良パパが承太郎達を生かして帰すつもりがなかったのは、見つけられて困る何かがあるからだ。が、ジョースター家の血統がタフであるように、吉良の血筋も追い詰められるほど底力を奮い立たせる。吉良パパが息苦しいと騒ぐと、穴を開けてやるよと写真を画びょうだらけにしてからかう億泰。しかし、悪人とはそもそも話してはならない。会話は心のすき間を見せかねないからだ。

お前の画びょうのおかげでここから逃げ出せる!と言って大きな音を立ててダンマリした吉良パパ。逃げられた! 慌ててテープを開ける億泰だったが、その焦りが本当の「脱出口」だった。破れ目からパジャマのほつれた糸を伸ばし、まんまと柱から逃れる吉良パパ。

さらに間が悪いことに、仗助がもう一組の「弓と矢」を発見したタイミングだった。あれだけの数のスタンド使いを集められたのは、世界中に何組も「弓と矢」があったからか……と久しぶりにDIO様とエンヤ婆の作画が拝めたのは嬉しいが、杜王町にとっては大いなる災難だ。

スタンド能力を引き出す「矢」だけを持って、糸をカラスに巻きつけて空に逃げ去った吉良パパ。音石との戦いで成長したかと思えば、また心理戦で敗れた億泰は自分を責める。

「いや億泰。奴の方が上手だった。あの父親にしてあの息子あり、といった所だ。あの親子の決して諦めない、生き延びようとする執念にしてやられたんだ」

この優しさが第四部以降の大人になった承太郎の成長であり、弱さでもある。それが第六部では……とは、かなり後のお話だ。

「吉影よ…今どこにいるんだ。お前は少年の頃から女を殺さないではいられない性格。でもそれがお前の幸福だというのなら守ってあげるよ」

いやー本当にひどい。殺人鬼である息子を止めるどころか罪を重ねる手助けをする、世界最悪の父性愛だ。最近の千葉さんは人情派の役が多かっただけに、暴走した「愛」の表現もより深まっている。息子を助けるスタンド使いを作る町内ツアーに出た吉良パパ。その乗り物であるカラスのフンが民家のポストに……カメラは再び川尻家に戻る。

カバンから家賃を盗むラスボスのスタンド


急に料理を始め、電気シェーバーじゃなくカミソリで髭を剃り、猫の出入りする窓を締めるなと言ったのに締めた夫。しのぶの中で膨れ上がる違和感は、やがて頂点に達する。家主に家賃を払うために金庫を開けろというと、無視して(番号を知ってるわけがないから)玄関に向かったときだ。

「おたく! 先月分の家賃まだ払ってねーよな!? 今月分とで26万円! 今すぐ払いなよ!」
「朝からご苦労様です大家さん。でも今ちょっぴりばかり持ってるお金が少なくてね」

一回こっきりしか出ないモブとしては濃すぎる大家にがなり立てられ、「ちょっぴりばかり」の50数万円を取り出す川尻浩作。今まさにキラークイーンで家主の集金カバンの止め金を破壊して盗んだカネだ。お札を爆弾にしてチンピラの指だけふっ飛ばしたり、手先が器用なスタンドだな!

スタンドこそ見えないが夫が何をしたかを察したしのぶは「なんてロマンチックなの」と十数年いっしょに暮らしたはずの相手に初めて惚れる。うん、原作でもよく分からなかったが、アニメでも意味が分からない。「盗み」のどこがロマンチックなんだ? 岡目八目というし、他人には理解できない個人的な感情が「恋」なのかもしれない……。

それはそれとして、家主との掛け合いは原作を端折らずにフルで見たかった。3クール=39話に収める尺のしわ寄せが来て当然の小者だが、ジョジョの小者は愛らしいのです!
(多根清史)