NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
9月18日放送 第37回「信之」演出:田中正


関ヶ原の合戦で、石田三成(山本耕史)軍がわずか一日で敗北した。
徳川家康(内野聖陽)は真田家の領地を没収、高野山の麓・九度山へ流罪に処す。
死罪を免れたのは信幸(大泉洋)と義父・本多忠勝(藤岡弘、)の懇願の賜物だ。
代わりに家康は信幸に真田との縁を切るよう命じる。
信幸は父から継いだ幸の字を捨て、信之となった。

「犬伏」「勝負」と来て真田家の苦悩はどんどん深くなっていく。
本能寺、関ヶ原と大きな出来事をさくっと飛ばし、合戦よりも人間ドラマに重きを置く「真田丸」。
ここのところ、ますます俳優たちの表情が話を引っ張り、質実剛健である。

37回の顔1 真田昌幸


大坂城が徳川の手に落ちた。もはやこれまで。昌幸(草刈正雄)の悔しさを何度も何度も床を叩く動作で表現。父上、頭脳派なのに、こういうとこ野性味あふれていた。

37回の顔2 真田信幸


家康「(幸の字を)捨てよ」
ガーンッ
信幸「かしこまりました」
悲しい音楽流れて・・・のときの信幸。父と弟が死なずに済む安堵と、親子の絆の印・名まえを捨てる苦悩。
大泉洋が顔の筋肉をフルに使って感情を表現。一世一代の深刻な困り顔。今後、これを超える俳優はなかなか現れまい。


37回の顔3 家康


「おぬしは死ぬまでそこにおるのだ」
「この生き地獄たっぷりと味わうがいい」
かつて、昌幸に出し抜かれた怨みをずーっとひきずっているのだろう。執念深い家康。しかも、昌幸は戦が生き甲斐であることを熟知して、その生き甲斐を根こそぎ奪うのだから人が悪過ぎる。
まさに「三つ子の魂百まで」。これは、昌幸が「勝負」で「初陣で戦のこわさを思い知らされた者は生涯戦下手で終わる」と語っていることとも近いと感じる。

ここで笑いが入るとは


こんな辛い話の連続にもかかわらず、三谷幸喜はちょいちょい笑いをまぶす。
負けて悔しがってる昌幸に、娘まつ(木村佳乃)は「上田でちょこっちょこっと闘っただけなんですよね」
「こっちが勝ったというよりも向こうは負けたようなものなんですよね」と言って場をへんな空気にする。これって、昌幸の視点からデカイことが、客観的に観るとそうでもないというアイロニーなのか?

なんといっても、昌幸が「おーい、おーい」と呼んだ相手が大井政吉だった場面。
なぜ、ここで笑いを入れる!
おかげで一瞬、落ちた気分が少し上向くのだが、その後、また深く落ちていくわけで、三谷幸喜は神か悪魔か。

それも、大井政吉は実際に存在した人物だから、三谷幸喜はすごい。時代考証の丸島和洋のtweetによると、大井政吉は旧武田家臣だそうで、昌幸とは縁もあるだろうが、運命の分かれ道を経て、いまは徳川家臣になっているという運命のいたずら。
近藤芳正演じる平野長泰も同じで、上田城を明け渡すとき「かつて太閤殿下のもとでともに馬廻りとして働いた我らがこうして敵味方となり、一方は城を明け渡し、一方はそれを受け取る。人生とはわからぬものだな」と何かしみじみ人生について語る。

このセリフと大井の存在が重なっているところに注目したい。戦国時代、敵になったり味方になったり、多くの者たちが戦に人生を翻弄されていた、その数奇な運命の痕跡を三谷はつぶさに描く。とかく、大きな出来事ばかりに目がいきがちだが、細かいところを決して疎かにしてない。後半にいくにつれ、書く作業も大変になっていくだろうに、書くこと、創作することに憑かれているかのような仕事ぶりだ。
そしてそれは、「真田丸」というタイトルに「戦国の荒波に立ち向かう一艘の船」という意味も込めてあるというところにも繋がるようではないか。
真田信繁たちが平野長泰や大井政吉と邂逅する場面に、皆がどこにたどりつくかわからない大海を小舟に乗って渡っているようなイメージが沸いてきた。

細かいことを描くことで逆に大きなイメージを喚起させるそんな作家の凄さと関係なく、俗っぽい楽しみ方も。

気になる俳優 薫役 高畑淳子


ご家族の件で大変なことになっている高畑淳子。真田家の未曾有の危機に「こわかった〜〜」と怯えまくる姿と彼女の実人生を重ねてしまった。すみません。

気になる俳優 大谷刑部役 片岡愛之助


刑部が9月15日、関ヶ原にて立派な最期を遂げた回の翌週の9月23日に京都上賀茂神社で藤原紀香と挙式を挙げた。挙式の日取りをわざわざ、ドラマに合わせたのだろうか。それだけこの役に力を入れていたのだろう。ともあれ、おめでとうございます。

37回には名言もいっぱい


「ではおのおのぬかりなく」(昌幸)
真田家家臣たちとの別れのおりにこう言う。昌幸はまだまだ終わったつもりがない気持ちが現れている。

「弘法大師さまがご母堂に九度会いに行かれたゆえ九度山と呼ばれるようになったそうでございます」(片桐且元/小林隆)
豆知識を語ったり、小早川秀秋(浅利陽介)の裏切りの話を信繁に伝えたり、いい仕事をしている片桐。

「あの烏帽子岳が三度白くなると里にも雪が降ると言われています」(信繁)
最近声をあげることも増えたとはいえ、相変わらず、皆の苦しみを見つめ続ける信繁。娘すえ(恒松祐里)に
父は、作兵衛(藤本隆弘)と思っていると言われたときの固まった顔もいいが、このなにげないセリフに詩情を込められるのは知性ある俳優・堺雅人ならではと思う。



そして年が明け、真田一家が九度山に入るとき、雪がしんしんと降っていた。悲しくも美しくまとまった37回。
38回は忍耐の九度山編!



(木俣冬)