秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が最終回を迎えてから早2週間。みなさんも、そろそろ『こち亀』のない日常に慣れてきた頃だろうか?

少し時間が経ってしまったが、前回の記事の続きをお送りする。今回の対象は50巻(初版88年、『週刊少年ジャンプ』掲載は86年)から75巻(初版92年、『ジャンプ』掲載は91年)まで。まさにバブル経済真っ盛りの頃であり、両さんのパワーが全開だった時期だ。

人生わずか七十年
もっともっと 遊びましょう
「なんとかなるさ」
この言葉が大切です!
51巻「道楽党起つ!!の巻」


円高なのに物価が下がらないことに業を煮やした両さんが、中川の協力を得て参議院選に出馬! 日本道楽党なるミニ政党を立ち上げ、物価高のストップと週休4日の実現をアピールした。このセリフは街頭演説の中の一コマ。実際、86年7月に衆参同時選挙が行われている。
ほかにも両さんは「日本人は働きすぎです! 企業の歯車になってはいけません!」などとも言っている。いいこと言っているような気がするのだが、過激な選挙戦が災いして7票しか得票できず、あえなく落選した。なお、栄養ドリンク「リゲイン」が両さんの思想とは真逆の「24時間、働けますか」というキャッチコピーを打ち出したのは、もう少し後の88年。

「原爆落とし」以上の必殺技
「パニック放射能もれ落とし」
これは強い!
世界中がびびるぞ
51巻「必殺ポリスマスクの巻」

プロレス団体にスカウトされた両さんが、突然とんでもない名前の技を提案する有名なシーン。このエピソードが掲載された86年といえば、チェルノブイリ原子力発電事故が発生して世界中が震撼した年。『こち亀』を読めば、世相がわかると言っても過言ではない。『こち亀』の大まかな時代背景については、こちらの記事で解説している。

カール・ルイスに演歌を歌わせたら
わしのほうが勝つ!!
だから人には 得手 不得手があるというのだよ!
どんな奴にも とりえというのがあるだろう
そこをのばすのが一番だと わしは思う
55巻「部長の『我が人生』の巻」


いつも現実的で合理的なのが両さんの考え方。根性だけで無理なことに挑むより、自分に合っている道を選ぶべきだと説いている。そのためには自分の長所と短所をよく知っていなければいけないわけだが、その点、両さんは自分のことを知り抜いているようだ。

何がおまえを変えたのかしらんが…
人生を投げた時点で
おまえの負けだ!
57巻P150「浅草物語の巻」


『こち亀』屈指の人気エピソード「浅草物語の巻」より。両さんの小学校の同級生で、天才少年だったにもかかわらずヤクザに身をやつしてしまった村瀬が、護送の途中に脱走してしまう。敵対する組織に殴り込みに行こうとする村瀬を、浅草の裏路地で待ち伏せる両さん。冒頭の言葉は壮絶な殴り合いの中で飛び出したもの。両さんが「大バカ野郎!」と村瀬を投げ飛ばしてKOし、小学校時代の思い出話を聞かせて自首させる。村瀬を逮捕しない両さんを見て焦る中川を制止する部長も渋い。
ちなみに57巻は両さんが一度死んでしまったり、ロボット派出所が完成したり、天国に攻め入って神様を脅迫したりと破天荒なエピソードが多いのだが、この落差がすさまじい。

何が日本のためだ!
なんでもかんでも東京に集中させやがって
こんな事したら
ますます暮らしにくくなるだろうが
57巻「両津代表取締役の巻」

東京の都市開発が一層エスカレートしたこの時期、『こち亀』でも盛んに東京論が語られている。なかでもこのエピソードでは「世界をリードする国際情報都市」にするために東京を改造しようとする中川と、「江戸っ子を東京から追い出してるだけだろうが!」と反論する両さんが真正面から激突。「長い目で見ると日本のため」と強弁する中川に対して、両さんの江戸っ子の意地が爆発し、中川の会社で暴れ回って1兆円近い損害を与えることに成功した。

男と言うのは
野望と 希望の 二文字を
わすれてはダメだ!
59巻「男は野望!!の巻」


「まんがでわかる金もうけ」というバブル感丸出しのビジネス本を読んで刺激を受けた両さんが叫んだ言葉。聞いていた麗子からは「無謀と貧乏の二文字じゃないの?」と容赦ないツッコミを浴びてしまった。この頃から、両さんが勤務を休んでサイドビジネスに狂奔するエピソードが増加していく。

集積回路ごときに この私が負けてたまるか!


男は自分の肉体を駆使して
金をかせぐのが本道!!
楽してかせごうなんてのはゲスな奴だ!
60巻「体力株式会社の巻」


日本中がバブルに浮かれ、土地の転売や株の売買などの財テクがヒートアップする中、両さんが始めたサイドビジネスは自分の体を資本にした「体力株式会社」。あくまで体力一つで乗り切ろうとするところが一味違う。両さんはバブルがピークを迎えた頃にも、「土地をいくらもってるだの 株をもってるだの まったく通じないぞ そんなもん! たよれるのは おのれの体のみ!」と語っている(70巻「備えあれば憂いなし!?の巻」)。
ほかにも『こち亀』ではバブル期の狂乱地価や地上げ、日本企業による名画の買い漁りなどを一貫して批判していた。

でも人生なんて「人生ゲーム」みたいなモンだぞ!
一歩一歩前進するより
ドンドンつき進み チャレンジしたほうが
ゲームがもり上がって おもしろいじゃないか!
60巻「玉虫巡査登場の巻」

公務員や大企業を志望する安全志向の若者たちに対して両さんが一言。両さん自身も「寄らば大樹のかげ」の公務員なのだが、どんなことにでも挑戦するバイタリティは人の一万倍以上あった。
なお、この回に登場したスピーチは流暢だが何を言っているか要領を得ないという玉虫政治巡査は、「言語明瞭、意味不明瞭」と言われた当時の竹下登首相への風刺である。

ゆるさん!
見たか 人間様の力を むふふ…
集積回路ごときに
この私が負けてたまるか!
60巻「特別勤務を命ず!の巻」

「ファミリースタジアム88」でコンピューターに負けた両さんが激怒、ソフトを破壊して言い放つセリフ。今なお人気を誇る両さんの“名言”だ。

なんだと ギャンブルのどこが悪い!
入試 就職 結婚
みんなギャンブルみたいなもんだろ!
人生すべて博打だぞ!
60巻「特別勤務を命ず!の巻」

子どもたちに馬券を買いに行かせようとしていた両さんは、非難してきた麗子に対して猛然と反論する。たしかに入試も結婚も就職も、やってみなければわからないという意味ではギャンブルと同じ。「人生はすべて博打だぞ!」という言葉にも説得力がある。とはいえ、未成年による馬券の購入は法律で禁止されているので、両さんのやっていることは滅茶苦茶。

なんか月かけて作った物でも
夜空でかがやくのは ほんの一瞬!
その一瞬に 花火職人たちは 情熱を託しているのです
だから人間 一瞬 一瞬 大切に生きねばいかんのです!
61巻「納涼花火大会の巻」


大原部長の孫の誕生祝いに、両さんは知り合いの花火職人に頼んで作ってもらったオリジナルの打ち上げ花火をプレゼント。両さんの真心に感動する部長の前で、調子に乗って熱弁した言葉がこちら。計画性も大事だが、両さんのように一瞬に火花を散らす生き方だって悪くない。

命のほうが大事だろ!!
にげろ!!
61巻「我がなつかしき少年時代の巻」

昭和30年代の下町を描く「両さんの少年時代」シリーズより。大切な神輿を持ち出し、深夜の鉄橋の上を運んでいたところへ夜汽車がやってきた! うろたえる友達だったが、少年時代の両さんは迷いなく神輿を捨てて川に飛び込む。何よりも命が大事であり、それ以外はすべて二の次なのが両さんの生きる指針。その後、死ぬほど怒られようが、殴られようが、命より大事なものなどありゃしないのだ。

女だから許してもらえると思ったろ
そこがあまい!
61巻「ハーフサイズ漫画の巻」

最近は女性キャラたちのパワーに押され気味だった両さんだったが、この頃は麗子に対して容赦のない行動に出ることも少なくなかった。カッパの扮装で子どもたちに安全指導を行っているときは、カッパの扮装を小バカにする部長と中川を連続で池に放り込み、さらに悲鳴をあげる麗子も捕まえて池に放り投げてしまった。女嫌いというわけではなく、恨みの前には男女平等なのだ。

人生いろいろあるから
おもしろいんだよ!
69巻「本田メモリアル 本田くんのアルバイトの巻」


平凡な人生は幸せだと語る中川と麗子に、両さんが言い返す。たしかに、どんな失敗やトラブルがあっても、前向きに捉えておもしろがることができれば勝ちだろう。麗子に「悲観的の神経が切れてる」とまで言われる両さんのようには行かないかもしれないが、見習えるものなら見習いたい部分である。
ちなみに、この回が掲載されたのは90年だが、87年には島倉千代子の「人生いろいろ」が大ヒットしている。

自力で苦難をのりこえられん男なんか
死んじまった方がいい!
70巻「備えあれば憂いなし!?の巻」


もし大地震が起こったら、中川のことは助けないが、麗子のことは助けると断言する両さん。理由を聞く中川に、冷たく言い放ったのがこの言葉だ。今の世の中、助け合いは大事だが、自分の力で生き抜いてやるという気概が必要なときだってある。サバイバル能力抜群、誰よりもたくましい両さんからその気概を分けてもらいたいところだ。
なお、「必ず助けるから」と言って自分で作った「東京地震救出保険」なる保険に麗子たちを契約させた両さんだったが、麗子たちが振動装置を使ってニセ地震を仕掛けたところ、ファミコンソフトと食べ物を持ち出して自分ひとりで逃げ出してしまうというオチがついた。

50巻から75巻まで、たくさんの“名言”をピックアップしてみたが、文字数の関係上15個に絞ってみた。どこかで全長版を披露する機会があればいいなぁ。次は75巻から100巻までの“名言”をご紹介する予定です。
(大山くまお)