ノーベル医学・生理学賞の授与が決まった大隅良典さん。

彼が科学を志したきっかけは、兄からもらった自然科学の本。
とくに、以下の三冊に影響を受けたそうだ。


・三宅泰雄『空気の発見』。
・八杉龍一『生きものの歴史』
・マイケル・ファラデー『ロウソクの科学』(→ノーベル賞受賞大隅良典は『ロウソクの科学』で科学を志した)

受賞記者会見での「『役に立つ』という言葉が社会を駄目にしている」という言葉がピックアップされた。
科学の心を持つ者にとっては、基礎研究の大切さや、それが恐ろしく長い年月を要することは当り前のことだが、これがなかなかどうして伝わらない。

なにしろ、報道によれば、鶴保庸介・科学技術担当相が4日にこう語ったそうだ。
「社会に役立つか役立たないかわからないものであっても、どんどん好きにやってくださいと言えるほど、この社会、国の財政状況はおおらかではない」
いやあ、そういうこっちゃないんですよ、マジ、この本を読んでみてよ。

ということで紹介するのは、三宅泰雄『空気の発見』。
大隅良典さんが影響を受けた三冊のうちの一冊だ。

小中学生向けに科学を平易に解説した本であり、文庫本で117ページ。イラストも入っていて、読みやすい。

西条八十が訳したイギリスの詩を紹介して、目に見えない、手につかむこともできない「風」とは何だろう?という疑問からスタートする。
“このなにかを、人々は、空気と名づけました。しかし、空気は、机や、インキなどとちがって、はっきり、ものであるといってよいか、どうか、はっきりしませんでした。”
「空気」とは何だろう?
この謎を解き明かすために、人類は何を考え、何につまずき、どのように試行錯誤していったのか。
ガリレオ・ガリレイが「空気にも重さがある」ことを見いだし、トリチェリーが「大気の重さ」を見つけ、パスカルが測定する。
そして、ロバート・ボイルが「気体の体積とおさえる力(圧力)の関係」を解明していく。
ここで、著者はこう語る。
“ロバート・ボイルのころまでの化学は、鉛のような安い金属から、金をとろうと試みたり、不死の薬をつくりたいなどという目的をもった、いわゆる錬金術でありましたが、ボイルは、化学が、いつまでもそのような単になにかの利を得ようとするものであってはならないことを説き、たしかな実験と観察のもといのうえに立って、物質の成分がなにであるかについて研究することが、世の中への最大の奉仕であると、説きました”

メイヨウは、空気の中に、炭やイオウをもやすに役立つ共通ななにものかがあると考えて「火の空気」とよんだ。
この考え方は正しかったにもかかわらず、人々の注意を集めない。
忘れられてしまい、間違った考えが行き渡り、百年もの後にならないと、彼の考えは復活できなかったのだ。
“正しい意見は、そのまますぐ正しいものとして世の中にうけいれられる、と私たちは考えがちです。しかし、実際はなかなかそうはいかないことは、ガリレイの場合を見ても、メイヨウの場合をみても、よくわかります。けれども、もし、ほんとうに正しいことなら、たとえ、あやまった考えが、どんなにはびこっていても、いつかは正しいことのほうが勝ちを占めることは、うたがいのないことです。”
だが、それには長い年月が掛かることがある。それどころか「何の役に立つのか」と非難されたり、「世の中をあやまるものだ」と牢屋に入れられたりもする。
本書は、そんな実例を紹介しながら、科学とは何かを解説する。

科学史を学ぶことで、われわれは大きなスケールの視座を手に入れることができる。
そこでようやく科学とは何かを問い直すことが可能になる。
本質的に、学問は「役に立つ」ために立ち上がるのではない。

“役に立つという言葉がとっても社会を駄目にしている。実際、役に立つのは十年後、百年後かもしれない”
大隅良典さんが語った言葉を考えるためにも、ぜひ読んでほしい一冊、三宅泰雄『空気の発見』。(テキスト米光一成)