NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
10月9日放送 第40回「幸村」 演出:土井祥平


〈その日信繁は真田幸村となった。のちに日の本一の強者と呼ばれる戦国最後の名将の誕生である〉
(ナレーション/有働由美子)

わくわくする。積み重ねて積み重ねてからの、わくわく。
真田信繁が真田幸村となって一世一代の戦いに赴く序章であり、「真田丸」の1〜39回までの復習でもあり、
過去と現在と未来、ひとの人生にどれひとつ欠けてはならないのだと思わせる脚本だった。

じつは、本編の半分以上が、回想と、豊臣と徳川が戦うことになった経緯の説明だったにもかかわらず、全くそんなふうに思わせないテクニックはさすが。三谷幸喜はそれらをすべて「真田幸村」の誕生に関連付けて書いた。

くじ引きで幸村


そもそも、一般的に馴染み深い「真田幸村」の名は、講談で語り継がれたときに登場したもの。「真田丸」では、史実だと「真田信繁」であるがこれまでずっと真田幸村として親しまれてきた人物を、あえて真田信繁として描いてきたことが画期的だった。だが、ついに40話にして、馴染み深い「幸村」と名乗る。
歴史に残ってない改名の経緯を三谷はこう書いた。
長男・信幸(大泉洋)が父・昌幸(草刈正雄)からもらった名を、徳川につくにあたり捨てたため、宙に浮いてしまったのが「幸」の字。信繁がその字を引き受ける際、そこにもう一文字付け加えようとして、これまで出会った人や土地などの名前をひと文字ずつばらし息子大助にくじ引きさせる。くじ引きで大事なことを決めるのは、父親譲り。

「甲斐」「信濃」「六文銭」「天下統一」「殿下」「勝頼」「信尹」「沼田」「武田」「大坂」・・・ゆかりのある様々な文字のなかから引き当てたのは、信繁が長く隠遁生活を送った「村」だったとは運命的。ドラマで九度山生活があまり長く描かれなかった分、地元の人たちも嬉しいに違いない。
でもこれ、例えば「銭」だったらやり直したのかな。銭幸・・・うーん。「下」もな。幸下・・・。うーん。

サブタイトル2文字縛りは「幸村」のためだったのだろうか、と思うと感慨深いし、しかも、この文字の切り離しは、信繁を戦場に誘った徳川と豊臣の戦いの発端である鐘銘事件と重なっている。
徳川は、「異国では人の名をふたつに割るのは呪いの意味もあるとか」と持ち出し、「何が祝いじゃこれは呪いじゃ」と「国家安康」と家康の名前を切り離したことを責め、反対に「君臣豊楽」は「呪詛返し」で「呪いを祝いに変えたのじゃ」と言いがかりをつけた。
信繁はたくさんの名前をバラバラにして自らに呪いをかけたのか祝いを送ったのか。なんて劇的な。

余談だが、習字を書いてシャッフルして何か閃くというと、「SPEC」(2010年に放送された連ドラ。のちに映画化にもなり2014年までシリーズが続いた。毎回、刑事である主人公が事件を推理するとき、かかわり合いのある要素を習字に書き、頭を整理する)を思い出してしまうドラマ好きもいたのでは。私は堺雅人が「いただきました!」という画を想像しました。

名場面、名台詞


縁のある言葉の中から名前を決める儀式は、38回で昌幸が幸村に語った勝利の秘訣とも繋がっている。

「軍勢をひとつの塊と思うな。
ひとりひとりが生きておる。
ひとりひとりが想いをもっておる。
それをゆめゆめ忘れるな」


幸村が儀式を行うきっかけは、きり(長澤まさみ)にこれまでの幸村が行ってきたことを思い返され説教されて、1話から丹念に描かれてきた登場人物ひとりひとりの思いが走馬灯のように幸村の脳裏に蘇ったこと。
かんたんに振り返らず、まずきりに語らせ、それから信繁が回想、そして習字で書き出すと3段階で回想することで、ドラマによくある段取りめいた回想シーンでなく、ちゃんと意味のあるものになっている。

月の画。
鐘の音とともに、秀吉(小日向文世)の思い出が蘇る。
この鐘は秀吉に信繁が合図に渡したものだから、まるで秀吉が思い出してくれ、と呼んでいるようではないか。彼が死ぬとき鐘に手を伸ばしていたのは、信繁に何かまだいいたいことがあったようにも思える。
以下、めくるめく信繁といろんな人との出会いと別れが映し出される。

まずは秀吉。
「関白、豊臣の秀吉である」(14回「大坂」)
「これからはわしとお前で新しい世を気づいていくのだ」(17回「再会」)
「よいものをもろたぞ」)(21回「戦端」)
「死にとうない、死にとうない」(29回「異変」)
「秀頼のこと頼む 秀頼のこと頼む 秀頼のこと頼む」(31回「終焉」)

それから、茶々(竹内結子)。
「わりと好きな顔」(14回「大坂」)
「おかしな話をします、わたくしと源次郎は不思議な糸で結ばれてる気がするのです・・・
離れ離れになってもあなたはいつか必ず戻ってくるそして私たちは同じ日に死ぬ」(19回「恋路」)

そして、いろいろな人達。
「徳川屋敷に夜討ちをかけ家康の首をとる」(石田三成/山本耕史 32回「応酬」)
「義をないがしろにする者をわしは断じて許すわけにはいかぬ」(上杉景勝/遠藤憲一 33回「動乱」)
「それがしは殿下のために生き、殿下のために死に、殿下のために舞うのみ」(宇喜多秀家/高橋和也 27回「不信」)
「日の本を分ける大戦をやってみたかった」(北条氏政/高嶋政伸 24回「滅亡」)
「何万という大群を率いて敵を蹴散らしたい」(伊達政宗/長谷川朝晴 24回「滅亡」)
「一言で言えば宿命や」(千利休/桂文枝 25回「別離」)
「この呂宋助左衛門、あらゆる弱き者たちの守り神でござる」(呂宋助左衛門/松本幸四郎 28回「受難」)
「なぜだ なにゆえわたしは伏見を追われなければならぬ」(三成 34回「挙兵」)
「どうしてそのような小細工をするのです。なぜ正々堂々と向き合わないのです」(薫/高畑淳子 11回「祝言」)
「おまえは優しすぎる」(出浦昌相/寺島進 9回「駆引」)
「これだけは言っておく。わしのようにはなるな」(真田信伊/栗原英雄 8回「調略」)
「源次郎、ほんとうは気の利いたことのひとつも言ってやりたいのだが、わしはいま岩櫃の城をまかされそれだけでいっぱいいっぱいなのだ」 (信幸 7回「奪回」)
「大博打のはじまりじゃ」(昌幸 6回「迷走」)
「いずれ必ず豊臣と徳川はぶつかる。そのときはここを抜け出しおまえは豊臣につけ」(昌幸 38回「昌幸」)
「大事なのはひとの命をできるかぎりそこなわないこと」(梅/黒木華 9回「駆引」)
「お主の眼差しの奥にくすぶっている燠火が見える いずれ誰かがその火を求めにこよう」(江雪斎/山西惇 38回「昌幸」)
「おまえが正しいと思う道を行け」(大谷刑部/片岡愛之助 30回「黄昏」)
「死に様は生き方を映す鏡 己に恥じぬように生きるのみじゃ」(上杉景勝 12回「人質」)
「豊臣につけ。これより話すは、徳川に 勝てるただ一つの道」(昌幸 38回「昌幸」)
「ひとは誰も定めをもって生まれてくる、遅いも早いもない。己が定めに気づくか気づかぬか。
見ているぞ婆は」(とり/草笛光子 26回「瓜売」)

以上、信繁の回想である。
きりが「ここで一生終えたいの? それでいいの? あなたはなんのために生まれてきたの?」
「あなたの幸せなんて聞いてない。そんなのかかわりない。大事なのは誰かがあなたが求めているということ」
「いままで何をしてきたの?」
「真田源次郎がこのよにいきたというあかしをなにかひとつでも残してきた?」
と畳み掛けたことによって、畳み掛けるように、信繁に託された皆の思いが一気に溢れ出してしまったのだろう。


片桐且元ときりの重要性


信繁を呼びに来た明石全登(小林顕作)の殿・宇喜多秀家(高橋和也)がちゃんと回想に出て来ているのが良かった。この回想は、いま、信繁のそばにいない人たちに限っているのはわかるのが、一所懸命お願いに来ている片桐且元(小林隆)の想いも背負ってあげてほしい。まあ、いつだって微妙にないがしろなところが且元らしいのだが。
小林隆は演じることで、とるに足らない役割になってしまいがちな且元という役を、でもこのひとにも人生があるというのをちゃんと感じさせ、むしろちょっと愛らしく見せている。「わたしはひとりで戦の火種をつくってしまった」という人間がただただ使えないとしか思われない役になってしまうと、お話が浅くなってしまうから。且元が大坂を出るとき、三成が残した桃の木を見ているところで、彼は彼なりに秀吉のことを思い続けているのもわかった。

繰り返しになるが、きりも、いままでずっとずけずけずけずけ言い続けてきたことがこの回で大いに生きる。ドラマにありがちな唐突な回想や唐突な説教でないことにホッとする。

「わたしの大好きだった源次郎様はどこへ行ったの?
がむしゃらで向こう見ずでやんちゃで明るくて賢くて度胸があってきらきらしていた 真田家の次男坊はどこへいったのよ? わたしが胸をこがして大阪までついていった あのときの源次郎様は」

この台詞なんて下手したらクサくなるところをうまく回避している。
そのあとの信繁の台詞もいい。

「うっとおしいんだよおまえは」
「おまえの言ったことくらいはな、とっくに自分で問いかけておるわ」
「だが、自分で問いかけるよりもおまえに言ってもらうほうがよほど心に染みた。礼を言う」

こうして信繁は本当の自分を見つける。
回想で、初陣のときに能「高砂」(13回)を舞いながら戦ったほんとうにきらきらしていた場面も出てきてうるっときた。これこそが「真田安房守昌幸。徳川と二度戦って二度勝った男。あなたにはその血が流れている」(きり)と言われる真田信繁なのだ。

たくさんの登場人物の想いを託され、たくさんの視聴者の期待も背負って、真田信繁改め幸村が行く。
(木俣冬)