“僕はアニキからぜんぶ奪ってしまうのかな”
2016年10月17日月曜夜9時START『カインとアベル』(フジテレビ)。
Hey! Say! JUMPの山田涼介が演じるのは弟アベル。桐谷健太が演じるのは兄カイン。
そう、ドラマ『カインとアベル』の原案は「旧約聖書 創世記 カインとアベル」なのだ。

で、「カインとアベル」ってどういう話? 「旧約聖書」って? 聖書って?
もちろんベストは「聖書」を読むべきなのだろう。
だが、「聖書」は長い。しかもどう読めばいいのか判らない。
信仰していない者にとっては、とっつきにくい。
というわけで、さまざまな視点で聖書を読んでいる「聖書入門本」をピックアップしてみた。


■『決定版 図説 旧約・新約聖書 この一冊で聖書がまるごとわかる!』(月本昭男監修/学研プラス)
第1部『旧約聖書』
第2部『新訳聖書』
第3部 聖書の有名な言葉
の3部構成。「図解」のタイトル通り、図解で解説されていてめちゃくちゃ判りやすい。
「カインとアベル」については、こんな感じ。
タイトル。
“アダムとエバの息子が大事件を引き起こす!
カインとアベル 「創世記」より”
小見出しは「人類最初の殺人は兄による弟殺し」。
“楽園を追放されたアダムとエバの間に、二人の子供が生まれた。兄はカイン、弟はアベルと名づけられた。カインは土を耕す者となり、アベルは羊を飼う者となった。
とフラットな文章で「カインとアベル」のエピソードを紹介。
さらに、「カインとアベル」の絵画、パレスチナの風土地図、「アダムの3人の息子」と題された関係図。
図解が、とても判りやすい。
聖書がどんなものかさっと知りたい人にオススメ。
(もっと詳しく→月9「カインとアベル」原案作品を読む「人類最初の殺人は兄による弟殺し」)

■『「バカダークファンタジー」としての聖書入門』(架神恭介/イースト・プレス)
どんどんツッコミながら面白く解説してくれる入門書だ。
「聖書はバカダークファンタジーだ!」と喝破し、
矛盾や、ポカーンとしちゃうところや、神の理不尽さを
ガンガンつっこみながら解説していく。

兄カインが農作物を、弟アベルが羊の肉を神に捧げる。
だが、神は弟の羊にだけ目を留めちゃう。
兄カインは嫉妬し、弟アベルを殺してしまうのだ。
なぜ神はえこひいきしたか。
その理由を諸説紹介して、最後にこうツッコむ。
“個人的な意見で言えばヤハウェは単にお肉が好きなんだと思います。後で出てきますけど、ヤハウェはホントに毎日ニクばっか食ってますから、あと酒も飲みます。ケーキも好きです”。
ライトノベル感覚で楽しみながら聖書を読んでみたい人にオススメ。
(もっと詳しく→月9「カインとアベル」に備えて『「バカダークファンタジー」としての聖書入門』を読んだらヤバイ)

■『旧約聖書としてのゲーム理論─ゲーム・プレーヤーとしての神』(スティーブン・J・ブラムス著 川越敏司訳/東洋経済新報社)
『聖書』の物語をゲーム理論的に解釈する研究書。
“神は、カインによるアベル殺害に対して以下の二つの戦略を考えたと仮定しよう”。
と解説して、
1:カインを殺す
2:カインを罰する
を挙げる。
兄弟殺しの罪は、重大な犯罪だから、カインを殺すことを選択するだろうと解説しながら、なぜそうしなかったかを考察する。
まず、“神自身が対立のきっかけを生み出した共犯者であること、そして殺人が行われる直前にアベルを助けなかったことには神にも責任があるという点”。
この説を補強するために、「アベルの血が土の中からわたしに向かって叫んでいる」という神の言葉を引用する。
“神は、自分にも非難される余地があるので、カインに死を宣告することはできないのである。結果として、神は、ただカインを弟の血が流された地から追放しただけで、カインの命を助けたのである”と、結論づける。
また、“自分の力と慈悲を世界に広めたいという神の願望”のために、神はカインが殺されないようにカインにしるしを付けて、放浪させたのだと考察する。
神の宣伝マンとしてのカイン!
文化的・宗教的なコンテキストやメタファーなどを無視し、テキスト通り受け取り、ゲームとして解析していく本だ。

■『教養としての聖書』(橋爪大三郎/光文社新書)
講義の対話形式で進む聖書解説本。
「カインとアベル」は、「第一講義 『創世記』を読む」の中で語られる。
“カインが、その罪はおもすぎます、人びとはみつけ次第、私を殺すでしょう、と訴えると、Godは、カインに印をつけ、七倍の復讐を約束して、保護を与えます。そのあとカインは、妻をめとります”。
「カインとアベル」のエピソードを紹介したあと、“地上は、アダムとイブとカインの三人だけなのに、誰がカインを殺すのだろうとか、どこから妻が現れたのだろうとか”という疑問に対しては、“考えないほうがよい箇所ですね”とあっさり。

■『誰も教えてくれない聖書の読み方』(ケン・スミス著 山形浩生訳/晶文社)
「カインの徴」の項は、こんな感じ。
“「カインの徴」というのは、悪者の烙印じゃない。これは保護のためのしるしなんだ。神さまがこれをカインにつけたのは、死んだアベルの仇をとりたがる連中に、そんなことをしないようにと警告するためあった。─創世記4:13─15”
「聖書キャラクターベストテン」のトップに紹介される「神さま」の項も、どストレート。
“人類史上初の再生産不可能な神。新約聖書の書き手がなんと言おうと、血に飢えていて、執念深さは天下一。得意技:人殺し。聖書でいちばんおっかない存在。”
聖書を愚直に読んで「こんなことが書いてある」と示すことで、おもしろい読み物になっている本。

■『シネマで読む旧約聖書』(栗林輝夫/日本キリスト教団出版局)
映画を通して旧約聖書を解説する本。
たとえば、「創世記」の項で登場するのは、『ドラえもん のび太の創世日記』『ドラえもん・のび太と雲の王国』『ふしぎの海のナディア』だ。
「カインとアベル」の項は、ジェームス・ディーンの『エデンの東』。
「エデンの東」は、カインが追放されて放浪者となり、流れ着いた地だ。
“神を畏れる厳格な父親、そして性格が正反対な二人の息子の物語”という構造が『エデンの東』と似ているとして紹介されるのは『リバー・ランズ・スルー・イット』。
さらに、「神は、なぜカインの捧げた作物を拒み、アベルの子羊を喜んで受け取ったのか」という疑問に対し、「古代パレスチナの社会的な葛藤」説を紹介する。
“物語の裏には遊牧民と農耕民の衝突があり、両者がお互いに競い合った歴史が隠されている”。
という流れで、マイケル・チミノ脚本の『天国の門』も紹介される。

他にも、
バベルの塔としての『タワーリング・インフェルノ』、
「ヤコブのはしご」の『ジェイコブズ・ラダー』、
モーセが竹刀山で神と遭遇する物語としての『未知との遭遇』
飛行戦艦ゴリアテ・飛行石と、ゴリアト・ダビデの投石の関係を軸に読み解く『天空のラピュタ』
『パルプフィクション』に出てくる聖句
など、映画と聖書に関する話題がたっぷりの一冊。

■『英語でハッとする聖書の話』(石黒マリーローズ/アルク)
聖書だけでなく、英語の勉強もしてしまおうという人にオススメ。
平易な英文で聖書のエピソードを紹介する。
1エピソードは3、4ページだ。
日本語訳もついているので、「英語わからん」って人もだいじょうぶ。
聖書の表現の解説も、英文と日本語訳、両方ついている。
「カインとアベル」の項は、
brothe’s keeper(弟の番人)
the mark of Cain(カインの印)
が解説される。
(もっと詳しく→月9「カインとアベル」英語と聖書が両方わかる『英語でハッとする聖書の話』

■『聖書の全体像がわかる神の大いなる物語』(ヴォーン・ロバーツ著 山崎ランサム和彦訳/いのちのことば社)
聖書を心の支えにしている人がどのように読んでいるのかを感じたい人にオススメの本。
クリスチャンでも、その聖書理解は断片的な聖句知識の寄せ集めに終わっている人もいる。
“本書はそのような方々にとって、聖書の全体像を把握する格好の手引となることでしょう”。
信仰している人に向けた内容になっていている。
全8章、各章の最後には、考える切っ掛けとなる質問集「バイブル・スタディ」がついている。
「どうして神はそんなに理不尽なのか、説明が足りなさすぎるんじゃないか」という疑問には、こう答える。
“私たちが知る必要のあることだけを語っているのです。私たちが悪がどこから来たのかを知ることは重要ではありません。けれども、それが存在していることを知ることは大切です。”
アダムとイブが善悪の知識を得るのは何故いけないことなのか、についてはこう応える。
“神の権威を侵害し、自分たちの独立を勝ち取ろうとした”のであり、これが“罪の性質”だと。
(もっと詳しく→月9「カインとアベル」の原作「旧約聖書」を簡単に把握する)

■『聖書を語る』(中村うさぎ・佐藤優/文春文庫)
キリスト教徒の二人が聖書について対話した本。
「天国にあるノートに、選ばれる人救われる人の名前が載ってる。この世でどんなに努力しようと、その結果は変わらないんです」と主張するカルヴァン派の佐藤優に対して、「そんなインチキくさいこと信じないよ」と対立する中村うさぎ。
「そんなの全然フェアじゃないじゃん」と中村うさぎが言えば、「神様は人間の基準からするとフェアじゃない」と答える佐藤優。
「すでに勝ち負けが決まっているのに、なぜ努力する必要があるのかな」と中村うさぎが言えば、「努力するのは人間として当り前のことで、努力したから成功するというような発想自体を人間の思い上がりと考えます」と答える佐藤優。
どうして疑問を持たないでいられるのかと中村うさぎが問えば、「その質問に対してあえて答えるならば、子どもの頃からの刷り込みです」と答える佐藤優。
対立しまくりで、すれ違いまくるのだが、どちらも率直で、対話がガンガン進んでいく。
村上春樹『1Q84』、「新世紀エヴァンゲリオン」、サリンジャー、地震と原発など、縦横無尽に話題が広がる対談本。

■『聖書を読む』(中村うさぎ・佐藤優/文春文庫)
キリスト教徒の聖書対談第2弾。
「創世記」「使徒言行録」「ヨハネの黙示録」を軸に語り合う。
中村うさぎは「カインとアベル」のエピソードをこう解釈する。
“ここは他者の承認の話であって、「自意識を持った人間は他者の評価に振り回されるようになる」ことを書いているんですよね。”
さらに、こうも語る。
“自分が承認されなかったからといって怒る筋合いはないの。訊ねればいいんだよ、「どうして私の捧げ物はダメだったんですか?」と。それで「出来が悪かったからだよ」と言われたら、また来年頑張るみたいな。もうちょっと怒りに身を任せずにやる方法もあったのに、起こってしまった”。

■『短歌で読む新約聖書』(加藤繁樹/海越出版社)
最後に珍し本を紹介。
“キリストの生まれし系図はるかなり
 アブラハムよりダビデとおりて”
から始まり、
“ヨセフの子ヤコブの孫のキリストは
 アブラハムより四十二代”
と、新約聖書を短歌化した本。
“悲しみに悶え苦しむイエスかな
 されど使徒らは眠りいたりき”
不思議な読み心地だ。
(米光一成)