中国「激安タイヤ」にブリヂストンが悲鳴
鳩山首相の偽装献金問題で話題になった実母が、ブリヂストン創始者石橋正二郎氏の娘であることはよく知られている。古くから両家は親しい間柄であり、鳩山兄弟の政治資金は実母が相続したブリヂストン株の配当資金に支えられてきた。しかし羽振りのよい一族とは裏腹に、会社はリーマン・ショックの煽りを受け、危機に瀕している。2008年12月から1年間に6度も業績予想を修正したことが、混迷を裏づけている。
同社の決算資料によれば、08年12月期の純利益は当初予想の660億円から104億円に減少し、30億円の黒字と見込んでいた09年純損益予想は100億円の赤字に修正されている。これに伴い昨年11月には、1997年から続けてきた自動車レースの最高峰F1へのタイヤ供給を、10年で終了すると発表した。
ブリヂストンは仏ミシュラン、米グッドイヤーとともに「世界3大ゴムメーカー」と呼ばれているが、売上高で見る限り05年以降は2位のミシュランを蹴落とし、断トツと呼べる状況になっている。
06年に就任した荒川詔四(しよう)社長は、「名実ともに世界一の地位の確立」を目標に掲げ、高性能・高品質路線を打ち出した。これがリーマン・ショック後の消費者の低価格志向によって裏目に出た。
08年の地域別売上高を見ると、43%がアメリカ、27%が日本、15%がヨーロッパと、先進国偏重が目立つ。世界同時不況の直撃を受けた原因の一つは、そこにある。
ただし同社は、実は、それ以前から、世界タイヤ市場におけるシェアを落としていた。00年の19・7%が頂点で、08年には16・7%にまで減少している。ブリヂストンだけではない。2位のミシュラン、3位のグッドイヤーも一様に数字を減らしている。3社以外の日米欧の主要メーカーも同様である。
入れ替わるように勢力を拡大してきたのが、中国のメーカーである。
09年9月、米オバマ大統領が中国製タイヤに対し、現行4%の輸入関税に1年目35%、2年目30%、3年目25%を加算するセーフガードを発動して話題になった。
中国メーカーのタイヤは圧倒的な低価格を武器に、04年には4.7%だった米国内シェアを4年間で約3.5倍の16.7%に拡大している。米国内のメーカーは煽りを受け、工場閉鎖や従業員の失業などに陥った。
ブリヂストンは米国では甚大な影響を受けなかったものの、09年10月にオーストラリアとニュージーランド両国の工場閉鎖を発表している。このとき最大の理由として挙げていたのが「価格競争の激化」だった。中国のメーカーが仕掛ける価格破壊の波は世界を呑み込みつつある。
日本にも中国メーカーのタイヤは並行輸入され、一部のタイヤショップで販売されている。価格はブリヂストンの約半値だ。にもかかわらず他国ほど話題にならないのは、冷凍ギョーザ事件などの教訓から、中国製品の信頼性に疑念を抱く国民が多いためだろう。
中国より一足先に世界進出を果たした韓国メーカーのハンコックやクムホに対しても、「空気が抜けやすい」「グリップが弱い」「寿命が短い」などの風評を深刻に受け止め、遠ざける傾向がある。
しかし、現在の韓国メーカーは、自動車レースの経験も豊富であり、ブリヂストンの後を受けてF1タイヤの供給をするのは前出の2社のいずれかという観測もある。アジアンアレルギーの強い日本市場での厳しい評価とは裏腹に、グローバル市場における存在感は、着実に高まっているのだ。
中国メーカーのタイヤが日本に本格上陸するのは、先進国では最後になる可能性が高い。ブリヂストンはその前に手を打っておく必要がある。価格では到底勝負にならないからこそ、日本製品が得意とする高性能・高品質で対抗しなければならない。
しかし今のブリヂストンに、そんな余力があるか。気になるのは、以前は頻繁に目にした「名実ともに世界一の地位の確立」という強気のフレーズを、最近ではほとんど見かけなくなったことだ。経営危機で自信や希望まで失ってしまったのか。孫の鳩山首相が発動するセーフガードを頼みとするようでは、創業者も浮かばれないはずだ。
(月刊『FACTA』2010年2月号、1月20日発行)
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