「個人情報の塊」健保システム会社が経営危機
大手上場企業の健康保険組合幹部は頭を抱えている。
「組合の事務処理システムの委託先が実質破綻し、よからぬ金融業者から融資を受けたようだ。社員とOBとその家族を合計すると10万人を超える個人情報が宙に浮きかねない」
経営不安が取り沙汰される社会保険システム総合研究所(東京都港区、以下SIS)は、健保組合向け事務処理システムの開発・販売・保守を専業とする中堅企業。あの東京電力や三菱電機、三菱マテリアル、電通、産経新聞など約100社の健保組合をクライアントに持つ。SISが運用する事務処理システムには被保険者と被扶養者の診療年月日、医療機関名、診療科、疾病名などのレセプト情報、健康診断情報など「超」プライバシー情報が満載だ。
SISの設立は1990年。カシオ計算機で社会保険システムの開発に携わった杉本宏司社長が創業し、他社より2〜3割安い委託料を武器に大手健保との契約を増やしてきた。健保制度は複雑でルールや料率が頻繁に変わるため、その都度、企業に出向いてシステムを組み替えなければならない。追加コストがかかりすぎるため、SISはクラウド型の新システムの構築を提案。09年までに大型サーバーに数十万人分のデータを移し、一括処理することにした。
異変が起こったのは昨年末。「リース会社から二重の請求書が、健保側に送られてくるようになった」と関係者は明かす。新システムのリース料は健保、旧システム分はSISが払う取り決めになっていたから、ダブルで請求書を送られた健保側は仰天。資金繰りに窮したSISのリース料不払いが原因だった。さらに、メーンバンクが杉本社長の自宅に根抵当権を設定し、評判のよくない消費者金融業者から融資を受けていることが判明。業を煮やした健保側は「債権者集会」を開かせたが、杉本社長は「大丈夫です」を繰り返すばかり。大手新聞の健保幹部が声を荒らげる場面もあったという。ある大手健保の幹部は「架空リースの疑いもあり、訴訟を検討している」と話す。
今年に入って杉本社長が引責辞任。赤坂の一等地に構えていたオフィスを引き払い、近くの雑居ビルに移った。さらに、最近になって再び移転。現在のSISのホームページに掲載されている住所に本社は存在しない。関係者によると、辞任した杉本氏は今も社内にとどまり、会社再建に奔走している。現在、神奈川県下で過払い請求訴訟を扱う法律事務所が再建計画にかかわっている。
数百万件の個人情報を管理するシステム会社の杜撰な経営に驚かされるが、健保組合側も危機感に乏しく、事態を隠蔽しているフシがある。大手企業の健保組合理事長は名誉職で、事務局の担当職員はわずか数名。多くが「窓際族」のポストになっており、健保制度に疎い素人ばかりだ。債権者の健保側が民事再生法の適用を申請するという手もあったが、事なかれ主義で先送りしてきた。
健保組合は、国が行う健康保険事業を代行する公法人で、その数は1400を数える。厚生労働省の設立認可基準に適合し、将来にわたる安定した事業運営が求められるが、急速な高齢化に伴い高齢者医療制度への拠出金が急増。企業のリストラや給与水準の引き下げで保険料収入が減少し、軒並み赤字に陥っている。個人情報満載の業務システム委託先の破綻を機に、赤字経営の実態を探られたくないのがホンネだろう。数百万人分の個人情報が危機に晒されているのに、監督当局に事態を報告した形跡はない。
SISの100%株主の杉本氏は、本誌の取材に「(資金繰りは)ユーザー様のご協力がなく、売り上げの見込みが立たなければ、厳しい状況にございます。消費者金融からの融資は7月に完済済みです。(リース料の二重払いは)事業再建の中でお支払いしていきます。現在は、その資金がないのでお待ちいただけるようお願いしています」と回答した。
(月刊『FACTA』2012年1月号、12月20日発行)
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