「パス成功率」「スプリント数」。単体では意味がないデータ

 最先端のサッカーにおいてデータ分析はなくてはならないものだ。感覚や印象ではなく客観的事実の積み上げで見えてくるものは多々ある。それにおいて世界でも頭一つ抜け出ているのはドイツ代表だろう。結果を出し続けるために、データ分析はどこまで進んでいるのか。短期集中連載で最前線に迫る。(取材・文:本田千尋【デュッセルドルフ】)

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 そして分析の世界は、次のステップに進みつつある。

 「データの見える化」、である。

 第1回のコラムで触れたように、今ではある試合の翌日に「昨日のパス成功率は何%だった」と伝えるだけでは、選手側に響くアプローチをするのは難しい。決して「パス成功率」という概念が古くなったわけではない。

 ただそういった数字は、UEFA公式HPやブンデスリーガ公式HPなどで誰もが確認できる。その選手がデータに興味がある、なしの問題ではない。“ありふれたデータ”を目の前にそのまま示されても、そこから何をどうしたらいいのか、選手側も困惑するだけだ。

 パス成功率、走行距離、スプリントの本数…といったデータについて、プロゾーンのアジア部門を担当する浜野裕樹氏によれば「導入としては今も大事」なのだという。

「そういったデータに加えて、試合はその時どんな状況で、自分のポジションがどこで、どこに向かって走って、という追加の情報が入ってこないと、スプリント何十本、だけでは意味がないと思います」

 “ありふれたデータ”は、きっかけに過ぎない。

「試合の翌日、ある選手に『昨日スプリント10本だったぞ』と伝えても『あ、そうですか』で終わっちゃうと思うんです。でも例えば、指導者がその選手を褒めようとする場合、『89分、自分の陣地に戻る時、あれだけスプリントできていたよ。それは良いね』というコミュニケーションが生まれるんですよね」

 つまり「データの見える化」とは、「データに意味を持たせる」ということである。

 また逆に、叱る場合にも「コミュニケーションが生まれる」。ある試合で監督から「前半は飛ばしていこう」という指示が出ていたとする。そして試合後に「『飛ばそう』と伝えていたが、ボールを獲った後の前方へのスプリント、獲られた後の後方へのスプリント、全然できていなかったぞ」というアプローチも可能になってくる。

“球離れの良さ”はどのようにデータ化できるか?</h2>
 このように言葉で踏み込むこともあれば、映像で踏み込むこともある。パス成功率に加えて、その選手のパスが成功した場所としてない場所の映像を3分程度にまとめて見せるのだ。「ここからパスをしたときは通るけど、ここからは通らないよね」といった具合に、ビデオを見る選手に響くように、データを読み解いて提示するのである。

 そして「Prozone(プロゾーン)は、30枚の分析レポートを出すために必要なデータを、一目見ただけでチームの特徴が分かるレーダーに表出する「Playing Style(プレーイングスタイル)」というソフトウェアに昇華させた。プロゾーンならではの「データの見える化」=「データに意味を持たせる」アプローチだ。

 レーダーの角は、ポゼッション、ダイレクトプレー、カウンターアタック、ファスト・テンポといったプロゾーンが定義した項目に分かれている。そしてまた、1つひとつの項目に先に記したような“まとめのビデオ”が付随されることになる。

 2014年のブラジルW杯でベスト8に進出したチームを例に、ファスト・テンポ(fast tempo)を見てみる。ファスト・テンポとは、選手1人ひとりのボール保持時間の長さのことだ。ワンタッチ、ツータッチで回しているかどうか、要するに“球離れの良さ”を表すものである。

「ドイツ代表は2006年頃から、ファスト・テンポの短縮にずーっと取り組み始めたんですよ。各個人が、ボール保持時間を2秒から、さらにちょっと短くしてみよう、とか。そこでプレーイングスタイルのレーダーを見てみると、確かにドイツ代表はボールを貰って、ポンポン回していることが分かりますよね。スペイン代表は、ポゼッションと言われているけれど、ワンタッチ、ツータッチですぐ叩いていることも分かります」

 スペイン代表の例は「データの見える化」によって、意外な真実が端的に現れたということだろう。一方で、その代表チームに対するイメージをそのまま喚起する場合もある。

データが生み出す新たなコミュニケーション

「ブラジル代表を見ると、ファスト・テンポの項目に重きを置いていないことが分かりますよね。こういった具合に、“ありふれたデータ”が記載された30枚のレポートと同じ情報量で、ここまで出来るんです。このレーダーを作成しているのは、今、プロゾーンだけです」

 EUROの大会期間中には、顧客からの要望があれば「プレーイングスタイル」のレーダーを提供した。試合が終わって翌日の午後までに、対戦相手との比較や大会平均との比較などに加えて、“まとめのビデオ”を追加した。

「もちろん『プレーイングスタイル』は必要ないです、という顧客の方々もいます。必要とされた顧客の方は、次の試合に向けた準備にレーダーを活用して、大会が終わった後には総括のレポートを協会に提出して、ステップ【4】の『集まったデータを、データベース化する』。そういった取り組みはあると思いますね」

 第2回のコラムで取り上げた、分析の4ステップの第四段階であるデータベース化も、「データの見える化」と言えるだろう。【1】〜【3】のステップを何年も何周も繰り返して、ためたデータを次に活かせるように、見えるようにする。

 あるチームのCBのデータが10年分集まって「見える化」すれば、過去のこの選手はここが良いけど、今度はこういう選手を獲得したい、といったスカウティングに役立てることができるようになる。

 上記、いくつかの事例を振り返ると「データの見える化」とは、新たなコミュニケーションを創出すること、とも言えるだろう。単にパス成功率、走行距離、スプリントの本数といった端的なデータを示すだけでなく、データに意味を持たせて、もう一歩踏み込んで“人間対人間のコミュニケーション”を生み出す。

 データを生かすも殺すも、結局のところは人間なのだ。

(取材・文:本田千尋【デュッセルドルフ】)