Kリーグクラブによる斬新すぎる取り組み

 韓国に脅威のスタジアムが誕生した。なんとサッカー場とスキージャンプ台が合体しているのだ。珍妙な光景に現地でも驚きの声があがっているが、なぜこのようなスタジアムが完成したのだろうか。現場に行き、関係者からその理由を聞いた。(取材・文:キム・ドンヒョン)

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 このコラムを読まれる前に、読者の皆さんにまず聞きたいことがある。あなたはスキージャンプ競技場で行われるサッカー試合について聞いたことがあるのだろうか。おそらく“ない”と答える人が大半であろう。

 筆者も今までサッカーはサッカー専用スタジアムか、陸上トラックがついてある総合競技場にて行われるべきだと考えていた。それがある種のルールだと思っていたからだ。

 しかし、よく考えると必ずしも定められた空間で試合が行われるべきではないことに気づく。規格さえ整えていたらどこで試合をしてもかまわない。だとするとサッカースタジアムでない場所でサッカー試合を開催したらどうなるだろうか。

 その斬新な考えから出発した奇策を現実に成し遂げたクラブがある。韓国北東部に江原道(韓国は8道で構成。日本の県と同様の概念)に位置する江陵(ガンルン)をホームタウンとする韓国Kリーグチャレンジ(2部)の江原(カンウォン)FCだ。

 江原FCは今月行われるホーム4試合を2018年冬季五輪開催地と内定されている平昌(ピョンチャン)にあるスキージャンプ競技場のアウトラン(Outrun、スキージャンプで着地をする四面)で開催した。もちろんKリーグの許可の得たうえでの開催だ。ファンの間でも「異彩を放つスタジアム」と噂されているその現場を現地で取材した(取材日9月24日)。

「冬季スポーツの聖地」に作られたスタジアム。人工の滝が異彩を…

 ソウルから車でおよそ3時間走ると平昌に出る。海抜700mに位置するだけあって昔からスキーなどの「韓国冬季スポーツの聖地」とされている都市だ。2018年冬季五輪に備え、平昌につながる高速道路は補修作業をしており、市内も各種目に使われる競技場建築に真最中だ。この騒音が止まぬ建築現場からさらに車で3分ほど走ると、唯一試合開催の準備が整っていると言っていいアルペンシアスキージャンプ競技場が姿を見せる。

 初めての印象は、とにかく珍しい。スタジアムの雰囲気がそれこそ異彩を放っている。15,000人を収容できる観客席からまず普通のスタジアムとは違う。アウェイ席があるべき場所にはスキージャンプ台が設置されており、コーナーフラッグの後ろには高さ50mの人工滝から水が止まらず流れ落ちている。

 ホームサポーター席の後ろには展望台が設置されており、ここからスタジアムの全景を見ることも可能。状態のいい天然芝も敷かれており、気候も23度ほど。スキージャンプ台がなければ、サッカー専用スタジアムと錯覚するほどのクオリティだ。

 しかし、どう考えても奇策としか受け止められない。なぜ江原FCはここで試合を開催しようとしたのか。江原FC広報担当のイ・ヒョンヨン氏は「ホームタウン活動の一環」と説明した。

「江原FCは道クラブで、道の中にある都市ならホームとして使用ができる。クラブと江原道開発公司が協調し、ここをホームとして使う企画が実った。冬季五輪の開催地を広報しようという考えもあった。そのため、文化体育観光部(日本の文科省とスポーツ省のような役割を担う官公庁)も支援を惜しまなかった。ここの芝や観客席の設置も文化体育観光部の支援をもらっている」

 最も肝心な、サッカーができる環境に関しても引証済み。着地場であるアウトランが、Kリーグが定めるスタジアム規格にちょうど収まったのもこの企画の現実化を手助けした。「観客席も上手く入るなど、規格面では問題なかった」とイ氏は語る。Kリーグのマッチ・コミッショナーがこの日スタジアムを訪れ、綿密にチェックする様子も見られた。

 ただ、問題がないわけではない。

問題はあるが、監督は評価「サッカーに向いていている」

 その問題とは交通。近隣まで電車やバスなどが通っていないため、自家用車がないと簡単に来られる立地ではない。もちろん冬季五輪までは補われるというが、この日の観客数には影響があるはずだ。

 イ氏も「前節の週末試合では(観客が)900人ほどだった。車がないと正直簡単に来られる場所ではない」と交通の不便さを認めた。江原FCの2016年平均観客数は1,033人(Kリーグ発表値)。チャレンジでも下から2番目で、本来観客が多いクラブではない。平昌開催試合では平均をやや下回る結果となっているのだ。

 しかし、この日は得失点差で江原FCより上に位置する3位の大邱(テグ)FCとの自動昇格をかけた大一番。4位で自動昇格を逃す危機にある江原はそれこそ“勝ち点6点”の試合となる。その影響もあり、この日スタジアムを訪れた観客は1404人。平均を上回る数値を記録した。

 試合は1-1。ドローとなったが、昇格をかけるお互いの執念がぶつかり合い、内容の濃い試合で魅せた。試合後、大邱FCのソン・ヒョンジュン監督代行はこのスタジアムに対して「正直驚いた」とコメントした。

「ここまでよく作られているとは思わなかった。スキージャンプ台や滝は、選手はもちろん私にとっても不慣れな風景。しかしサッカー専用スタジアムのような雰囲気もあり、サッカーにはとても向いているような印象を受けた」

 江原FCのチェ・ユンギョム監督も「和やかな雰囲気」と前提したうえで「ホームタウン活動につながれば」と“異彩なスタジアム”をポジティブにとらえた。

「今日で3試合目。トレーニングは10回ほど行っているが、ちょうどいい涼しさで眺望もよく、サッカーに向いていていると思う。来るたびに和やかさを感じる。また、江原FCは道のクラブ。道の広報につながることであれば力になりたい気持ちは当然ある。選手たちもそうだが、このスタジアムでサッカーをすることを嬉しくとらえている。この試合開催が冬季五輪の力になったらと思っている」

選手・ファンも好感。冬季五輪を見据えたコラボ

 江原FCのキャプテン、ペク・ジョンファン選手もスキージャンプ台で行われる試合に関して驚いた様子。「初めて来たときは選手たちで『うぉ!』と歎声がもれましたね。不慣れだったから。しかし空気もよく、サッカーをする上ではいい環境だと思う」とにやり。

 ファンたちも満足感を表した。この日、初めてこのスタジアムに来たという江原FCのファン、ミン・ジヒョン氏は「スキージャンプ台で試合が行われると聞いて来てみたかった。今ホームスタジアムとして使っている総合競技場より見やすくて、雰囲気も立派だと思う」とスキージャンプ競技場での試合に好感を持った様子。

 監督、選手、ファンが満足するこのスタジアム。だとすると今後の使用はどうなるのだろうか。広報担当のイ・ヒョンヨン氏は「未定」としながらも今後の協議を通じ、「再開催」の可能性もあり得ると認めた。

 江原道開発公司が所有・運営している施設であるため、ある意味道クラブである江原FCの特権ともいえる。また、前記したようにここは冬季五輪が開催される地。ここで試合を開催することでクラブはもちろん、冬季五輪の広報も備えることが期待される。

 クラブ関係者や、Kリーグ、文化体育観光部、自治体もそれを期待しているという印象を受けた。もちろん交通面の不便さなど、解決するべく課題もある。しかし戦略的な広報として、そして他スポーツと作り上げる見事なコラボレーションである。サッカーだけではなかなか見られないチャレンジ精神を高く評価したい。

(取材・文:キム・ドンヒョン)