ハリルが期待を寄せるGK川島

 10月の代表ウィークでメンバーに復帰した川島永嗣。クラブではトップチームでの出場機会なく厳しい立場にある。だが、それでも招集されたことには大きな意味がある。現状では第3GKという位置づけだが、ハリルホジッチ監督も大きな期待を寄せている。なぜなのか。(取材・文:元川悦子)

——————————

「(川島)永嗣はメスのセカンドチームでプレーしている。彼にはグループの中で特別な役割を担ってもらいたい。発言力もあるし、チームによいスピリットをもたらせる。リーダーの1人でもあり、経験もある。厳しい戦いにおいて、彼の存在感が必要になってくる。

 彼がプレーするかどうかはまた別問題だが、経験のある選手の1人であるため、期待している。この2試合、今までより本当にメンタルを出していかなければいけない試合になるため、そのために永嗣を呼ぶ」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が9月29日の2018年ロシアW杯アジア最終予選・イラク&オーストラリア2連戦(10月6・11日)に挑む日本代表メンバー発表会見でこう強調した通り、チーム全体のメンタル強化のために33歳の守護神が満を持して招集された。

 その川島は代表合宿2日目となる3日のトレーニングから長谷部誠(フランクフルト)、香川真司(ドルトムント)ら8人とともに合流。この日はランニングや軽いボール回しを行い、西川周作(浦和)と東口順昭(G大阪)と同じGK練習は消化しなかった。

 ただ、他のフィールドプレーヤー7人が練習を終えた後、エンジェル・ルグシッチ新GKコーチとの個人練習は実施。指揮官も出場チャンスがゼロではないことを、GKコーチを通じて彼に伝えたかったのかもしれない。

「(メスでは)メンバーには入れていないので難しい状況ではありますけど、自分もリザーブチームに行ってやったりしています。今回はヨーロッパの中でも大きいリーグでのチャレンジですし、1日1日、日本人のGKとしてどこまでやれるのかを突き詰めていきたいと思っています。

 今、自分はトレーニングとか、そういうところでアピールしていくしかないですね」と本人はクラブで苦境に追い込まれながらも、試合勘は失っていないことを改めて強調していた。

難しい立場の第3GK。過去の川口も苦労

 とはいえ、現状では第3GKからのスタートを余儀なくされるのは確か。第3GKというのは、出場可能性が極めて少ない中、率先して仲間たちに声をかけ、チームを積極的に統率するという極めて難しい役割を担わなければならない。

 過去の歴史を見ても、98年フランスW杯の小島伸幸(現解説者)、2006年ドイツW杯の土肥洋一(東京ヴェルディGKコーチ)、2010年南アフリカW杯の川口能活(相模原)がその立場を経験している。

 とりわけ難しかったのが川口だ。岡田武史監督(現FC今治)から直々の要請を受け、ケガが癒えていない中、キャプテンの重責を担ったが、大会直前の日韓戦で完敗を喫するなどチーム状態が急降下。

 ゲームキャプテンが中澤佑二(横浜)から長谷部に代わり、リーダーが3人もいるという複雑な状況に直面することになった。長谷部は「本当のキャプテンは能活さんであり、佑二さんですから」と気を使い続けたが、川口はそんな後輩の最大級のリスペクトを受け入れたうえで、チームを懸命に統率。

 直前合宿地・サースフェーでは選手ミーティングで話し合った守備的戦術へのシフトを指揮官に進言。大会中には試合に出たい思いを封印し、ピッチで戦う後輩たちを力強く鼓舞し続けた。

 こうした激励を背にピッチに立ち、ベスト16入りの原動力となった川島には、川口の苦労、控えに回った楢崎正剛(名古屋)の姿が脳裏に焼きついているに違いない。

「能活さんもナラさんもそうだけど、日本代表の偉大な先輩たちを見てきて自分自身、彼らに今でも追いつきたいと思っているし、一緒にやらせてもらった時も学ぶことが多かった。自分が今、こういう立場になって、改めて2人の経験の大きさを感じることもあります。そういう先人に学び続けて、やっていきたい」と彼は語る。

川島に何が求められているのか?

 そんな川島が率先してやらなければならないのは、イラク戦でチームが結束し、全員が闘争心を持って戦える環境を作ること。それが最優先課題と言える。自分が離れていた9月のUAE&タイ2連戦は、結果も芳しくなかったうえ、選手たちが持てる力の全てを出し切れていなかったと彼は捉えている。だからこそ、1人ひとりが持ち味を出せるように、自分なりのやり方で仕向けていくつもりだ。

「正直、(UAE戦の)結果を見た時にはショックでした。呼ばれてない時の自分は日本人として日本代表チームを応援しているし、自分が経験している分、最終予選の意味や選手の痛み、背負うものの大きさも分かる。いろんな意味でショックはありました。

 今、大切なのはチーム全体、1人ひとりがホント自信を持って戦うこと。1人ひとりが輝きを取り戻していくことが一番だと思うんで、もう一度、この2試合に向けてチーム全体がイキイキプレーできるように押し上げていきたいと思います」と彼は語気を強めた。

「彼がいるとピリッとする部分はあります」と長谷部も太鼓判を押していたが、誰かが集中力を欠いたり、献身的姿勢を失ったりした時、鼓舞できる存在は、やはり自信を失いかけている今の代表に必要だ。

 川島が6年前の川口のようにチームの要として堂々とした立ち居振る舞いを見せることが、崖っぷちに瀕した日本代表の再生につながる。ハリルホジッチ監督もそこを期待している。遠慮など一切せず、周りを叱りつけるくらいの大胆な行動で、チームを劇的に変化させるという極めて重大な役割を、川島は担っている。

(取材・文:元川悦子)