ケーヒルだけではない、オーストラリア代表の要注意選手

 イラク代表に劇的な勝利を収めた日本代表は、次なる相手にオーストラリア代表とアウェイで対戦する。これまでのオーストラリア代表といえばティム・ケーヒルが日本代表の前に幾度となく立ちはだかってきたが、警戒すべき選手は彼だけではない。現地在住の日本人記者が、オーストラリア代表で注意すべき4人の選手を挙げた。(取材・文:植松久隆【ブリスベン】)

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「サッカルーズで警戒すべき選手は?」という問いを投げかけられ、「ティム・ケーヒル」とばかり答えているのも芸がない。

 実際、ケーヒル(メルボルン・シティ)が警戒すべき選手であることには違いないが、だからと言って他に警戒すべき選手がいないわけではない。むしろ、ここに来て、サッカルーズの宿痾とされた“ケーヒル依存症”は、かなりの快復傾向にあり、そこには若手の躍動が見られる。

 一番の注目選手には、勢いという意味でトム・ロギッチ(セルティック)を挙げたい。長らく将来を嘱望されてきたその才能が、ようやく欧州の地で完全開花。190cm近い長身でダイナミックにボールを運び、繊細なタッチでパスも長短使い分ける。周りも良く見えて自らも得点に積極的絡むスタイルは、オーストラリアに今までに類型を見ない“ニュータイプ”だ。

 キャンベラ出身のロギッチは、地元では早くから名の知れた存在で10代ではフットサルーズ(オーストラリアのフットサル代表)にも選ばれた技巧派。20歳になった直後、当時のグラアム・アーノルド(元オーストラリア代表監督、現シドニーFC監督)が指導、若手の育成に定評があったセントラルコースト・マリナーズ(CCM)に加入。すぐにAリーグで出番を掴み、確実な成長を見せた。

 しかし、22歳でセルティックに移籍して欧州に雄飛を果たすも、ケガに悩まされるなど完全なブレイクまでは足踏みをする時期が続いた。そんなロギッチは昨季、スコットランド随一の名門のレギュラーに定着して大活躍。遂に本格的なブレイクを果たした。そのクラブレベルでの活躍と軌を一にして、代表での出番も安定し、今に至る。

 それでも、そのロギッチの立ち位置は、サッカルーズの中でまだ絶対的なものとは言えない。というよりも現在のサッカルーズに不可侵の“聖域”が存在しなくなっている。あのケーヒルでさえも先発が確約されておらず、ここ数試合はベンチスタートが続き、アンジ・ポスタコグルー監督は「ケーヒル=スーパーサブ」という起用法をほぼ固定化している。

マンチェスター・シティ経由でイングランド2部へ。指揮官の信頼掴んだムーイ

 キャプテンのミレ・イエディナク(アストン・ヴィラ)も、ここのところのマーク・ミリガン(バニヤス)の好パフォーマンスの影響で、必ずしも絶対的な存在としての扱いを受けていない。

 そんな中で、現時点で、サッカルーズの中で一番替えの利かない存在と言えるのが、MFアーロン・ムーイ(ハダーズフィールド・タウン)。昨季所属したAリーグのメルボルン・シティで他の追随を許さないクオリティを見せ、同じシティ・グループ傘下のマンチェスター・シティに吸い上げられての欧州移籍。

 今季は、チャンピオンシップ(イングランド2部)に昇格してきたハダーズフィールド・タウンにレンタルに出され、そこですぐにそのクオリティの高さを証明して見せている。

 代表でのムーイは、かつてウエスタンシドニー・ワンダラーズ(WSW)で小野伸二とプレーしていた時に時折見せた遠慮がちなプレーは見られない。メルボルン・シティで誰もが認める活躍を見せ、請われて欧州に活躍の場を移し実績を上げている自信が全身に溢れている。

 淡々と確実に要求レベル以上の仕事をこなし、結果を見せる驕ることなきハードワーカーは、ポスタコグルー監督の揺るぎない信頼を勝ち得た。その信頼度の高さは、攻撃的なポジションの選手の中でただ一人、この最終予選3試合すべてにフル出場を続けているところにはっきりと表れている。

 サッカルーズの基本スタイルは、両ウィングを配置した4-3-3。ボランチを1人、攻撃的なポジションに2人配置するのが基本形で、ロギッチを右、左にムーイというのがファーストチョイスになる。

次代のエース候補”ユリッチでケーヒル依存症克服か

 さらには、イラク戦では試合の冒頭から、サウジアラビア戦では試合の後半から中盤をダイヤモンド型に配する4-4-2のフォーメーションでのプレーも見せた。その際は、ロギッチは司令塔のポジションに陣取り、左右のハーフをムーイともう一人の技巧派MFマッシモ・ルオンゴ(QPR)が務める。

 自国優勝を果たした昨年のアジアカップの活躍で一躍スターダムに駆け上がったルオンゴ。足技、ドリブルでチーム一番のスキルを誇る彼の台頭は、サッカルーズの戦いぶりの幅を大きく広げた。ここまで上げたムーイ、ロギッチ、ルオンゴの3人に加えてあと1人、ボランチに彼らと同世代か若い世代から代表に定着して活躍を見せる選手が現れれば、使い古された表現だが、豪州版新世代の“黄金カルテット”結成が見られることになるかもしれない。

 若手の有望な人材への中盤偏重は、日本とも同じ悩みかもしれないが、前線でようやく次代を背負うストライカーのひとり立ちが見られつつある点では、オーストラリアが一歩先を進んでいる。

 長年、次代のエース候補として期待されチャンスを与えられるもなかなか結果を出せずにいたのが、トミ・ユリッチだ。しかし、二度目の欧州挑戦も2季目に入り、ようやく本来の素質を開花させつつある。この最終予選に入るまでは、代表での戦績は16試合2得点というFWとしては寂しい数字だったのが、この最終予選の3試合の厳しい舞台で3試合2得点と、その存在を大いにアピール。ゴールを積み重ねながら、着実にチーム内での存在感を増している。

 彼が前線で今まで以上に頑張れるようになったことで、相対的にケーヒルへの依存度は下がった。その意味で、冒頭に触れたサッカルーズの「ケーヒル依存症」克服の最も直接的な功労者は、この25歳のストライカーということになる。

州代表に現れた4人の新世代。日豪戦を知らないが故の「恐るるに足らず」

 要注意選手を結局4人も挙げてしまった。逆に言うと、それだけオーストラリアの全体的なレベルが向上していて、質の高い選手が揃いつつあるサッカルーズは日本にとって簡単な相手ではないということの証左だろう。

 イラク戦の試合後、本田圭佑が「必要以上に僕らをリスペクトしていないことが腹立たしい」と語ったと聞く。メルボルン決戦で、オーストラリアは日本へのリスぺクトは捨て置いて臨んでくる。彼らは、ホームでグループ最強のライバルを叩くことしか考えていない。

 そもそも、上に挙げた新世代の4人は過去の日豪戦のほとんどを経験していないだけに、前の世代が持つようなアジアの雄・日本へのリスペクトをそれほど持たないのかも知れない。「日本、恐るるに足らず」と臨んでくる彼らをピッチで躍動させてしまうなら、日本のメルボルンの地での苦戦は必至ということになるだろう。

(取材・文:植松久隆【ブリスベン】)