オーストラリア戦で日本代表の鍵を握るのは新トップ下として定着を目指す清武弘嗣だ。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のもと“タテ”の攻撃を磨いてきた日本代表だが、清武には“ヨコ”との使い分けが求められている。新司令塔は宿敵との対決で日本に幅をもたらすことができるのだろうか。(取材・文:元川悦子)

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負傷者続出で台所事情が厳しいハリルJ

 劇的な形で勝利を挙げた6日の2018年ロシア・ワールドカップ・アジア最終予選第2戦・イラク戦(埼玉)から2日が経った。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、11日に次戦が開催されるメルボルンへ移動してきた。累積警告で出場停止になったマルセイユ酒井宏樹と7日の練習中に槙野智章との衝突で脳震盪を起こしたインテルの長友佑都の2人がチームを離れるアクシデントに見舞われた。

 現地は日中こそ気温が上がるものの、夕方以降は10℃前後まで冷え込み、まるで真冬の様相だ。FC東京の森重真人も「早く冬が来た感じ」と苦笑するほど、激しい気候の変化に戸惑っている様子だった。

 8日夕方、約1時間にわたって行なわれた現地初練習には23人が参加。左足首を捻挫したレスター・シティの岡崎慎司は2日続けてトレーニングを回避してストレッチに専念しており、3日後の決戦出場は厳しそうな情勢だ。

 イラク戦に先発した彼以外の8人のフィールドプレーヤーはサッカーバレーなどで軽く汗を流し、それ以外のフィールドプレイヤー11選手は5対5+フリーマンなど強度の高いメニューを消化した。全体練習後には槙野、丸山祐市(FC東京)、植田直通(鹿島)の3人がクロスからゴール前に入ってヘッドでゴールを決める練習を繰り返しており、劣勢の終盤には高さのある彼らを入れて空中戦に打って出ることも指揮官の頭の中にはあるのかもしれない。

ハリルJが会得した“タテ”のサッカー

 とはいえ、パワープレーという最後の手段を迫られる前に、今回こそはオーストラリアをスムーズに叩きたいところ。イラク戦でボルシア・ドルトムントの香川真司の定位置だったトップ下で先発し、大いなる輝きを放ったセビージャの清武弘嗣は「オーストラリアは現時点で一番強いとは言われてますけど、正直、個々の能力を見れば絶対、日本代表の方が能力は高いと思います」と自信を覗かせた。

 そのうえで「試合中に自分たちがいかに判断するかが次の試合は大事になってくる。日本らしい戦いができないと次はすごい厳しい。ボールの保持率を上げたり、遅攻と速攻を繰り返したり、考えながらやらないと。相手はデカイし、デュエルはもちろん必要ですけど、デュエルを避ける、かわすといったことも考えないといけない。沢山考えながらやるゲームかなと思います」と攻めのバリエーションを広げることが次戦勝利の秘策になるという考え方を示した。

 2015年3月のハリルホジッチ監督就任以来、日本はこれまでのボール回しを主体とした戦術から、激しいデュエルでボールを奪ってタテに速く攻め、ゴールを仕留める戦い方へと一気にシフトした。2014年ブラジルワールドカップのギリシャ戦や2015年アジアカップ準々決勝・UAE戦が好例だが、日本は圧倒的にボールを支配しながらゴールをこじ開けられずに終わるというパターンを何度も繰り返してきた反省もあって、こうした質的変化が求められていたのだ。

 しかしながら、ハリルホジッチ監督の戦術が徹底されすぎた結果、イラク戦前半のように相手に主導権を握られ、シュート数でも互角に持ち込まれる試合がアジア相手でも増えてきた。ミランの本田圭佑もイラク戦後、「本当はこっちが向こうをバカにしたい。それは僕やヤット(遠藤保仁)さんの真骨頂。いろんな意見があるでしょうけど、アジアレベルで言えば、徹底的に相手をバカにするようなプレーは得意としているところ。それを今は求められていない」と現傾向についての不満と疑問を口にするほど、選手たちには少なからずフラストレーションが沸き上がってきている。

清武は“タテとヨコ”を使い分けられるか

 トップ下でタクトを振るった清武も「もっと幅のある戦い方をしなければ苦しくなる」と自覚する1人だ。

「やっぱりタテに急ぎすぎてるところはありましたね。監督が目指してるのはやっぱりタテに速い攻撃で、それもすごい大事。(ヘルタ・ベルリンの原口元気が取った)1点目は理想の点だとは思うんですけど、あれが毎回できるわけではない。そういう時にボールを落ち着かせて、自分たちがボールを保持しながら攻めていくっていうのが、これから大事になってくるのかなとは思います。

「速い攻撃がハマったら数本のパスまでゴールまで行けるし、ホントにいいんですけど、焦らして焦らして背後っていうのもあっていい。今は一発での背後っていう数が多いので、もうちょっとボールの出し入れをして相手が食いついてきた時に背後に入れると。それは当たり前のことなんです。監督の言ってることで自分たちの意識が変わったので、次は焦らしてボールの出し入れして裏を突くことが必要。次の段階(に入る時)かなとに思います」と清武は冷静に現状を分析したうえで、選手自身が自らメリハリをつけていくことの重要性を訴えた。

 霜田正治・ナショナルチームダイレクターが以前、「ハリルホジッチ監督は攻撃に関しては『これをしてはいけない』とは言っていない。選手たちが勝つために自発的に考えてプレーすることを尊重している」と語った通り、指揮官も臨機応変な戦いを歓迎している様子だ。それを攻撃のニューリーダー・清武が率先してやってくれれば、チーム全体も大きく変わるだろうし、彼自身のトップ下レギュラー定着にも大きく近づくはずだ。イラク戦で彼が評価を急激に高めたのは事実だが、まだ香川から完全にポジションを奪い取ったとは言い切れない。だからこそ、オーストラリア戦で「清武なら日本代表を変えられる」という絶対的信頼感を示してほしい。次戦も背番号13のインテリジェンスと高いスキルに注目したい。

(取材・文:元川悦子)

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