新生スペイン代表がスタートも、痛み出した古傷

 スペイン代表は、ルイス・アラゴネス、ビセンテ・デル・ボスケの両監督が率いた黄金時代を経て、フレン・ロペテギ体制をスタートさせた。だが、以前もあったジェラール・ピケの問題が再燃し、ピッチ外での話題が多い状況となっている。レアル・マドリーとバルセロナの因縁に加えてカタルーニャ独立問題が起きている今、“無敵艦隊”を取り巻く状況は複雑だ。(取材・文:山本美智子【バルセロナ】)

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 ビセンテ・デル・ボスケ時代に終わりを告げ、フレン・ロペテギの新スペイン代表がスタートした。だが試合内容について語る前に、古傷が痛み出してしまった。一部のスペイン代表サポーターと代表の間にある溝は埋まらない。

 フレン・ロペテギになって、スペイン代表がどう変化したかという話をする前に、ジェラール・ピケの長袖ユニフォーム騒動が起きたことは、このサイトでも報じられた通りだ。SNS上での事実に基づかない中傷を受けたピケは、試合後ミックスゾーンに姿をみせた。

「フレンと共に新代表でプレーすることに期待していたが、ロシアワールドカップを終えたら代表を引退するよ。途中でフレンを放り出すわけにもいかないしね。余りにも僕に(代表に)いて欲しくない人が多過ぎる。(今回の件は)今後、続けていきたいという意欲を僕に失わせるのに十分だった」

 そう話したピケの表情は、淡々としたものだった。笑顔もなく、かといって、怒るわけでもなく、無表情というほど冷たくもなく、触っても熱くも冷たくもない。目の前にいたのは、ロッカールームでは、いつも明るい空気をもたらす冗談好きのピケではなかった。多くの記者に囲まれて立っていたのは、傷ついたことを最小限にしか表に出さず、責任は果たしたが世の中までは変えられないと、現状にあきらめを感じている一人の悲哀に満ちたプロだった。

ピケは政治的発言を一切していない

 この背景には、近年再び論争となっているカタルーニャ独立問題が背景にある。ちょうど1年前、ユーロ予選のスペイン?スロベニア戦が行なわれた時、代表でプレーするピケへのブーイングは最高潮に達していた。スペイン代表で固定スタメンのピケが、ボールに触る度にスタンドからブーイングが起きた。アウェイではない。スペイン国内のホーム、オビエドでだ。

 カタルーニャ自治州の州都、バルセロナでは、2014年にスペインからの独立を州民に問うカタルーニャ独立住民投票が行なわれた。最終的に政府によって無効とされたこの投票だが、当日は230万人以上が票を投じ、8割が独立に賛成するという驚異的な結果が出た。

 ジェラール・ピケは、ペップ・グアルディオラ等と同様に、独立賛成派だが、本人は自らが公の立場にあることを理解しており、地元への愛情を表現しても、独立を支持するとか賛成するといった政治的発言は一切していない。基本的に、歯に衣をかぶせぬ物言いはピケの特徴の一つだが、これは本人がスペイン代表への影響等も考慮して、かなり意識的に行動しているのだと思う。

 だがそれでも、スペインは単一国家であるべきと考える人々――そして多くは、だからこそ、国旗を背負う代表サポーターでもある――には、許せないのだろう。

スペイン代表とレアル・マドリーのサポーター層

 加えて、ジェラール・ピケは、アンチレアル・マドリーであることを公言している。そして、レアル・マドリーサポーターは、かなりの確率でスペイン代表サポーターとかぶる。これは、FCバルセロナとは反対の現象だ。

 FCバルセロナのファンには、バルサというチームは応援するが、代表には興味がないという声も多い。とはいえ、ここにある両者の根本は同じだと思う。なぜなら、歴史的に代表には(当時の独裁者の意向も反映され)、レアルの選手が多く選出されていたからだ。だからこそ、レアルファンは代表戦を見るのが好きで、その逆もまた真なりということなのだろう。

 ところが、ここ10年近く、その図式が通じなくなった。ビッグチームがどこも外国人選手を目玉にしたチーム作りを行なっているためだ。今でもスペインでは、代表招集がある度に、今回はレアルからの招集が多かった、いや、バルサだ、といった記事が必ず掲載される。

 そして、ここで話は戻るのだが、語弊を恐れずに言えば、ピケへのブーイングはレアル・マドリーから代表で活躍する選手が減ったことに対する不満の裏返しなのだと思う。実際、今回のアルバニア戦で起用されたレアルの選手はセルヒオ・ラモスのみ。ラモスが負傷した後半は、イニエスタに変わって入ったイスコがレアル唯一の選手だった。

センターバックとしての資質には疑いがない

 バルサからは前半ピケ、ブスケッツ、イニエスタの3人、後半はイニエスタが抜けたため2人がプレーした。そういった憤りをクラブやフロレンティーノ・ペレス会長に向けるわけにはいかない。そこでその不満は宿敵に向けられる。バルサでプレーしており、私生活でもセレブとしても目立っているピケは、標的として最適だったというわけだ。

 ジェラール・ピケは、人間的にはいろいろと問題を抱えているかもしれない。だが、トップチームの監督や選手などの話を聞いていても、一つだけ疑いのない事実がある。ピケのセンターバックとしての資質は、それを越えて余りあるものだということだ。

 攻守の能力を兼ね備え、あれだけポジショニングが上手く、ピッチでリーダーシップがとれ、トップレベルでの経験が豊かで頼りになるセンターバックは、世界でも類い稀なのだ。

 ピケを失う損失は大きい。サッカーと政治は無関係だ、代表として魅力あるサッカーを見せてくれればそれでいい、といった常套句がむなしく響く。そこまでの道のりは遠く、ここに至るまでの歴史は長い。サポーターと代表の間にある溝は、簡単には埋まらない。

(取材・文:山本美智子【バルセロナ】)