Jクラブの幹部からの意外な言葉

 Jリーグは12日の理事会で、J1の大会方式を2017シーズンから「1ステージ制」に戻すことを全会一致で承認した。ファンやサポーターの猛反対を押し切り、ある意味で批判を覚悟のうえで2015シーズンから導入した「2ステージ制+チャンピオンシップ」をわずか2年で終え、サッカーの“あるべき姿”に戻る英断を下したJリーグが抱える現状を、いま現在に至る軌跡とともに振り返る。(取材・文:藤江直人)

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 反対するファンやサポーターの声が賛成のそれをはるかに上回る逆風のなかで、2ステージ制が再導入されて2ヶ月ほどがたった昨年5月のこと。Jリーグ実行委員会のメンバーに名前を連ねる、あるJクラブの幹部から意外な言葉を聞いた。

 おりしも日本国内ではJリーグより約1ヶ月遅れで開幕したプロ野球の報道がたけなわとなり、プレミアリーグの強豪チェルシーが日本のタイヤメーカー、横浜ゴムとユニフォームのスポンサー契約を締結。当時の為替レートで、5年契約で総額383億円にものぼる巨額マネーが大きな注目を集めていた。

 その幹部は「納得していないよ。正直な話、オレたちだって正しいと思っていないから」と2ステージ制が世界的な流れに逆行することを認めたうえで、それでも再導入へ前のめりになって突っ走ってきた舞台裏をこう説明してくれた。

「2ステージ制になって収入が上がるといっても、各クラブの投資額が劇的に上がるほどには増えない。横浜ゴムがあれだけのお金を出してチェルシーにつく時代だから、日本の企業は普通にお金を出せるんです。ただ、残念ながらJリーグがその価値があると見られていない。投資の対象として見られていないのは、日常生活のなかにサッカーがなかなか見えてこないし、聞こえてこないからに他ならない。

 プロ野球が始まれば、案の定、プロ野球の報道ばかりですよね。あちらはほぼ毎日だし、こちらは週に1回だからね。しかも、いまの企業経営者は野球世代。だからこそ、正しいのはあくまでも1ステージ制だと理解しながらも、少しでも露出が増えてほしいという思いから2ステージ制にして、優勝争いのヤマ場を増やした。サッカーっていいものじゃないかと、まず企業経営者にそう思わせないと」

なくなった2ステージ制継続の大義

 じり貧状態だったJリーグの将来に危機感を覚え、苦渋の決断のなかに不退転の決意を込めたからこそ、2013年秋に2ステージ制導入を決めた当時のJリーグの大東和美チェアマンは「少なくとも5年は続けたい」という言葉を残してもいる。

 しかし、荒波を覚悟で港を出てから2年とたたないうちに、Jリーグはある意味での“理想郷”にたどり着いた。状況を劇的に変えたのはイギリスの動画配信大手パフォーム・グループが提供するスポーツのライブストリーミングサービス『DAZN(ダ・ゾーン)』と締結した、2017シーズンから10年、総額約2100億円にのぼる巨額の放映権料契約に他ならない。

 原資のケタが異なるほどに増えたことを受けて、必然的にJリーグから各Jクラブへの均等分配金や優勝賞金も大幅に増える。1ステージ制へ回帰する動きが明るみになった9月中旬。Jリーグの村井満チェアマンは「大会日程や大会方式に関して、制約なしにあるべき姿で議論できるようになった」と、2ステージ制を継続していく大義名分が実質的になくなったことを暗に認めていた。

 あるべき姿とは、もちろん1ステージ制をさす。ホーム&アウェイ方式で2回戦総当たりのリーグ戦を長丁場で開催し、もっとも安定した力を発揮したチーム、要は最も多くの勝ち点を獲得したチームが美酒に酔う。着地点は決まっていて、来シーズンのスケジュール作成や自治体管轄になっているケースが多いスタジアムの確保を考えれば、10月の月例理事会が大会方式の変更を決める最後のチャンスでもあった。

 迎えた12日。東京・文京区のJFAハウスで行われた理事会で、2017シーズンからJ1を1ステージ制に戻すことが正式に決定した。すでに実行委員会で合意に達していた事項を全会一致で承認。2015シーズンから導入された「2ステージ制+チャンピオンシップ」は今シーズン限りで、わずか2年のチャレンジをもって幕を閉じることになった。

 変更に至った最大の理由を、村井チェアマンは「日程的な限界」に帰結させている。2ステージ制導入が決まり、2015シーズンのスケジュールが作成された直後に、毎年11月に開催されるACL決勝が中立地の一発勝負からホーム&アウェイで、しかも週末に行われることになると決まった。

CS開催にともなう日程的な問題

 現状では残念ながら、会長を含めた幹部職を中東勢に牛耳られているアジアサッカー連盟の動向がなかなかつかめない。必然的に11月は2つの週末でJ1を開催できず、そこに国際Aマッチデーが加わることもあって、実に3週間もの“空白”が生まれる状況を余儀なくされる。

 今シーズンはセカンドステージ最終節を11月3日に設定。その後の中断期間をはさみ、Jリーグチャンピオンシップ準決勝を同23日に開催するスケジュールを組んで、リーグ戦が“飛び石”状態になる状況に修正を加えた。しかし、チャンピオンシップ出場クラブが「4」ないし「5」になった場合には、1回戦を中断前の6日に組まざるを得なかったという課題も実は残されている。

 昨シーズンを振り返れば、ACL準決勝まで駒を進めたガンバ大阪が決勝に進出した場合、ガンバのセカンドステージ第16節と最終節を大幅に前倒しせざるを得ず、最終節を同時刻のキックオフで行うリーグ戦の公平感を損なうとして、大きな議論を巻き起こしていたことは容易に推察できる。

 セカンドステージ最終節を約3週間前倒しした今シーズンにおいても、チャンピオンシップ出場を逃し、天皇杯でも早期に敗退したクラブの選手たちは来シーズンの開幕まで、4ヶ月ものオフに入ることになる。元旦の天皇杯決勝まで戦ったクラブとは、実に2ヶ月もの“差”が生じてしまう。

 村井チェアマンはJ1の全18クラブの所属選手の意見を聴取するうえで、日本プロサッカー選手会(JPFA)の全面的な協力を得た。9月2日にはJPFAの高橋秀人会長(FC東京)と意見交換の場をもち、その際に「Jリーグのシーズンが一斉に終わることが非常に重要」という要望を伝えられてもいる。

 2014シーズンまで10年間実施された1ステージ制では、12月第1週に最終節が開催されてきた。天皇杯の勝ち進み具合によって若干の差異こそあるものの、従来のスケジュールに戻せばJPFAが求める「オフの期間の均等化」を達成することが可能になる。

 5月に熊本県を襲った大地震も、J1の大会方式変更を後押しするきっかけとなった。被災したロアッソ熊本はリーグ戦の5試合を延期せざるをえず、ウイークデーを利用しながらすべてを消化したのは9月7日だった。1ステージ制で戦うJ2だからこそ対処できたもので、村井チェアマンもこう語っている。

「自然災害が非常に多い日本において、大会方式のあり方としては1年をかけて戦うことが重要であるとも指摘されました」

「チャンピオンシップから多くを学んだ」(村井チェアマン)

 こうした状況を受けて12日の理事会を迎えたわけだが、終了後に記者会見に臨んだ村井チェアマンは、前執行部の決断に敬意を表しながらこう語っている。

「確かに2013年のときの大東さん、もしくは執行部が2ステージ制を発表したときに『一定の期間やります』と発表したかもしれませんし、私としてもそのような発表があったことをある程度認識しつつ、大東さんがなされた苦渋の決断を2年で撤回することに対してすごく葛藤はありましたが、日本のサッカーがよりよくなるために、今回が意思決定するタイミングであると自分のなかで決めました。

 ファンやサポーターの皆さまに関しては、本当に多くの議論をいただきましたし、ある意味で賛否が真っ二つに分かれました。皆さまの多くがJリーグを愛し、ずっと支えてきていただいた方々であることもわかっております。この間、多くのファンやサポーターも方々も葛藤を抱えてきたと思いますが、それに対しては今後Jリーグが発展していくことで恩返しをしていきたいと思っております」

 言葉と言葉の合間から、状況的に待ったなしであることが伝わってくる。1ステージ制では本来なら“中だるみ”となる折り返し点で、昨シーズンは浦和レッズが史上初の無敗優勝を達成したファーストステージのヤマ場を迎えたことで新聞やテレビにおける露出量が激増し、公式ツイートのインプレッション数も10倍に達した。

 サンフレッチェ広島とガンバ大阪が対峙したチャンピオンシップ決勝は、TBS系列の地上波で生中継された第1戦が7パーセント、NHK総合の第2戦が10パーセントをそれぞれクリア。ゴールデンタイムにおいて、実に1800万人のファンが視聴した事実を村井チェアマンは2ステージ制の財産と強調する。

「決勝戦がいつ行われ、どこでタイトルが決まると事前にわかっている価値は、中継の準備ができる点も含めて、興行的な視点で非常に有利であることをあらためて認識しました。2ステージ制を何かに生かし、後世に伝えたいと考えるなかで、たとえばYBCルヴァンカップは決勝が事前に決まっているわけですから、チャンピオンシップから得た経験や知見、ノウハウをもっともっとつぎ込んでいくことで、いろいろな仕掛けをしていく。そこに関しては、チャンピオンシップから多くを学んだと思っております」

リピーターにならなかったライト層

 一定の成果を残した一方で、たとえば今シーズンの観客動員数は決して見逃せない変化が生じている。昨シーズンの同時期に比べて約5万3000人増となっているが、新設の市立吹田サッカースタジアム効果で約13万3000人増のガンバを除けば、全体的には横ばいどころか減少に転じている。

 Jリーグで屈指の観客動員数を誇る浦和レッズにしても、1試合の平均観客数は昨シーズンから約3000人も減少。TBS系列の地上波で生中継された1日のガンバとのセカンドステージ第14節は、首位攻防戦だったにもかかわらず、視聴率は1パーセント台に甘んじた。

 これらの現象が何を意味するのか。賛否を含めてメディアで報じられ、目新しく映った2ステージ制の効果もあってスタジアムへ足を運んだ、あるいはチャンネルを合わせた新規のファン、いわゆるライト層がリピーターにならなかったという偽らざる現実が、目の前ですでに進行していることに他ならない。

 村井チェアマンは理事会後の会見で、パフォーム・グループから得る巨額の放映権料を「我々に投資していただいたという認識」ととらえたうえで、Jリーグが進むべき道をこう説明している。

「Jリーグとしては『リッチになった』という観点ではなく、期待値に対してそれ以上の成長や魅力度を増していくことで、彼ら(パフォーム・グループ)の投資に応えていく必要があります」

 J1の大会方式変更やクラブへの配分金の変更だけではない。折り返し点で創設するサマーブレイク期間、外国籍選手の登録枠拡大、東京五輪世代の育成促進など、理事会で承認された施策は“あるべき姿”である1ステージ制に立ち返ったなかで、Jリーグがピッチの内外で発展・成長を遂げていかなければいけないという不退転の決意が、2016年10月12日こそが再出発の瞬間だという強い意思が込められている。

(取材・文:藤江直人)