外国籍選手枠の撤廃か。日本人選手の出場枠確保か

 3シーズンぶりに「1ステージ制」へ回帰することを決めたJリーグは、中長期的な強化策として外国籍選手の登録枠を拡大することも決めている。日本人選手の出場枠を確保し、ひいては日本代表を強化する意味でタブーとされてきた施策を導入するに至った背景に何があるのか。外国人枠を撤廃して10年になるドイツのブンデスリーガに、真の意味での代表強化につながるヒントを得ることができる。(取材・文:藤江直人)

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 これまでにも幾度となく、Jリーグの外国人枠を拡大してはどうか、という議論がもちあがってきた。しかし、そのたびにこんな反対意見が飛び交っては立ち消えになってきた。

「日本代表を強化するためにも外国人選手枠を制限して、日本人選手の出場枠を確保する必要がある」

 現状はJ1およびJ2において、外国籍選手を1クラブ当たり3人まで登録でき、さらにアジア枠、タイやベトナムなど8ヶ国のJリーグ提携国枠、アマチュア枠、20歳以下のC契約枠のなかから2人を登録できる。つまり『3プラス2』の保有が可能になっている。

 これを来たる2017シーズンから国籍を問われることなく『5』に拡大することが、12日の理事において全会一致で承認された。ベンチ入りできる人数はAFCの規定に合わせるため、現状の『3プラス1』に変更はない。それでも、ある意味の規制緩和にもたらされる効果に対して、Jリーグの村井満チェアマンはこんな期待を寄せている。

「Jリーグが世界水準に近づいていくためにも、レベルの高い外国籍選手を招聘することが極めて重要な打ち手となると認識している。日本人選手の出場枠を守るという考え方もありますが、厳しい競争のなかで出場枠を獲得していくということも、バランス論ではあるが進めていきたい」

 そのリーグの外国人枠の多寡と代表チームの強さは比例するのか、あるいは反比例するのか。日本のサッカーファンにとって馴染みの深いリーグに、実はヒントを得ることができる。

ブンデスリーガが設けている「ドイツ人枠」

 ドイツのブンデスリーガは2006‐07シーズンから、クラブの外国籍選手枠を撤廃している。今シーズンを見てもFW原口元気ヘルタ・ベルリン)、MF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)、MF香川真司(ボルシア・ドルトムント)らの日本代表をはじめとして、数多くの日本人選手が所属している背景もここにある。

 同時にブンデスリーガは「ドイツ人枠」を設けている。各クラブがドイツ国籍をもつ12人以上の選手と契約し、そのうち6人が地元で育成された選手でなければならないルールだ。いわゆる“逆転の発想”のもとで、ブンデスリーガにおけるドイツ人選手の比率は50%と、プレミアリーグにおけるイギリス人選手の34%、セリエAにおけるイタリア人選手の42%を大きく上回っている。

 その結果としてドイツ代表はどうなったのかといえば、2014年のワールドカップ・ブラジル大会の結果を振り返れば一目瞭然だろう。6大会ぶり4度目のワールドカップを天に掲げ、南米大陸開催の大会で初めて優勝したヨーロッパの国として歴史を塗り替えた。

 アルゼンチン代表との決勝戦で劇的な決勝ゴールを決めたMFマリオ・ゲッツェ(バイエルン・ミュンヘン)をはじめとして、MFメスト・エジル(アーセナル)、MFサミ・ケディラ(レアル・マドリー)らはいずれも「ドイツ人枠」のなかで頭角を現してきた選手たちだ。

 一連の育成改革をさかのぼっていくと、白星を挙げることなくグループリーグ敗退を喫した2000年のヨーロッパ選手権にたどり着く。ワールドカップでも2大会連続でベスト8止まりだった現実に危機感を抱いた、ドイツサッカー協会(DFB)のフランツ・ベッケンバウアー副会長はこう警鐘を鳴らした。

「このままではドイツは世界のトップから取り残されてしまう。大きな改革を施さなければいけない」

才能を逃さないDFBのシステム

 DFBの主導で結成されたプロジェクトチームはピラミッドの頂点となるA代表の集中強化ではなく、中長期的な視野に立って、ピラミッドの裾野となる底辺部分の根本的な改革に着手する。その第一歩が、ドイツ全土に計366ヶ所にわたって設立された育成センターとなる。

 施設そのものはスポーツシューレなど既存のものが利用されたが、たとえば人口わずか数百人規模の小さな村にまで目配せが可能になるネットワークを構築。将来を嘱望される子どもや一芸に秀でた子どもがいれば、すぐにDFBがピックアップできるシステムを作り上げた。

 いくつかの育成センターを統括するコーディネーターが地域の指導員と連携して、毎週末に行われる試合をこまめにチェック。目についた子どもたちが原則として月曜日に育成センターに集められ、DFBから派遣される指導者から個々の長所をさらに伸ばすメニューを与えられる。言うまでもなく、指導者は最上位となるS級ライセンスを所持している。

 さらに、ピックアップされたなかでさらに有望と見込まれた子どもたちは、今度は地域選抜として次のレベルの指導を受ける。366ヶ所の育成センターは実は20前後の地域に分けられていて、年間に6回程度、一堂に会して年代ごとに試合を行う。

 ここでもDFBや地域協会の技術委員が目を光らせ、そこにプロクラブのスカウトやエージェントたちも加わる。こうして育成センターと地域選抜の2つのハードルをクリアした子どもたちが、いわゆる「エリート」と呼ばれるようになる。そして、DFBは「エリート」の育成をブンデスリーガの各クラブに義務づけるシステムをも構築した。

 当然のことながら、DFBから求められるハードルも高くなる。たとえば選手寮。個室が完備され、栄養がしっかりと計算された食事が提供され、地域の学校と綿密に連携し、家庭教師による補習体制も整い、親代わりとなる寮長夫婦がいる生活環境が何よりも求められた。

オーストラリアも外国籍選手枠を撤廃

 いわゆる金の卵たちが暮らす選手寮は「エリートシューレ」と呼ばれ、DFBから星の数でランク付けされて公表されるので、各クラブも投資を惜しむことができない。優秀な逸材を選手としてだけでなく、人間としても成長させる環境がおのずと生まれていくわけだ。

 こうした循環が力強く脈打ち始めたと判断したこともあって、ブンデスリーガは10年前に「ドイツ人枠」を設けたのだろう。地元で育ってきたヒーローが6人もトップチームに名前を連ねることで、必然的に地域の人々の多くがスタジアムに足を運ぶようになる。結果として入場料収入も右肩上がりに増えていくので、再び投資に回せる原資が増える好循環が生まれる。

 外国籍選手枠の拡大に対して、Jクラブの代表取締役らで構成される実行委員会内では「日本人選手を15人以上保有していれば、それ以外のすべての選手が外国籍選手でもいい」という叩き台がまず提示された。議論の結果として今回は外国籍選手の登録枠を『5』に拡大することが決まったが、村井チェアマンは「本日の決定が最終的なものではない」とこう続ける。

「仮にACLでこの枠が拡大・緩和されるような状況になれば、Jリーグもそれに準じて広げていく。方向性としては、2017シーズンは5人を登録枠としましたが、今後は世界の趨勢を見ながら拡大・緩和させていくことも議論していく」

 アジアに目を移せば、オーストラリアのAリーグも外国籍選手枠を撤廃している。自国選手を12人以上登録すれば、その起用実績に応じてテレビ放映権料の分配金が増えるシステムが採用されていて、22歳以下の選手の出場時間は2倍としてカウントされるようになっている。

過保護的な施策が真の意味での育成につながるのか

 今回の外国籍選手の登録枠拡大が決定に至ったのも、イギリスの動画配信大手パフォーム・グループが提供するスポーツのライブストリーミングサービス『DAZN(ダ・ゾーン)』と締結した、2017シーズンから10年、総額約2100億円にのぼる巨額な放映権料契約を抜きには語れない。

 原資のケタが異なるほどに増えたことを受けて、必然的にJリーグから各Jクラブへの均等分配金や優勝賞金も大幅に増える。外国籍選手の獲得を含めて、強化に回せる予算が増えることを受けて議論が再燃。村井チェアマンも「世界選抜とまではいかないまでも、若いけれども将来有望な選手を含めて、多様性のあるリーグに変わっていけば」と将来的な青写真を思い描く。

 Jリーグの創成期を振り返れば、ラモン・ディアス(横浜マリノス)やアルシンド(鹿島アントラーズ)、ドラガン・ストイコビッチ(名古屋グランパス)といったビッグネームが特に攻撃陣を中心として集結。結果として日本人のディフェンダーが鍛えられる好循環を生んだ。

 ひとつのJクラブが保有できる選手数が限られている状況で外国籍選手の登録枠を拡大すれば、それだけ日本人選手に“しわ寄せ”がくる可能性は確かに否定できない。しかし、過保護的に出場枠を保証することが、果たして真の意味での育成につながるのか。

 アジアとヨーロッパとでは置かれた環境が異なるかもしれない。それでも、逆転の発想で外国人枠を撤廃し、自国の有望選手をピラミッドの底辺から育成できるシステムを10年と経たないうちに完成させ、ゲルマン魂とフィジカルの強さを前面に押し出したかつての質実剛健のスタイルから完全に脱皮。再び世界の頂点に立ったドイツというまたとない手本がすぐ身近にあることを、忘れてはならないはずだ。

(取材・文:藤江直人)