ともに日本代表の常連である両守護神

 10月15日、埼玉スタジアムでルヴァンカップ決勝が開催され、PK戦で浦和レッズガンバ大阪を下し、13年ぶりの同大会(以前はヤマザキナビスコカップ)制覇を果たした。120分で決着がつかない締まりのあるゲームとなったが、その要因の一つとして、浦和・西川とG大阪東口、両GKの働きが挙げられるだろう。試合後に2人が語った言葉から、同試合3つの分岐点を紐解く。(取材・文:舩木渉)

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 Jリーグのクラブにとって3大タイトルのひとつ、YBCルヴァンカップ(旧ヤマザキナビスコカップ)の決勝が15日に行われた。PK戦までもつれた激戦の末、浦和レッズがガンバ大阪を退けて13年ぶり2度目の戴冠を果たしている。

 両クラブの対戦は、ここ数年重要な局面で何度も訪れ、そのたびに好ゲームを演じてきた。今回もその例に漏れず最後まで手に汗握るギリギリのせめぎ合いが続き、5万人以上の観客を魅了した。

 その熱戦を演出した要素のひとつの要素に、両チームのGKが挙げられる。浦和レッズの西川周作とガンバ大阪の東口順昭。ともに日本代表の常連でもある守護神は、その実力にふさわしいパフォーマンスでチームを最後方から支えた。この2人でなければゴールはもっと増えて、違った展開になっていただろう。

 そんな2人が試合後に勝負の分かれ目となった3つの場面についてGKの目線で語ってくれた。

1つ目の分岐点:アデミウソンの先制ゴール

 1つ目の分岐点は17分のガンバ大阪が先制したシーンだ。ピッチ中央でボールを奪ったアデミウソンがそのままドリブルで独走し、ゴールを奪った。ブラジル人アタッカーの個の力がクローズアップされがちな場面だが、GK目線で見ると技術的にもメンタル的にも非常に興味深い1点だったことが見えてくる。

 アデミウソンは自らのゴールについて「ディフェンスの選手があきらめず僕についてきていたので、西川も最後の最後まで味方のサポートを待っていたはず。あとは僕がドリブルしていく中で、ミスを待っていたと思う。だけど、ドリブルのコントロールがうまくいって、きっちりGKを外して決めることができた」と振り返る。

 西川はこの場面、アデミウソンとの距離をそれほど詰めようとせず、体を大きく広げてシュートコースを限定しながら、シュートが放たれるまで動かなかった。足を止めて、相手にタイミングを外されても即座に対応できるよう駆け引きしていた。

 結果はアデミウソンの粘り勝ち。西川はシュートを決められてしまった。しかし、GKとしてこの対応が間違っていたわけではない。実はこの場面で「これが正解」と断言できる選択肢はない。GKそれぞれのスタイルや間合い、能力によって「正解」の対応はそれぞれ変わってくる。

 実際にG大阪側から見ていた東口は、自分ならアデミウソンの突破に対してどんなプレーを選択するか語ってくれた。

「ドリブルが足についていない時点でできるだけ距離を詰めて、体から突っ込むしかないかなと。正面からドリブルされていたのでGKとしてはなかなか角度が作れなかった。ちょっと難しい場面ではあったと思います。(西川は足を止めたが)それをもうちょっと早いタイミングで突っ込みにいってもよかったかな」

 ほぼゴールの正面から向かってきた選手には多くの選択肢がある。対峙する選手1人でシュートコースを限定するのは難しく、不用意に突っ込めば簡単にかわされてしまうかもしれない。それでも東口は相手がボールを自分のものにできていない瞬間を素早く判断し、距離を詰めて選択肢を削りにいくと述べる。機動力があって思い切りの良さが光る東口らしい考えだろう。

2つ目の分岐点:同点ゴールを生んだコーナーキック

 一方の西川は、予想に反しての失点にもかかわらず浦和にはポジティブなゴールだったと語った。「失点してもみんな慌てていなかったので、大丈夫だなと思いました。ピンチも流れの中から何度かありましたけど、このチームには2失点目をしなければ絶対に逆転できる力があると思っているので、リーグ戦だったり準々決勝や準決勝の経験が生きました」と、1点失っても気持ちを落とさなかったことでチームの強さを確認したという。そしてこのポジティブさが次のゴールを生んだ。

 それは東口が「勝負の分かれ目」に挙げた、浦和のゴールシーンだった。76分、途中出場でピッチに立ったばかりの李忠成が柏木陽介のコーナーキックに頭で合わせてゴールネットを揺らした。この1点がなければPK戦にもつれることもなかったはずの1点だ。

 ただのセットプレーからの失点に思えるが、状況を整理するとG大阪にとって非常に難しい場面だったことがわかる。浦和はこの時点ですでに交代枠をすべて使い切っており、身長の低い武藤雄樹と高木俊幸に代わって、ともに180cmオーバーのズラタンと李忠成がピッチに立っていた。

 彼らがコーナーキックのためにペナルティエリアに入ることでマークのずれや身長のミスマッチを誘発する。実際に李のマークについていた米倉恒貴は身長176cmで、ミスマッチが起こっていた。完璧な形でヘディングされてしまったのはそれだけが原因ではないが、ひとつの不安要素になりうる。

 また、東口は別のポイントでこの失点を悔やむ。「外されたというよりは自分の判断が……飛び出すなら触りにいかなければいけなかったし、それが中途半端になってしまった。その前に止めていただけに、すごくもったいない失点だった。そこが勝負の分かれ目だったと思う」と、飛び出した自分のポジショニングに言及した。

 もっと細かい局面に限定すれば「無理やり出たら先に触られた感じ」だという。実際に東口はこの試合で浦和のサイドからのクロスを強く警戒していた。どのクロスにも早めにリアクションして味方に任せるか自分でいくか、ある程度予測した上で積極的に飛び出してキャッチしていた。

「浮いたボールはもちろん狙っていましたし、切り込まれてゴールを横切るボールも気にしていた。そこを通されたら確実に入れられるようなシーンになってしまう」

 浦和は両サイドからのクロス、あるいはサイドから切り込んで中央へボールを供給する形が多かった。前線は3トップに近い形で、サイドの選手がボールを持てば確実に全員ペナルティエリア内まで侵入してくるため、GKから見るとニアサイドからファーサイドまで幅広くターゲットをケアしなければいけない難しい状況になる。それを警戒するあまり、クロスに対するターゲットの身長が高くなったことで中途半端な対応になってしまったのかもしれない。

3つ目の分岐点:PK戦

 3つ目の分岐点はもちろんPK戦だ。結果だけ見れば、G大阪の呉屋大翔が失敗して浦和レッズが勝利したとなるが、GKの戦いは主審との打ち合わせから始まっていた。

 東口はPK戦開始の時点ですでにイエローカードを1枚もらっていたため、主審から「早いタイミングで足を(前に)出してはいけない」と警告されたという。それを受けて「先に(前へ)動くことは許されなかった」と東口は明かした。

 PKの際、GKはキッカーがボールを蹴る瞬間までゴールライン上にいなければならず、前に出て距離を詰めてしまうと蹴り直しが命じられる。そこに今年6月から改訂された新競技規則では「PKにおいて、ボールが蹴られる前にGKがゴールラインから離れるなどの違反をし得点にならなかった場合、GKは警告される」という罰則が加えられたため、東口にとっては油断できない状況になっていたのだ。

 西川はその時の2人の心境を「僕はまだイエローカードをもらっていなかった。逆に東口選手は1枚もらっていて、レフェリーにPK戦が始まる前に注意されていたので、僕より東口選手の方がプレッシャーはあったんじゃないかと思う」と分析した。

 審判との駆け引きもありながらPK戦が始まる。3人目までは両チームとも全員成功させたが、先攻のG大阪の4人目、呉屋の蹴ったボールはコースが甘くなり、相手の蹴る瞬間まで動かず待っていた西川の右足にセーブされた。結局この1本が浦和を勝利に導いた。

 これまでPKが苦手とされてきた2人の戦いは、西川に軍配が挙がった。なんと浦和加入後初めてのPKストップだったという。しかし、そこには明確な戦略とアプローチの変化があった。西川は語る。

「絶対に1本は真ん中にくるなと思っていたので、1本目も蹴られたボールに対していこうと思っていた。多少反応が遅れても、その後のキッカーに対してプレッシャーを与えられると思っていた。PK戦は先をイメージしながら、今野選手が真ん中に来た時点で次は動かないようにと決めたので、自分を信じて良かった」

「向こうの意識的にも西川はサイドに飛ぶという情報が入っていたかもしれないですし、いままでがそうだった。ここでしっかりと真ん中をケアすることで、これからのPKにまたひとつデータが増えたということでプレッシャーにもなると思いますし、基本を大事にして良かった」

素晴らしいコースにPKを沈めた浦和の選手たち

 G大阪の1人目、藤本淳吾はゴール右下に蹴って成功。2人目の今野泰幸が、西川の読み通り真ん中に蹴ってきた。ここで3人目以降のキッカーが真ん中に蹴らないと確信し、相手が蹴る瞬間までしっかりと見極めて飛ぶ方向を決めるようにしたことが4人目でのPKストップにつながった。

 もしこれまで通りある程度予測を立てた上でサイドに飛び続けていれば、コースが甘くなって真ん中に入ってきた呉屋のPKを止められていなかったかもしれない。

 東口にとっては難しいPK戦だった。新ルールによる警告について「できるだけ我慢して飛ぼうというのは最初から決めていたので、何ら問題はなかった」と述べたが、何度かギリギリまで待ったことで飛びきれていない場面もあった。

「サイドネット(にくるPK)はしょうがないので、コースが甘くなったのを取れるようにできるだけ我慢して、真ん中に蹴ってくる選手もいますし、そこで取れるようにやっていました。なかなかそんなルーズボールはこなかったですけど…」

 その通り、浦和の選手は全員素晴らしいコースにPKを蹴っていた。1人目の阿部勇樹と2人目のズラタンは左下に速いボールを突き刺し、同じ方向に飛んでいた東口の反応を上回った。3人目の興梠慎三は巧みにGKのタイミングを外し、4人目の李忠成と5人目の遠藤航はどんなGKでも触るのすら難しいサイドネットの奥へ強いシュートを蹴った。東口が「しょうがない」と捨てていたところだ。

 相手の蹴るコースによって自分がどう動くかデータに基づいてきっちりと戦略を立てていた西川と、警告によって動きを制限されながら熟練のPKキッカーたちに立ち向かっていった東口。一見すると簡単そうに見えるPKの奥深さと難しさを示したハイレベルな争いだった。

 今回はPK戦の末タイトルを譲った東口は「(西川は)ライバルですし、越えていかなければいけない存在ではありますけど、結局自分がいいプレーをしないとその舞台(日本代表)には立てない」と語る。両者の間にあるのはほんの少しの差でしかない。今回は西川が上回っただけであり、2人の競争はJリーグだけでなく、日本代表でも続いていく。

(取材・文:舩木渉)